フランス-France

アルデュイナ

  大地母神。この女神が、アルデンヌの名前のもととなった。

アンクウ】 Ankou

  ブルターニュの「死者の王」。長い白髪をはやしたぐるぐる回転する髑髏頭の、長身痩躯の御者で、骸骨の馬に牽かせた幻の馬車あるいは車を御し、朧な従者を二人連れています。大鎌を持っている事もあります。黄昏時に現れますが、決して音をたてる事はありません。死者の霊魂を集める者で、自身も幽鬼です。すなわちその教区(一つの教会に所属する区域)で一年のうち最後に死んだ人の霊がアンクウとなり、翌年その仕事をしなければならないのです。次のアンクウが決まると、その霊は仕事から解放されます。多分。
  アンクウの車は、墓地、あるいは海の彼方、または地獄への入口があるユールゴートの森へ行くと言われています。

ヴィーヴル

  赤い色をした翼のある蛇で、目は見えず、額に載せたダイヤモンドを目のかわりにしています。また、首には金の輪をはめています。飲み食いする時にはこのダイヤモンドは傍らに置かれるのですが、もしこのダイヤモンドを奪えたなら、世界一の財産と権力を手に入れる事ができるそうです。また、ダイヤモンドを奪われたら、ヴィーヴルは悲嘆と絶望のあまり死んでしまうと言われています。

ガルガンチュア

  ラブレーによる同名の物語で有名な伝説の巨人。日本のダイダラボッチとやや似た性格の巨人であるらしく、中部から北部にかけて、ガルガンチュワ、あるいはこれが訛ったものと思われるジェルガンチュワが作ったとされる丘や、跨いだとされる谷などが残っている。

霧女

  ベリー地方の妖精。あまりはっきりした形ではないが、だいたい白い衣をまとった女の姿をしており、霧の立ちこめやすい沼地や湿地に棲む。あまり悪さをする事はなく、特定の一家を守護する存在である場合もあるらしい。

コリガン

  ブルターニュの小鬼。フォレの同類。

ジャンヌ・ダルク

  15世紀の英仏戦争におけるフランスの英雄。神のお告げにより、フランス軍を率いた聖少女。最後はイギリス軍に捕らわれ、魔女として焚刑に処せられた。現世での名誉はルイ11世によって回復され、宗教的には今世紀初頭に列聖され、聖女となる。
  ウォーカーはジャンヌ・ダルクについて次のような見解を述べている。まず、ジャンヌ・ダルクとは「弓のジャンヌ」を意味する。すなわち、女狩人ジャンヌである。また、しばしば彼女に対して用いられたラ・ピュセル(乙女)なる呼称は、本来、妖精信仰における巫女の称号であった。そして、ジャンヌは「妖精の貴婦人達の木の下で」(ドンレミーにおけるディアナ崇拝の中心地で)その使命を授けられたと語っている。それゆえにジャンヌ・ダルクは異教徒、背教者、偶像崇拝者とみなされ、大衆や兵士の人気を得ると同時に教会から断罪されたのである。しかしながら、偶像が何を指しているのかは当時の資料からは明らかにされていない。

ジョルジョン

  悪霊。また、一説によれば悪魔にさらわれて、その下働きをさせられる事になった同名の悪人の霊。月のない夜か、霧の深い時に、四つ辻や「悪い噂のある」(つまりおそらくは昔の聖木であった)木の下でその名を唱えれば出現する。但し、その姿は曖昧模糊として、やや大きめの人型であるとしかわからない。

ダーム・ブランシュ

  白夫人。ドイツなどにも見られる、白衣をまとった女の精霊で、特定の一家を守護する事もある。

タラスク

  ラ・タラスク。雌竜。すなわち、聖マルタによって退けられたローヌ河の竜。タラスコンの街で聖霊降臨祭と聖マルタの日(7月29日)に催されるパレードで現在でも木製の竜の像が引き回され、これに触れると幸運がもたらされるという。

ドラック

  ローヌ川の水底の洞窟に棲む水魔。金の指輪や杯に変身して川面を漂い、人を水中に誘い込む。水中に引き込まれた人(特に、女性や子供)は、七年たつと、地上に戻ってくる事がある。

