中国-China
【アツユ】
JISにない文字のため、漢字表記を省きます。『淮南子』に登場する怪物。この手の怪物の図鑑のようなところのある『山海経』にも当然のように出ています。もとは天の人面蛇身の神々の一柱であったらしいのですが、ある時弐負という者の企みにかかって殺されてしまいました。何とか手当をして生き返らせたものの、性格がかわってしまい、崑崙の麓を流れる弱水に飛び込んで水棲の怪物になってしまったのだそうです。どうやら姿もこの時に変化したらしく、怪物としてのアツユは人面牛身、但し蹄は馬のように割れていない蹄です。詳細については諸説ありますが、人喰いという点については間違いないようです。
【ウォンロン】 黄龍
宋の時代には五方(東西南北中央)それぞれに相応する色を持つ龍がいると考えられていました。このうち、中央にあって黄色い龍王が黄龍という事になります。宋の徽宗によって孚応王に封じられました。
【カイチ】
善悪を正しく識別できるという不思議な獣。青い毛に覆われ、羊にも熊にも似ており、一本の太い角を持っています。争っている者がいれば、正しくない側を角で触れ、法廷で偽りを述べる者は、走り寄って角で突くと言われています。
【カイメイジュウ】 開明獣
崑崙の門を守る聖獣。智慧を開くもので、ちょっとスフィンクスに似ていなくもありません。虎のように大きな体で九頭、しかも人の顔を持ちます。
【カウ】 火烏
太陽の中にいる烏。陽気が凝り固まったものなので、脚は三本あります(奇数が陽、偶数が陰だからです)。
【カガンキンセイジュウ】 火眼金睛獣
金色の瞳、赤い眼をした獣で、水を分けて進む力を持っています。牛魔王のような妖怪や、封神演義に出てくる様々な真人の乗騎として登場します。
【カクエン】 獲猿
七尺ほどもある大きな猿。という事は、2メートル以上でしょうか。馬化ともいいます。蜀(現在の四川省)の西南部山中に棲み、人間の女を獲って交わって子を産ませます。互いの腰を縄で繋いでいても、美人を狙って獲いとるというのですから、難儀な事です。どうも獲猿には雌がいないらしいのですね。で、子孫を残すために女をさらうのだとか。といっても、生まれた子供は獲猿というより人間らしい姿だそうですし、男の子を産んだ女は里に戻されます。また、子供を育てきれないと何故か女も死んでしまいます。子供は楊という姓を名乗るようになるそうです。
男の子を産めない場合はいつまでも帰してもらえません。そのまま十年もたつと、姿も獲猿に似て、人間らしくものを考える事もできなくなり、帰ろうと思わなくなるとか。
また、猿がうんと年を取る、つまり千年以上(一説に千三百年)も生きると獲猿になるともいい、また、人間が何かのはずみで獲猿になる事もあるそうです。
【カソ】 火鼠
南方に昼夜燃え続けている山があり、その火の中には不尽木という決して燃えない樹があって、そこに棲んでいる鼠がこれ。当然、火の中にいても死にません。一種の火の精でもあり、同類の火鴉、火馬などと共に、南方火徳星君や華光といった火神に飼われていたりもします。
さて、不尽木の樹皮からは火浣布なる絶対燃えない布が作られるんですが、火鼠の皮も同じく燃えない材質であるはずですね。その皮で作った衣を欲しがってみせた人が日本の物語にはいました。すなわち、かぐや姫です。彼女が求婚者に与えた難題の一つが、これを入手する事でした。
【カンテイセイクン】 関帝聖君
関聖帝君の事だと思います (^^;。略して関帝。中国人の間で広く信仰されている神ですが、前身は実在の人物で、『三国志』で有名な関羽です。蜀をたてた劉備、そして張飛と義兄弟の契りを結び、三国の建国者のなかでは一番芽の出るのが遅かった劉備のため、大活躍した英雄でした。魏をたてた曹操にも見込まれ、虜囚となりながらも客将の扱いで大変優遇されたにも関わらず、劉備への義理を貫き通したという、よく言えば美徳の人、悪く言えば頑固な男です。黒く美しい髯を蓄えていたため、美髯公とも渾名されました。
