アイルランド-Erin

カリアッハベーラ】 Cailleach Bheara

  本来は創造女神で、前掛けから石を落として山脈を作ったりした。病の女神でもある。ほぼ同じ名前を持つ同様の女神または妖精がスコットランド、マン島、ブリテン島などに広く分布しているが、この形の時はアイルランドのものである。
  cailleach は老婆、鬼婆、女隠者、ヴェールを被った人などの意味があるが、特にヴェールを被った人という意味を考慮すると、この女神が運命を体現する女神であった事もうかがえる。ウォーカーはこの女神をインドのカーリーに結びつけている。
  なお、同類のうちで最も有名なのはスコットランドのケラッハ・ヴェールで、これは冬の精、あるいは冬と夏の精と云われている。冬の精としては陰鬱な老婆であるが、夏になると石と化すか、あるいは目をみはるほど美しい娘に変身する。但し、カリアッハ・ヴェーラには特に季節と結びつく特徴は見られない。

クー・フーリン】 Cu Chulainn

  〈アルスター神話〉における英雄。光の神であるルーグの息子。女神スカハに戦の技を学んだ。幼少時から大変に美しく、勇猛な少年として知られたが、凶暴な面もあった。また、戦闘中には顔や体がおそろしく歪み、頭からは血を噴きだし、額から光線を発する。体そのものが熱くなるため、三杯の桶の水で冷やさなければならないと言われている。とはいえ、平時に美しかったかどうかには異説もある。その姿は両目の間に七つの瞳があり、手足には七本づつの指があり、両頬に黄、緑、赤、青の筋があり、根本では黒い髪が先端にいくにつれて赤く、そこに百本の宝石の糸を飾り、胸に百の金のブローチをつけていたと描写されているからだ。これは現代の美的感覚からは、到底美しいとは言えない。
  名前にある cu は犬を意味するが、伝説によればこれは子供の頃にうっかり鍛冶屋クーランの獰猛な犬を撃ち殺してしまった事に由来する。そこで、償いのために犬の代役を申し出て、名も本来のセタンタから、クー・フーリンと呼ばれるようになった。しかしながら、犬は冥界と縁が深く、再生の象徴でもある。
  生贄となって地に豊饒をもたらす英雄であり、彼の最後はマハの呪いによって石柱にくくりつけられ、射殺されるというものだった。流れ出る血は大地に大いなる春をもたらした。

ダグダ

  農夫の姿をした太鼓腹の醜い老人。常に食べ物が入っていて空になる事がない大釜と、一振りで生と死を自在に与える事ができる巨大な棍棒を携えている。おそろしい食欲の主で、サウィン(11月1日の祭)では、地面の孔に満たされた大量の粥をたいらげてから、モリガンと交わる。

ネヴァン】 Neamhan

  より原語に近い発音を表記しようとするなら、ネワン。「軍隊の撹乱者」。モリガンと同様の三相一体の戦女神、バウの一人。ズキンガラスの姿をとり、戦場を飛びまわるもの。

バンシー】 banshee

  語源はゲーリック語の bean-sidhe 「妖精塚の娘」。大抵は特定の家族について死を予言する一種の守護妖精。その家系の亡霊、特に若くして死んだ乙女や身ごもったまま死んだか、産褥で死んだ女である事もある(つまりは、夭折した女という事であろう)。一家に死ぬ者が出ると、前兆として泣き叫ぶ声などをあげる。但し、バンシーに愛されている者は、死の床にあって彼女らが優しく柔らかい声で歌うのを聞くともいう。また、川辺などで血の付いた経帷子を洗う姿を目撃される事もある。
  流れるように長い(時として赤いか、あるいは白い)髪をして、緑の服の上に灰色のマントを着けている。あるいは、経帷子をまとっている事もある。青ざめた顔。目は泣きはらして赤い。
  ときに、亡霊の女王マハと同一視される。
  スコットランド高地地方にはバンシーとほぼ同じで、水辺で衣服や経帷子を洗うベン・ニーァ Bean-nighe ( 洗う女)、ブルターニュには同種の妖精 Bandrhude (死の妖精)がいる。

プーカ】 phouka

  しばしば馬の姿をとって人を惑わし、うかうかとその背に乗った人間をさんざんな目にあわせる。鷲や蝙蝠など、様々な姿に変身して悪戯をしたりするが、家つき妖精の一面もあり、脱穀や家事を夜間に手助けする事がある。この場合はブラウニーと同じく、もし服を贈ると、去ってしまう。人間に近い姿をしている時は老人の事もあり、あるいは若者の事もあるが、いずれにしてもごくごく小さい。

