エジプト-Egypt
【アヌビス】 Anubis [inpw]
ジャッカルの頭を持つ葬祭神。台座(箱)の上に寝そべる黒犬の姿でも表される。アンクを持ち、人身の場合はこれに加えて椰子の葉を手にしている事もある。オシリス以前には、葬祭はアヌビスを中心に行われた。ミイラ製作者を後援するもの。墓の守護者。起源としては、墓地をうろつく犬であろうと考えられている。この姿が、墓地の守護者である神的な犬に発展した。また、オシリス神話においては、切断されたオシリスの体を集めるために真先にイシスに協力し、その体を組み立てたとされる。ミイラ製作者との関係はここに発する。また、当然のなりゆきとして、オシリスの敵と戦うものでもある。死者が冥界に降りた時には、その魂が計量される時に、トートと並んで死者を裁く役目も果たす。
オシリス信仰が地中海一帯に伝播すると、アヌビスはイシスの祭儀で死者の霊魂を導く者となり、ヘルメスの杖カドウケスと棕櫚の枝を手にした犬頭の男として表されるようになった。このため、ヘルメスまたはメルクリウスと同一視された。
『アヌビスの門』 ティム・パワーズ(ハヤカワ文庫FT)
【アピス】 Apis [h(a)py]
月と関連の深い雄牛神。後にはオシリスとも結びつけられた。発情期の雌牛が月光によって孕み、産み落としたとされる。雄牛の姿である事は当然として、雄牛の頭を持つ人間、あるいはミイラとして表現される事もある。その色は黒と白。注目すべき事は、アピスが(必ずその名を与えられた)生きた雄牛であった事であろう。アピスは祭儀によって(おそらく)殺され、埋葬されるが、再び次のアピスたる雄牛が現在ではよくわかっていない綿密な基準によって選び出されるのである。
アピスの役割はまず、豊饒神としてのもので、造物主たるプタハに先んじて現れる「プタハの先触れ」である。豊饒神がしばしばそうであるように、アピスもまた様々な神と結びつきを持つようになった。特にオシリス(従って葬祭の神話)と深く結びつき、オシリス=アピスは、ギリシアに入ってセラピスとなった。
【アピペ】 Apep,Apophis [(a)(e)pp]
よく知られたギリシャ名はアポピスであり、エジプトではアペプと呼ばれる。ゲームではアピペという名前で登場するが、ヒエログリフによる表記では母音が曖昧であるため、アピペでもおかしいとはいえないだろう。語源的には「巨大なもの」を意味している。
闇の蛇。夜の間、冥界を通り抜ける太陽神(アトゥム)を攻撃するもの。その元素は水と土であり、闇そのものでもある。蛇としての色は黒と黄。ウラエウス(コブラ)を除く全ての大蛇はアペプの聖獣である。
一種の始源蛇(混沌蛇)であり、原初の水より現れた。そして、常に世界を始源の混沌状態に引き戻そうとしているとされる。あらゆる負の力の根源であり、日蝕や月蝕の原因でもある。しかしながらその一方で、冥界における役割として、オシリスに有罪とされた死者を追い回す事も含まれる。すなわち、アペプはあらゆる悪の源であるにしても、世界にとって必要な存在としても認められていたという事になる。
ピラミッド・テキストでは、アペプは夜あるいは冥界の海である神秘の水ヌンの上を航行する太陽の船を自らのとぐろに乗り上げさせ、それを飲み込むものであった。毎晩、セトによって退治され、アペプの腹から船は救い出されるのだが、後にセトがオシリス神話で悪者にまわった為、アペプとセトは奇しくも仲間という事になった。
なお、アペプの名、あるいは「アペプの息子たち」という名はしばしば外国からの侵略者に対して用いられた。
【アメン・ラー】 [imen]
アモン(アメン)が後にラーと習合してこのように呼ばれるようになった。本体はあくまでもアモンである。