生きていた時の経歴からは当然の事ですが、まず武神としての性格を持ちます。特に清朝では建国以来、戦いに於いては関帝の神助があったとして、王室の守護神とみなされました。このため、清朝で全国的に信仰されるようになります。また、韓国と台湾でも民族的な英雄神として崇められています。
次に、儒教の守護神でもあります。もともと劉備に会うまでは学者だった人で、『春秋』を常に読んでいたといい、徳に篤かった事は前述の通りですから、これも当然と言えましょう。
また、算盤や商売の帳簿を発明したとされ、商売繁盛の神としても信仰を集めています。世界中どこの中国人街に行っても、関帝廟があるといわれるほどです。
【9ビノキツネ】 Kyu-bi no kitsune 九尾の狐
狐が年取ると仙狐とか狐神になりますが、狐だって良い奴がいれば悪い奴もいるわけで、悪いのが妖狐とか狐怪になります。瑞獣として九尾の白狐があげられているかと思えば、『山海経』などに伝えられる九尾の狐は、虎のような爪を持ち、赤ん坊のような声で鳴き、人を喰うのだとか。ものによっては、首まで九つあるという怪異なのもいます。『封神演義』にもこの類の狐精が登場し、妲己という美女に化けて紂王の愛妾となり、さんざん殷の宮廷を乱しました。
狐という獣が広く分布していたためなのか、中国の文化の流出とともに広まったものか、朝鮮半島から日本にかけても、九尾の狐にまつわる物語は幾つか伝えられているようです。
〔参照〕 九尾狐、仙狐、玉藻前
【キリン】 麒麟
獣の王。頭に角を一本頂き、麕(のろ)の体と牛の尾を持ちます。『礼記』では四霊獣の一として、西に置かれます。雄を麒、雌を麟であるとする説もあります。鳴き声は音律に沿い、後代になると、生きているものは草までも踏まない、と云われるようになりました。皇帝が徳高い時に出現する霊獣でもあります。後代、チンギス・ハーンの前に現れ、帰国を促したた角端(カクタン)も、麒麟の一種であると考えられています。
【ゲンジョウ】 玄奘
もとは金蝉(コンゼン)という、釈迦如来の二番弟子であったが、仏法を受け入れなかったために下界に生まれ変わる事となりました。陳光慈の子として生まれたものの、父が殺されてしまい、赤ん坊の身で板に乗せて川に流され、金山寺で養われました。ここで僧侶となり、玄奘の法名を得ました。徳行高く、仏道仙道の両方に通じた僧として、名声を得ていました。インドに大乗仏教の経典を取りに行く誓いを立て、三蔵という法号を授けられ、経典をインドから持ち帰るための困難な旅を完遂しました。
【ゲンブ】 玄武
甲虫(甲羅を持つ全ての生物。虫は昆虫ではなく生物を意味します)の王。頭と尾が蛇である亀。あるいは蛇の巻き付いた亀。未来を予知する力があり、『礼記』では四霊獣の一として、北に置かれます。
【ケンレンタイショウ】 捲簾大将
もともとは、天界で玉帝の車に付き従っていた武官。大将というからには相当の位に思えますが、捲簾は、「すだれをまきあげる」という意味です。しかも、蟠桃会の時に玉帝の杯を倒した罪で笞打ち八百回の末、地上に落とされるという目にあっている事を考えると、名は大将でも、実質、お側付きの侍のようなものだったかもしれません。
地上での姿は、青黒い顔に、はだし、骨と皮ばかりの体つき、爛々と光る目と鋭い歯と裂けた口をしていて、赤い髪を振り乱しているという凄まじいものです。人を食べて生きていましたが、玄奘がインドへお経を取りに行く供をする事になり、南海菩薩から沙悟浄という法名を与えられました。また、拝礼する様子が和尚のようだという理由で、沙和尚とも呼ばれるようになりました。
武器は、降妖宝杖。仏弟子となってからは黄色い錦の法衣をまとっています。また、赤い蓬髪も、剃髪しています。
【コウ】 蛟
『山海経』には池の魚が二千六百匹を越えると、蛟が来てその統領になるとあります。従って、水界を治め得る精霊という事になります。また、『五雑俎』には不意に起こる暴風雨は蛟が暴れるせいであるとあり、風雨とも関係の深いものです。一説に、まだ天に昇れない龍。山中の洞穴などに棲み、長い年月を経て神通力を得ると、龍となって天を翔ける事ができるようになるのだとか。