フォーモリア】 Fomoria

  フォモール。ダーナ神族やその前に棲んでいたフィル・ヴォルグ族に更に先立って棲んでいたとされる種族。渡来した記録がないところから、アイルランドに原住した種族であったかもしれない。『侵略の書』によればパーソロン族、ネメド族、ダーナ神族と争い続けた。このうち、パーソロン族は疫病のため滅び、ネメド族はフォモール族に隷属し、ダーナ神族とは争いあいながらも通婚した事もあったが、最後にはモイトゥラの野で二度に渡る合戦を行い、ついに敗退した。
  おおむね巨人であり、巨石を苦もなく扱う。人喰いとされる事もある。

マッハ】 Macha

  マハ。または、ヴァハ。ケルト人の到来以前からアイルランドで崇拝されていたとおぼしき「亡霊達の女王」。その聖地は地上におけるエマン・マハ(アルスターの首都)であり、天界における月の王国エマニアであった。三相一体の女神モリガンまたはバウの一面であり、ワタリガラスの姿で戦場に出没し、戦死者の血を用いて魔術を行った。馬の女神でもあった。後に妖精の女王としてのマブとも同一視されている。
  一説によればマッハの声を聞いた者は死に誘われたという。

メロウ】 merrow

  人間の上半身と魚のような下半身を持つアイルランドの人魚。指の間にも水掻きがある。また時折、角のない小さな牛の姿で陸にあがる事もあった。嵐の前にしばしば姿を見せる。ときに人間の漁夫と通婚する事もあるが、その結びつきから生まれた子供は体中が鱗に覆われ、指の間に水掻きがあった。赤い羽根の三角帽子を持っていて、これを奪われると、海へ戻れなくなるという。また逆に、人間がこの帽子を手に入れれば、溺れる事なく水中で生きることができる。
  女のメロウは流れるような髪に真っ白な腕、黒い眸を持ち、大変美しいが、男の場合は全身が緑色で赤く尖った鼻と豚のように小さな目をしていて、非常に醜いとされている。
  メロウが人間に悪さをする事はまずないが、溺死した者の魂を蒐集するという悪癖は持っている。嵐の夜、メロウは小枝細工の籠を波間に浮かべて、魂を捕獲しては、海底の自分の家にそれを置いておくのだ。尤も、集めた魂を何かに使ったりするというのではなく、ただ置いておくだけらしいのだが。〔参照〕ヴァッサーマン

モリーアン】 Morrigan

  モリガン。三相一体の女神。すなわち春と豊饒の女神である乙女アナ、永遠に生命を生み出す大釜に象徴される母神ブバド、死の女神であるマッハの三柱を指します。また、ギリシャ及び中世ヨーロッパの三相一体の女神がヘカテによって代表されたように、しばしばマッハによって代表されます。ワタリガラスに姿を変え、戦場を飛びまわる女神です。

リャナンシー】 leanan-sidhe

  字義通りには「妖精の恋人」。気に入った者に詩的霊感を与える。主に井戸や泉に出没する。しかしながら、イェイツによるとその事が歌い手や詩人の生命を通常より速く燃焼させるらしく、リャナンシーに魅入られた者は薄命となってしまうと書き記している。但し、ワイルド夫人はこのマイナス面については触れていない。なお、マン島に棲む同種の妖精であるラナン・シーは、詩人達に霊感を与えながらも、その生命力を吸い取っていく存在だとされてる。

ルーグ】 Lugh

  ルー。多才な若い神。ロヴァーダ(長腕)、サミルドーナッハ(多芸)などとも呼ばれる。ダグダの息子。ヌアザのもとへ出向いて、ダーナ神族に加わりたいと申し出た。この時、特技として様々な技芸、たとえば大工、鍛冶屋、戦士、詩人、魔術師などの才をあげていったが、どれもすでに熟達者がいたため、最終的には、たった一人でそれら全ての技芸に通じている事を長所としてあげる事によって加入を許された。
  美男で、洗練された貴公子でした。フォモール族の統領であったバラルを殺し、ダーナ神族とフォモール族の間の戦いを終結に導いた英雄神。
  ルーグの名は、ギリシア語の語幹lukと繋がりがあり、従って狼と関係が認められる。
  人間の間では、八月朔日にルナサと呼ばれる祭がルーのために行われていた。

レプラホーン】 leprachaun

  妖精の靴職人。大抵、靴の片方を作っているところを目撃される。酒蔵に忍び込んでしたたかに酒を盗み飲んだり、煙草をのんだり(かぎ煙草をかいだり)するクルーラホーンと同一であるとも言われる。いずれにせよ、レプラホーンもクルーラホーンも群をなさない独居妖精である。その姿は、おおむね赤い帽子をかぶり、革の前掛けとくすんだ茶色の服を身につけ、留金付きの靴を履いた小柄でがっしりしているか、でっぷりとした小人である。また、全身緑ずくめの事もある。たくさんの金貨を隠し持っているが、レプラホーンをつかまえてそれを奪い取る事は大変に難しい。