アモンという名そのものは「隠す」を意味するimnから派生したと考えられる。従ってアモンは本来目に見えぬものであり、人の目から隠されているものでもある。また、「留まる」「保たれる」を意味するmenに関連するとも考えられた事から、「とどまるもの」そして「(万物に)内在するもの」でもあった。
通常、アモンは青い肌の人間として表される。但し、雄羊、雄羊の頭を持つ人間、四つの頭を持つ雄羊、鵞鳥、始源蛇として表される事もある。
青い肌の人間とはおそらく天空の神としての性格を意味すると考えられる。また、始源蛇として表される事があるように、アモンは創造主としての役割も担う。このため、生命の息吹を象徴する神シュウと結びつけられた。更に、ラー、後には日没の太陽たるアトゥムとも結びついていく事によって、太陽神としての役割も持つ。
この事からだけでも推察される通り、アモンは長きにわたり、広く信仰された神であり、そのため多くの神々の特徴を吸収した複雑な神格を持っていた。また、信者層も広く、一般の人々は日常の祈りを捧げ、祈願する神としてアモンを崇めていたと考えられる。
【オシリス】 Osiris [iw.s-ir.s] [wsir]
イウ・ス=イル・ス、イウシレス、あるいはウセイルまたウシル。これらの名前は「(太陽の?)目の座席」「力強い目」「自らの玉座をつくるもの」などのように訳されるが、他にも様々な仮説があげられている。オシリスの元素は土と水である。
死んでまた甦る植物神。冥界の王。洪水の主。イシスの夫。髭を蓄え、王冠を戴き、ミイラのように体を包まれた緑または黒の人間として表される。手に握られた殻竿と鉤はその権能を象徴する。兄弟にして敵たるセトによって殺され、石棺に入れられてナイル河に投げ込まれた。ビュブロスの港でイシスに発見されりがこれは再びセトによって奪われ、14以上の断片に切り刻まれて大地とナイル河とに撒き散らされる。然し再びイシスの尽力によって生殖器以外は復元され、冥界を治めるようになる。ちなみに、この生殖器は魚によって食べられてしまったとか。冥界の王としては、死者の魂を計量し、審判を行う者である。
また、日々の祭儀における神的役割として、閏日第一日目を守護し、様々な危険を一身に引き受ける役目を担う。
【コンス】 [hnsw]
ホンス。ヘンセウ。おそらく「横切る」「旅人」を意味し、天空を渡る月を表している。ピラミッド・テキストでは残酷で血なまぐさい神でもある。三日月型の刃をもって人間を打ち倒し、亡き王の供物とし、また人の肉を食べもする。病気をもたらし、また病を癒す。特に眼病を癒す神である。また、悪霊を祓う者でもある。
一般的に新王国時代以降、覆い布から両手を出したミイラ(男)の姿で表される。但し、姿そのものは成人男性でありながら、少年特有の髪型をしているという特徴を持つ。また、隼の頭を持つ男としても描かれる。
コンスの元素は土と大気。月神であるためトートと同一視される。また、アモンがラーと習合した時、それに伴ってシュウと役割を共有するようになった。この二点により、コンスは天の支柱のひとつであり、天に昇る魂を助ける者でもある。また、マアトの書記という役割を持ち、テーベでは「助言者」「寛大なる」と呼ばれる。
【シュウ】 Sw
大気の神。あるいは生命を与える息吹の神。その名は「虚空」「持ち上げる」といった意味を持つ。また、中王国以降は「光」をも意味した。大気、命の息吹、風、霧を支配し、それほど激しくない気象を制御する(嵐のような激しい気象はセトに属する)。また、聴覚や思考を支配する神でもある。
宇宙的な役割としては、両腕をあげて空を支える神である。また、ラー(太陽)の行く道を導く光線でもある。更に、妻であるテフヌトとともにラーの両眼、すなわち日月を表すものでもある。