龍と違って尊重される事はなかったようで、この点でも龍に劣る存在だったわけです。
なお、『幽明録』には、蛟の髄が薬になる事が記されています。見たところは牛脂に似ているといいますので、白くてねっとりとした感じなのでしょう。顔に塗ると肌がつやつやとし、妊婦に用いればお産が軽くなるそうです。
【コウテイ】 Huang-ti 黄帝
軒轅。各種の技術や文化を導入した偉大な王。列子によれば、その長い治世の間、五感の愉しみを極めたあげくに顔色が薄黄色なってきたと言われていますが、それで黄帝と呼ばれるようになったのだとすると、冴えないような。五行では黄色といえば中央の色ですから、これが関係していると考えた方がかっこいいなあ。初めて「道(タオ)」を究め、昇仙した人でもある。
『左伝』には雲を支配するものであるから雲師と名づけられるとあり、また息女には旱の女神である魃がいます。雲神あるいは雨神としての性格も持っていそうです。
【サンキ】 Shang-Hui 山キ(キは獣偏に軍)
獄法山に棲む人間の頭を持つ犬に似た獣。人間を見れば笑い声のような声をあげます。大変素早く動き、また、高く跳躍する。これが現れると大風が起こります。一種の風怪なのでしょう。
【サンショウ】 山[鬼肖] ( [ ] 内は本来一文字)
樹怪。大変背が高く、熟した瓜のような色の顔をして、眼は爛々と光り、まばらな長い歯がはえた大きな口をしているとか。一本足だといわれます。特にどの樹の精と限定されているわけではにらしく、樹木の怪物をこの名前で呼ぶらしいです。大抵は山に棲んでいますが、これは大木のあるのが山である事が多いからかもしれません。
【ショウキ】 鍾馗
科挙に落第したため、石塔で頭を砕いて自殺した人だという事です。それを気の毒に思った高祖が、進士の視覚を授け、手厚く葬ったため、玄宗の時に宮殿に出現した妖怪を追い払ってその恩を返しました。この時は、進士のしるしである緑衣をまとった偉丈夫の姿で出現しました。従って、本来文官のはずですが、妖怪退治をしたためか、武人のようにみなされているんですね。
怖い形相をした鍾馗の絵を門口に貼っておくと、疫病を防ぐという信仰があり、これが日本に入って、端午の節句に男の子の病気を防ぐ事を祈念して鍾馗を飾る風習が始まったようです。
【ショウジョウ】 Hsing-hsing 猩々
白面紅毛の猿に似た獣。山に棲み、酒を好み、人間のように直立歩行する。また、人の言葉を解するとも云われます。中国から日本にわたって分布しているようで、時に女をさらったり、一種の猿神として乙女の人身御供を求めたりする事もある。
【ショクイン】 燭陰
鍾山に棲む龍神。燭龍とも呼びます。この神が眼を開くと世界中が明るくなり、昼となります。閉じれば世界中が暗くなってよるになります。また、息を強く吹けば寒くなって冬となり、口を開いて呼ぶと暑くなって夏になるのだとか。
また『元中記』では、この山の頂に人間の頭そっくりの石神があるといい、左の眼が太陽で右の眼が月であり、左右の眼を交互に開くともいいます。その口が開いている時は春と夏であり、閉じていれば秋と冬なのだそうです。
【スザク】 朱雀
四神のうち南を守るものです。鳳凰とほぼ同種の霊鳥です。
【セイオウボ】 西王母
九霊太妙亀山金母、太霊九光亀台金母、金母元君。西華至妙の気から化生し、西方を治める女神で、全ての女仙を支配し、亀山の崑崙玄圃にある宮殿(瑶池を含むため、瑶池とも呼ばれる事があります)に住んでいます。また、ここには蟠桃園という園があり、何万本もの仙桃の木が植わっています。
元来日の女神あるいは朝日の女神である東母と対をなす西母で、月母とも呼ばれ、夕陽の女神または月の女神であったようですが、後代、東方には東岳大帝である東王父が立ち、西王母と対偶神になりました。
『山海経』では虎のような歯と豹の尾を持つとありますが、伊藤清司は、これを西方または崑崙を守る虎身の神の姿であって、西王母のものではないという見解を示しています。逆に、本来は虎身の怪物のような神であったものが、後に不老不死の妙薬を管理する女神と、その門口を守る虎神に分離したのかもしれません。崑崙の守護神とはおそらく、同じ『山海経』にある陸吾で、虎身九尾、人面虎爪を持つとされています。また、四神で西を守護するものが白虎であることも想起されます。