通常、人の姿で表されるが、ラーと習合した形ではライオンあるいはライオンの頭を持つ人間として描かれる。なお、シュウはアモン(アメン・ラー)とも結びつけられている。
【スフィンクス】 Sphinx [ma(i)]
スフィンクスとはギリシアのスフィンクスの名前を(ギリシア人が)転用したもので、エジプトでは本来特に名前をつけられていないものであったが、ギゼの大ピラミッドを守護するスフィンクスについては「生ける像」を意味するシェセプ・アンフと呼ばれている。また、シェセプウなる言葉が集合的にスフィンクスを指す言葉として用いられる事もある。
形が似ているため、ギリシアのスフィンクスと同じ名前が用いられたのであるが、ギリシアのものと異なり、エジプトのものは男である。また、神そのものでも怪物でもく、王を神的に表現したものである。あるいは神の力を表したもの、またその霊力を集積するものである。ある意味でスフィンクスが神の力を地上に集積し、王に結びつけているともいえるかもしれない。
【セクメト】 [shmt]
セフメト。セヘメト。語義的に「力強いもの」を意味するが、ギリシア時代には「炎」であると解釈された。猫あるいは雌獅子の女神の一柱であり、雌獅子あるいは獅子の頭を持つ女として表される。
古王国時代は王の母及び王の守護者であり、神界においても神々の王たるラーの守護者であり「ラーの眼」である。しかしながら、中王国以降はその荒々しい側面が強調されるようになった。
荒々しいセクメトは、吼え猛る雌獅子であり(その鎮められた形がバステトだと考えられた)、火のような息を吐くものとして「燃えるようなもの」「炎」をあらわすセクメト=ネセレトという表現がなされるようになった。また、その燃える息は疫病やいろいろな病をもたらすと考えられた。そのため、セクメトの祭司はしばしば医師=魔法使いであった。
【セト】 [swth] [sth]
セトは特定不能な架空の動物の姿で表されるのが一般的だが、おおむね原型はイヌ科の動物ではないかと考えられている。また、人間の男あるいは架空の獣の頭を持つ男として表される。セトの色は不吉な意味合いを持つ、砂漠の色である赤。本来いかなる動物もセトには捧げられていないが、後代になると「セト的な動物(ティフォン系の動物)」とみなされた全ての動物が禍をもたらすものとしてセトに与えられた。例えばそれは驢馬、雄の河馬、赤い犬、鰐、豚、魚、蛇、砂漠の生き物などである。
恩恵をもたらすと同時に害悪と破壊をもたらすものでもあり、「嵐と暴風の領主」といわれる。後にはその悪い側面が強調されるようになった。特にオシリス神話では、オシリスの兄弟でありながらオシリスを罠にかけて殺し、その後オシリスの子ホルスと王位をめぐって熾烈な戦いをした。但し、セトは太陽の船をアペプから守る存在である事も忘れてはならない。
【セベク】 [sbk]
主として鰐、あるいは鰐の頭を持つ男として表される。また、覆い布から頭だけ出した鰐のミイラとしても崇められる。元素は水、色は緑、当然聖獣は鰐である。
ネイトあるいは神牛メティエルが母、セヌイ(プソスナウス)が父であると言われるが、正妻や嫡子はいない。但し後代になって様々な女神がセベクの伴侶とされた。
セベクの役割として最も重要な事は、第一に恐怖を引き起こす事であり、その点で古くは悪の象徴でもあった。とはいえ、一方でセベクの持つ力、用心深さ、予測不可能な電撃的な攻撃、そして執念深さは王の持つべき長所とされたため、セベクは王の守護者でもあった。更に、水辺に棲むものがエジプト人にとって常にそうであるように、セベクは水を支配し、洪水をもたらし、従って良い運勢をもたらす存在でもあった。植物を生育させるものとしてミンに結びつけられ、「種子の主人」と呼ばれる。