また、虎は陰の精であり、陽に棲むもので、五行の金にあたるとされています。陽の極地である桃の園に陰である女が住まいしている事は、これに通じるところもあるようにみえます。
【セイギュウカイ】 青牛怪
老子、つまり道教でいう太上老君を乗せる青牛です。つまり仙牛。こういった神や仙人に飼われている禽獣や器物は、しばしばその手元から逃げ出して下界で怪物になったりする事があるようで、この牛もその例にもれないようです。そうして、下界に降りたものが青牛怪というわけ。『西遊記』には独角ジ大王と立派な名前まで名乗っています。
【セイテンタイセイ】 斉天大聖
孫悟空です。天地開闢の頃、花果山の山頂にあった岩が霊気を受けて石の卵を産み、そこから生まれた石猿です。こういう生まれを持つものが通常の生き物である道理もなく、花果山の大将として猿どもの大王となり、その他の獣たちを支配する妖王たちを配下におさめ、、天帝の威さえ恐れず、ついに斉天大聖と名乗るようになりました。そうするうちに先行きが心配になって不老長生の法を学ぶため、仙術を学び、七十二般の変化の法を身に着け、ますます威を盛んにするのですが……その後天界で大暴れしたあげく、三蔵法師のお供をして天竺まで行く事になる物語は『西遊記』にある通りです。孫悟空の外観といえば、頭に金の環を填め、木綿の法衣と虎の皮の腰巻をまとい、金箍棒を担いでいるというのがメジャーですが、勿論、三蔵法師のお弟子になるまでは金の環なんぞは填めていません。仙術を学んでいますから、道服を着ていた事はあるかもしれませんが。また、如意金箍棒は、東海龍王から譲り受けたもので、悟空の思い通り、大きくも小さくもなるため、如意棒とも呼ばれます。
なお、斉天大聖の称号は、当初独角鬼にそそのかされて勝手に名乗ったものですが、孫悟空が一時期懐柔されて天帝に仕えていた時、特に帯びる事を許されました。従って、後には正式に認められた称号になっているようです。
仏弟子になってからは、三蔵法師から行者という法号をもらったので、孫行者と呼ばれる事もあります。
福建の方では孫大聖として各家庭に神として祀られている他、道観にも神像があるとか。つまり、道教の神でもあるんです。それが福建のあたりでは特に信仰を集めていたという事なのでしょう。雨乞いをしたり、この神像に祈って託宣を得たりするらしいんですね。また、清朝末期にも、病気平癒を祈願した祝詞などが記録に残っているそうで、なかなか御利益があったらしい事がうかがえます。
蒼龍とも。水族の王。雨を司る神。特に青い色をしているというより、五行で東方が青にあたるため、そこに配置された龍が青龍と呼ばれると考えられます。北宋の徽宗により、広仁王に封じられました。
頭は駱駝に似て鹿の角を備え、馬の頸、蛇の尾、魚の鱗を持ち、爪は鷹に似て掌は虎のよう、耳は牛であると云われます。四霊獣のうち最も尊く、東に置かれます。龍王としては東海を治めるもので、海底に宮殿を持ち、名は敖広または敖光であると伝えられています。
【タイホウ】 大鵬
大変に大きな霊鳥です。世界にただ一羽しかいません。翼を広げると太陽を遮り、はばたけば海でさえ干上がるほど。また、そうやって水を干し上げ、魚を食べると云います。また、一度羽ばたけば九万里飛ぶそうです。大変にプライドが高く、お釈迦様にすら頭を下げません。また、『西遊記』では孫悟空が、『封神演義』ではナタクをはじめ六人の英傑が打ってかかってもかなわなかったというつわものです。
なお、『封神演義』では大鵬金翅鳥といいますが、金翅鳥とはガルーダの事。大きさ、強さ、プライドの高さ、いずれも確かに共通するものがあるようです。
【チョトンダ】 猪豚蛇
怪蛇の一種という事になっているのですが、こいつには四本の足があります。だいたい三尺ほどで杵くらいの太さ。全身が毛に覆われ、豚のように鳴く。それでこういう名前がついたのでしょう。でも、この姿のどこをどうとれば蛇なんでしょう? 疾走して人に襲いかかり、呑もうとします。これに咬まれればまたたくまに命を落とします。