洪水と関係するところからオシリス神話に取り入れられ、ばらばらにされて河に投げ込まれたオシリスの体を集めて運ぶ役割をあてられた。このためセベクは「集めるもの」「復元するもの」と呼ばれた。また「遺体の領主」という称号も得ている。増水が全ての神々、死んだ王の霊魂、ひいては永遠の生命を象徴するものである事から、セベクは全ての神々の魂であり、それらを総括するものとして「ラーの魂(カア)」である。
【セルケト】 [srkt]
ギリシア風に変化してセルキスとも呼ばれる。名前の意味は「呼吸させるもの」であり、「蠍」ではない。これは新王国以降、セルケトの標章として用いられた蠍によって導かれた誤解によるものと現在では考えられている。
古風な衣服をまとった女の姿。頭には蠍に似たタイコウチという水棲の昆虫を戴いているが、後にこれは蠍にかわった。後代、特にギリシア・ローマ時代には蠍の体を持つ女の姿で描かれる事もあった。聖獣も蠍である。セルキスの元素は水だが、一部火を含む。色は黒、但し肌は黄色。
陪神や家族は持たない孤立した神である。但し後代になるにつれ他の女神と一部混淆されたりしたため、「ラーの娘」、「ホスルの妻」と呼ばれる事もあった。イシス、ネフティス、ネイトとともに《四人の泣く女神達》の一柱に数えられる。このため、壺に収められた死者の内臓の守護者である。また、ネイトの補佐を勤める事が多い。例えば、王と王妃が結婚する時には、ネイトとセルケトが夫妻をその手の上に載せると考えられた。
「生命の貴婦人」「刺し傷の女主人」「止血帯の貴婦人」として蠍や蛇、その他毒を持つ動物から人間を守る。医師であり、魔法使いでもある。さらに、本来の名前の意味する通り、呼吸をも司るため、死者が再生して新たな命を得る手助けをする存在でもある。
星座としては大熊座にあたる。
【タウエレト】 [te-wrt]
タァ=ウレト。また、ギリシア化されてトゥエリス。河馬の女神。但し、描かれるその姿は頭と胴が河馬、そこに女の乳房が重く垂れ、腹部は妊娠しており、獅子の足と鰐の尾、前足の先に手を持つという複合した姿である。また、常に後足で人間のように立ちあがった姿で描かれる。タウエレトの元素は水、その色は緑と赤。河馬はタウエレトに属するが、聖獣ではなかった。
役割として、タウエレトは生命と結婚、妊婦と出産を守護し、悪霊を祓う存在であったらしい。人気も高かった反面、固有の神話はなく、タウエレトの神殿もほとんどなかった。あるいは、庶民的な女神であって、小さな祠などで礼拝されていたのかもしれない。しかしながら、その姿は護符として様々なものに刻みつけられていた。後にはイシスやハトホルと同一視されたが、本来はベスのように一種の守護神、守護妖精のようなものだったとも考えられよう。
【トート】 Thoth [dhwty]
エジプトではジェフウティ(ジェフウトのもの)とも呼ばれた。一般的には神々の書記。文字を発明させ、学問を発展させた者。
鴇(イビス)、あるいは鴇の頭を持つ男の姿で表される。魔法(ヒケ)を守護する者。また、古い時代に吸収した神ヘジュ=ウルの姿である狒狒、また猿頭の男という姿をとる場合もある。鴇と狒狒は当然ながらトートの聖獣である。また、トートの色は黒、白、赤。元素は大気である。
創造神の役割を持ち、「石の息子、卵から生まれたもの」と呼ばれる。すなわち原初の卵から生まれた存在である。その口から零れ落ちる言葉によって物質が秩序だてられ、宇宙が創造され、宇宙の法則が定められた。
従って、トートは言葉の発明者であり、智慧の神である。「万物を計算する者」であり、全ての知識を保管する。このため、書記は皆、トートの弟子とみなされる。神界においては「ラーの宰相」であり、このためにトートは王国の高官を庇護する者でもあった。また、その知識は道徳にも及び、マアトとも深い関係を持つ。