宋代に成俊という軍人がこれに遭遇し、方術を用いてしとめたところ、一塊りの血となってしまったと伝えられています。
とはいえ、杵くらいの太さのぶかっこうな蛇。これはノヅチを連想させるところもあります。何か関係があるのでしょうか。
【チン】 鴆
猛毒を持つ鳥。鴆が耕地の上を飛べば羽毛の間に溜まった痂皮なるものが飛び散り、作物はことごとく枯死してしまう。また、羽毛をとり、その付根を酒に浸しただけで、一口飲んでも死に至る毒酒に変えるという。中位の大きさの鳥で、色は紫黒、赤っぽい嘴を持ち、蛇を好んで食べる。
【テンセンニャンニャン】 天聖娘娘
一般にはこの称号を持つ女神は天聖聖母碧霞元君、すなわち碧霞元君です。泰山に住む東岳大帝の娘(玉女)であると言われ、同じく泰山の黄花洞に住んでいます。むしろ、東岳大帝よりも碧霞元君の方が泰山では信仰を集めていたというから、凄い。もともと本来は泰山の女神として碧霞元君の方が先にいたのが、父権的な信仰が盛んになって東岳大帝が登場したのか……? なんて考えもできそうですが、どうせ拝むのなら美人のがいいよな、ってのはいつの時代も一緒なのかも。
碧霞元君がどういう女神なのかには諸説があって、真宗が泰山に参詣した時とある池から泉が滾々と湧きだし、その底から玉女の像が出てきたのでこれを祀ったといったり、西崑真人について修行した女仙であるとも、華山の玉女だとも、後漢の明帝の時に石守堂の子玉葉として生まれ、七歳で西王母に見えた女仙、さらには山東省生まれの老という女道士が後に登仙したものともいいます。
なお、泰山は一名を天空山といい、碧霞元君の碧霞は青空に通じますから、この女神は空の女神なのかもしれません。
【テンホウゲンスイ】 天蓬元帥
天の川に配置されていた水軍を率いる元帥でした。このため、水中での戦いが得意です。酔った末、嫦娥に戯れかかった事を咎められて(セクハラ?)、地上に落とされた際、うっかり雌豚の胎内に入ったため、豚によく似た姿をしています。九歯のまぐわ(上宝沁金のまぐわ)を武器としています。多くの豚を殺し、山に入って、人を殺しては食べていました。また、後に猪剛鬣(ちょごうりょう)という名で高老荘の婿となっていました。南海菩薩に諭され、玄奘の供をする事になり、猪悟能という法名をもらいました。俗に、猪八戒という名で知られています。これは、玄奘を待つ間、五葷三厭あわせて八つのものを断ち、精進潔斎した事によります。仏弟子としては、高老荘を出る時にもらった青い錦の、後には黒の法衣をまとっています。
【トウテツ】 T'ao T'ieh 饕餮
「大食らい」「貪欲」を意味する。殷周時代には饕餮文と呼ばれるモチーフを用いた青銅器がありますが、それは人、竜、虎などの双頭が対称的に配され、六本の足を持つものです。これらは儀式用の器に彫られました。それでは怪物としてはどんなものであったかというと、『山海経』では牛か虎のような体つきをして人面を持ち、腋の下に眼があり、人を喰うと伝えています。白川静は『中国の神話』のなかで饕餮、檮ゴツ(JISにない文字なので感じを開きます)、陶誕などを同種の守護霊、トーテムとしての虎であり、殷周から楚に在ったものと考察しています。
外字でないと出せない文字なので、漢字表記がありません。御容赦。太子爺、太子元帥、羅車太子などと呼ばれます。道教では中壇元帥という称号も持ちます。風火車に乗った姿で表されます。道教では大羅仙の生まれ変わりで、神兵や神将を統帥すると考え、仏教では毘沙門天の太子だといいますが、『西遊記』と『封神演義』の両方に出演し、特に後者で活躍する英雄です。
生い立ちなども『封神演義』に詳しいのですが、それによると、殷の武将であった李靖の妻が不思議な夢を見たあとにみごもり、肉塊の形でこの世に産み落としました。これに人工の体を与え、息子として育てるのですが、元気どころか大変に乱暴な少年で、龍王の背の筋を抜いて腰帯にしたりと、悪さを重ねます。このためとうとう一度死んでしまい、再び母親の尽力で甦ると、周を助けて戦うべく、仙人にトレーニングされて無敵の戦士になるという、少年漫画の主人公もかくやの波瀾万丈な生涯を送るのでした。父親の李靖や兄弟も、『封神演義』では全員道家や仏家と関係の深いものとして、昇仙したり西方に渡ったりします。
少年の頃に一度死んで、人造の体に転生するため、その姿は常に童体であると考えられていたようです。但し常の童子ではなく、頭は三つ、腕は六本または八本あり、六種類の武器を同時に揮う事ができます。また、いろいろな姿に変身する事も可能です。武器の名と性格を順にあげると、斬妖剣、[石欠]妖刀、縛妖索(妖怪でも縛り上げられる綱)、降妖杵(杵型の武器)、綉毬児(敵に投げつける球形の武器)、火輪児または風火輪(火を噴く車輪。その上に乗って飛ぶ事もできる)。なお、[石欠]は石偏に欠と書く一文字ですが、例によってJISにない文字のため、やむをえず[ ]でくくってあらわしました。この他、生まれた時からその手に握っていた乾坤圏という環状の武器と混天綾という不思議な布、火尖槍などもお気に入りの武器です。
【ナントセイクン】 南斗星君
北斗星君に対して寿命や生命を司る神です。
【パイロン】 白龍
北宋の徽宗によって義済王に封じられた白龍神。西方に位置します。
【ハクジョウシ】 白娘子
杭州の西湖に伝わる伝説に登場する白蛇の精です。千年の道行を積んだ白蛇で、同じく千年の道行を積んだ青魚の精を供に連れています。生薬屋の番頭であった許宣に雨宿りさせてもらった縁で恋仲となり、いろいろと尽くそうとするのですが、彼に与える金や品物は全て盗んだものであるので、何かと許青年は面倒に巻きこまれます。大変な妖力の持主で、ちょっとやそっとの道士では太刀打ちできません。後に法海とは、水族を率いて戦うといった挿話もあり、水とも大変関係が深いです。
ついには、浄慈寺の僧、法海が許青年に授けた鉢に伏せ込められ、法海自身に捕らわれた青魚の精ともども、雷峰塔に封印されてしまうのです。
京劇や弾詞、鼓詞のような語り物、民謡などに『白蛇伝』としてその物語は長く親しまれました。
なお、白は吉祥の色であり、そのため、白蛇は帝王の現れる前兆として尊ばれました。また、秋を支配する白帝も、蛇身であると伝えられています。
【ハクタク】 白澤
人語を話し、しかも万象に通暁している獣。黄帝が東海地方で出会い、鬼神や妖怪、鬼物など1万1千5百20種についての知識を授けられました。黄帝はそれら全てを絵図に描かせ、これを白澤図と称しました。白澤図及び同じく鬼神や妖怪の事を網羅した『百鬼録』『九鼎記』に通じてさえいれば、妖怪も鬼神も自ずから退散すると伝えられています。
【ハチダイオウ】 八大王
鼈。べつ。川に棲むスッポンの精です。しかも、大王とある通り、鼈の王なんですね。酒が好きらしく、人に化けて酒を飲み、泥酔したりもします。小人の形をした鼈宝というものを持っていて、これはどうやら金銀をみつける能力があり、しかもそれを人間の体内に埋めてその能力を授ける事もできるらしい。但し、あまり長い間体内に入れておくのは血に悪く、寿命を縮めるそうですので、授かる機会があった時は、返せと言われた時に素直に返しましょう。
【ヒッポウ】 畢方
一本足の鶴のような鳥で、赤い斑のある青い色をし、嘴は白。これが飛来するとたちまち火事が起こります。『淮南子』には「木は畢方を生ずる」と記されているそうです。無論木を擦り合わせれば火が生じますから、畢方は火怪というより、火精、あるいは山火事の化生したものなのかもしれませんね。
【ビャッコ】 白虎
白い虎精。西王母の使者であり、四神の一柱として西に置かれます。
【フクロクジュ】 福禄寿
東方海上、蓬莱島に棲む三つの星。福星、禄星、寿星です。但し、まとめて一人の福神としても数え、日本では宝船の七福神にも入れられています。
【ホウオウ】 鳳凰