万物を計算するという性格から、トートは暦の神であり、また月の神でもある。数学の発明者。しかしながら、暦と、”ウジャトの眼”の図形に割り当てられた分数に不備や不足があったため、トートはしばしば非難されてもいる。月との関係から眼病を癒すものであり、後にこれは医療全体を庇護するところまで発展した。また、魔法の守護者でもあった。これらの性格から、後にトートはギリシア・ローマでヘルメス及びメルクリウスと集合され、ヘルメス・トリスメギストスとして後々まで錬金術師の王として崇められた。
トートはまた好戦的な神でもあり、太陽の船でアペプを屠るセトの代理を務める事もある。その時、トートは魔法の言葉で敵を斬るとされている。
【バー】 Ba
魄。死んだ後も肉体から去らない(冥府に行かないで現世に残る)霊魂。これを養うため、死者の家族は供物を絶やしてはならない。また、バーのよりどころである屍体は完全な姿で保存されなければならない。星は、一説によると、墓地の灯明に照らし出されたバーであるという。世界各地で魂がしばしば表されるように、バーも鳥、あるいは翼など鳥の一部を備えた人間の姿で表される。
【バステト】 Basted [b(ae)stt]
語義的には「ブバスティスのもの」を意味しており、デルタ地方のブバスティスを中心に崇拝された女神である事を意味していると思われる。
猫の女神。猫あるいはネコ科の獣の頭を持つ女として表されるが、本来はむしろ雌獅子と結びつけられていたと思われる。バステトに属する元素は火と水であり、その色は虎縞あるいは豹紋の入った白。当然、雌猫はバステトの聖獣である。
バステトは大変古い女神で、本来「バステトに愛されしもの」である王の守護者であった。また、猫と関係の深い多くの女神と結びつけられた。たとえばセクメト、パフトなど。また、後代にはハトホルやイシスとも同一視されるようになり、特に「イシスの魂」と呼ばれるようにもなった。更に、テフヌトと結びついた事によってアトゥムの娘とされ、アペプ(アポピス、アピペ)を殺すものという役割を負うようになった。
【ハトホル】 Hathor [hwt-hr]
ヘゥト=ヘル。ハトル。その名から、ホルス神話に密接な関わりを持つ女神。すなわち名の意味は「ホルスの魂」「ホルスの住居」などと訳されるものである。
雌牛の女神。太陽の円盤を戴く雌牛。あるいは太陽を雌牛の角の間に戴く女。天の雌牛。豊饒の女神であり、子供の誕生、美、愛、結婚の守護神でもある。とはいえ、ラーの眼としては血に酔う女神としての残虐な一面も備えている。
金色(黄色)の雌牛、あるいは黄褐色か黄色の肌をした女として表される。また雌の隼やライオンで表される事もある。雌牛と雌猫が聖獣。エドフのホルス神あるいはラーの妻。また、ラー、及びヌンの娘でもある。更にラーは彼女の息子ともみなされる。それらの過程でマアト、イシス、テフヌト、セクメト、バステトら多数の女神と結合した。また、ギリシア人には、アプロディーテーと同一視された。
エジプト末期には、死者を大変慈しむ女神と考えられ、砂漠の縁で死者を待ち、水とパンを与える存在とされた。
本来は大変に古い太女神だったと考えられている。エジプトだけでなくエジプト支配下の外国でも崇拝されていた。
【ファラオ】 Pharao
エジプトの王。必ずしも現在のエジプト全域を常に治めていたわけではなく、幾つかの王国が並立していた時期も多い。また、王朝そのものも何度も交代している。従って本来一括して扱う事はできないかもしれないが、おおむねファラオとは現人神であり、地上におけるホルスの化身であり、死ぬと冥府へ降りてオシリスに合一した。その血統を守るためにしばしばファラオは自分の娘と婚姻したとされている。けれども、神話におけるエジプトの神々がしばしば母、姉妹、娘を妻に迎えていた事を思えば、さして異とするにあたらないであろう。
【ヘケト】 [hkt]