鳥の王。風精。天帝の使者。全体的に赤く、胴体の前半分は雌の麒麟、後半分は鹿に似ており、頸は蛇、尾は魚、竜のような模様があり、背は亀のようで顎が燕、嘴は雉そっくり……と『説文』で説明されているそうです。キマイラもびっくりの複雑さですね。原型についても、フェニックスであるとか、孔雀であるとか、雉であるとか、いろいろな説があります。竹の実を食べ、甘露を飲み、梧桐にしかとまらないと云われます。
舜の時に、祭祀で音楽を奏すると祖霊とともに現れたと伝えられており、古来鳥が霊魂を運ぶものとして考えられてきたように、鳳凰もまた、その役目を負うものであった可能性が考えられます。
『礼記』では四霊獣の一と説明され、南に配置されます。このため、火性です。厳密には鳳が雄、凰が雌であるとされ、他に鸞という近種もいます。また、皇后の象徴として用いられました。
【ホクトセイクン】 北斗星君
北斗真君とも。北極星を天帝とした時、それを巡る北極星を天帝の兵車とみなします。北斗を構成する星のひとつひとつがそれぞれ別個の星の神でありながら、北斗全体についても北斗星君という神を想定し、死と運命を司るものと考えました。福徳や財福を定める力もあり、信仰すれば長生や健康を得たり凶気を祓ったりできるなどとされた他、罪人を裁いたり地獄に封じたりすると説いた本もあります。何しろ地平線下に沈む事がないので、始終人間界を見下ろしては賞罰を与えるのに適した神だったのかもしれません。
道教では東西南北及び中央にそれぞれ斗星をあてましたが、中でも北斗星君が、次くらいに南斗星君が信仰を集めていたようです。有名な話として、夭折の相のある若者が管輅(かんろ)という人に教えられて桑の木の下で碁を打っていた北斗と南斗に食事と酒を捧げ、寿命を延命してもらったというものがあります。この時、北斗は若者を怒鳴りつけてしまうのですが、飲み食いしちゃったんだから、と南斗がとりなしてくれます。実際に延命の措置をとったのも南斗なんですが、管輅に言わせると、死を司る北斗に願いをかけなければならないのだという事で、斗星のうちでもやはり北斗が一番重要視されていたようです。
ところで、北斗星は一度捕獲され、天から喪われた事があります。唐の時代、一行という僧が恩ある人の息子を刑死から救うために一計を案じて、人為的に天変地異をあらわす事にしました。どうやったかというと、とある廃園に正午から夕方にかけて現れる七匹の豚を捕らえ、甕に封印してしまったのです。その夜は北斗星が現れず、大変な騒ぎになったのでした。この天変に対するには大赦が必要であると奏上して目的の人を救ったわけですが、それはともかくとして、どうやらこの豚が北斗星だったようなのですね。何ともはや。
【マソ】 媽祖
台湾の海の女神です。もともとは、黙娘という名前の人間の女性でした。この女性は、漁師の家に、産声をあげる事なく生まれたため、このような名前をつけられましたが、幼い頃から大変な才媛であり、後に、嵐の海で遭難した父と兄のうち、兄を不思議な力で救ったのだそうです。残念ながら父親を助ける事はできませんでしたが、それ以来、海で難儀な目にあっている漁師には助けの手をさしのべるようになり、26歳の時に山に入って消息が知れなくなりました。そして、女神に祀られるようになり、現在では台湾で大変な尊崇を集めています。
近くは第二次大戦の時にも、空に幻となって現れ、爆撃から台湾人を守ったと言い伝えられています。旧暦3月には、台湾各地で盛大に、生誕祭が執り行われます。
【モウリョウ】 魍魎
山や河に棲む精霊です。また、中国では疫神でもあるようです。黄帝の曾孫にあたる三兄弟が死んでから疫神になったのですが、そのうちの一人が若水(じゃくすい)に棲んで魍魎と呼ばれるとか。ちなみに、兄弟の他の二人は瘧(おこり)の神と、子供に夜泣きやひきつけを起こさせる神です。日本で節分に鬼を祓うように、正月、追儺の儀式をしてこの三神を祓う事が行われました。
【リュウメ】 龍馬
西海竜王敖閏の息子、玉龍で、本来は竜なのですが、竜宮で火事をおこして御殿の珠を焼失してしまったため、父によって天に訴えられ、三百叩きの末、死を賜る事になっていました。それを償うために、南海菩薩によって白馬となって玄奘の乗馬となる事に決まりました。龍が化身した馬なので、龍馬と称されるのでしょう。