蛙頭の女神。あるいは蛙の姿をした女神。その元素は水であり、色は緑と黄。
クヌムの配偶神であり、クヌムがゲブと同一視されるにつれ、ゲブの妻であるヌトと役割を共有するようになった。また、トト、オシリス、イシス、ハピとも関係が深い。
深淵から出現する生命を司るもの。母の胸に抱かれる子供の象徴。そこから、出産及び再生の女神ともみなされる。また、オシリス神話と関連し、死せるオシリスの妻イシスの出産を助けるなどした事から死者の守護者でもあり、「二つの国の女主人」という称号を持つ。
【ベス】 Bes [bs]
その名は語義的に様々な意味を持ち、「炎」「秘密の神像」といった言葉に含まれる。
ヌビア起源とされるが、おそらくはエジプト起源の家の神。プント地方の主。ヌビアの領主。太く長い腕と曲がった脚をして尾を備え、髭面で毛深い眉、長い髪、大きな耳、平たい鼻を持ち、舌を突きだした小人として表され、絵画においても例外的に正面を向いて描かれる。蛇を殺す者。子供の守護者。多産の神。固有の神殿を持たず、他の神の神殿にしばしば「ベスの部屋」が設けられ、神託所となっていた。ここから推察されるように、一柱の神というよりもむしろ守護霊や守護妖精といったものに近い。
ベスの元素は火と土。聖獣は特に定められていないが、猿とライオンはベスの仲間であるとされる。妻はベセト(女ベス)。音楽と踊り、酒酔いを庇護し、ミンと習合して生殖力を活発にさせるものともなった。
【ベンヌ】 [bnw]
ベヌウ。語義的に「立ちあがるもの」を指し、従って(神の)再生を象徴する。フェニックスの祖型の一つでもある。特にヘリオポリスでは「ラーの魂」として崇拝された。
元来は鶺鴒として表されたが、後には青鷺の姿が一般的となる。また、新王朝時代末期には青鷺の頭を持つ人間としても描かれた。当然、青鷺はベヌウの聖鳥である。
ベヌウの色は空色と灰青色。その元素は大気と火。太陽はベヌウの卵から生まれ、始源の海であるヌンの上に昇った。
後にオシリス信仰が広まると「オシリスの心臓からいでたる栄えあるバア(魂)」となり、従ってバアの代表でもある。すなわち、ベヌウは再生を願う人(死者)の守護者とみなされた。
【ホルス】 Horus [hr]
「遠方にいるもの」、また「高みにいるもの」という意味の名前で、本来はおそらくハルあるいはホルと発音されたと考えられる。大変古い形の神で、様々な形態で広く信仰された。
天空神。隼神。あるいは隼の頭を持つ神。成人した男、また幼児としても表される。オシリスとイシスの子。王の守護者。父の仇を討った時に片眼を失うが、それを取り戻した後は父オシリスに与え、眼のかわりに聖蛇をそこに填めた。
ホルスの元素は大気と火。色は一般に黒、赤、白だが他の色があてられる場合もある。
【ラー】 Re [r(a)w]
ラーウ。語源的には「上がる」「昇る」に基づく名。
太陽神。太陽円盤を戴く男あるいは隼の頭を持つ男の姿で表される。更に、蛇を殺すものとしての雄猫やライオン、ジャッカル、生まれたばかりの太陽としては幼児や子牛の姿で表される。さらに、夜の形として雄羊か雄羊の頭を持つ人間の姿をもとる。
太陽神であり、あらゆる光の源ではあるが、ラーは闇を起源とする。但し、昼の永遠性のシンボルとしては、同じく夜の永遠性のシンボルであるオシリスと対になる存在である。また、創造主としての役割も持つ。従って本来家族はないはずだが、多数の神と関連し、多くの神話と関わりを持った結果、複雑な家族構成に組み込まれる事になった。妻としては通常、ラーの女性形であるライト又はラタウイが配偶される。オリオンとシリウス(ソティス、すなわちセプデト)はこの夫婦の子供である。また、非常に多くの女神が「ラーの眼」という称号を与えられている。後にアモンと習合した事で更に広く信仰されるようになった。