ビゴルヌ

  白犬、蒼い獣、悪魔憑きの牛、ピテルヌ、タランヌなどの別名を持つ。野原を彷徨する子牛くらいの大きさの雌犬。角があるとか、炎のような目をしているといわれる事もある。だいたい白っぽく、グレイハウンドに似ているらしい。人を襲う事はなく、追い払われれば逃げるが、この獣がやってきた後は動物の死亡率が高いといわれる。また、この獣の息がかかるか、近くによっただけで、犬は死んでしまうともいう。

火の男

  別名、赤い鉄の男、森を壊すもの。叩く人、壊す人、折る人。森ハンノキの精である場合もある。〔参照〕 アルダー
  森の守護者。原因不明の森火事を起こす。大抵姿は見えず、霧の夜に樹を力一杯叩く。青白い刃が見える場合もあるが、どんなに大きな音がしていたとしても、樹には傷一つついていない。この精霊が触れた樹には触ってはならないとされている。

ファデ】 fade

  あるいは、ファド、ファードなど。仙女。野の貴婦人。必ず女であり、男のファデはいない。北欧やケルトのエルフと同様に、良いファデと悪いファデがいる。人間の守護妖精となる事もあるが、基本的には異界の者であり、人間が入る事のできないファデだけの世界に棲んでいるらしい。大抵は高貴な、美しい姿をしていると考えられている。たとえば、シンデレラにドレスや有名なガラスの靴を与えたのも、このファデである。後代、キリスト教社会になると、守護妖精である事を婉曲に示すために、子供の代母(実母ではなく、洗礼の際に名前を与えて、第二の母となる女性)と呼ばれる事もある。

フォレ

  ベリー地方の小鬼。糸紡ぎの邪魔をしたり、ゴーフルを盗んだりする。大抵群をなしているらしい。馬小屋の馬に馬櫛をかけたりする事もあれば、たてがみをもつれさせたり、夜中に牧場を追い回したりする。彼らが手をかけた鬣を人間が切り取ったりすれば、その馬を流産させたり殺したりさえする事もある。また、地方によっては、旅人を惑わす事もある。
  太った小人で、燃えるような目と真っ赤な鶏冠を持ち、爪のかわりに蹴爪がついている。羽の生えた尻尾(尾羽?)あるいは大変長い鼠のような尻尾を持つという。人間の言葉があまり得意ではなく、同じ言葉を二度繰り返す癖がある。

フランベット

  フランボワール、迷い火。青みを帯びた鬼火の事。自分では動かないが、風などに流されたりする。祈ってもらえないために天国へ行けない死者の魂、あるいは悪人の魂。いろいろなものに化ける事もあり、道を行く人を惑わして池や川底に沈めようともする。

マルト

  あるいはマルス。ノルマンディーの妖精。ファデと異なり、男女とも存在する。男のマルトはドルメンやメンヒルといった、かの地の謎めいた巨石を立てる事と関わりが深く、女のマルトは振り乱した長い髪と長く垂れ下がった乳房を持つ、いささか醜悪な姿をしていて、農夫達に悪戯をしかける。

ミロレーヌ

  ノルマンディーの妖精。霧女に似ているらしい。

メリジェーヌ】 Melusine

  典型的な妖精花嫁(異類婚)の伝説。メリュジーヌはアルベニア(スコットランド)のエリナス王と泉の精プレッシナの間に生まれた。プレッシナはお産の間近寄ることを夫に禁じたのに、三人もの娘が一度に生まれたという報に我を忘れてこの禁忌を破ってしまった王のもとから、プレッシナは娘達とともに沖合の隠れ島セファロニアへ去ってしまう。
  プレッシナは毎日子供にアルベニアを望見させ、エリナスが禁忌を破りさえしなければ、幸せに暮らせていたのだと語り聞かせていたため、メリュジーヌと二人の妹は次第に父への復讐心をつのらせ、ついにある日故国を訪れて父を持てる財宝と一緒にブランドロワ山に閉じこめてしまった。ところが実はプレッシナはまだ夫の事を愛していたため、これに怒ってメリュジーヌに呪いをかけてしまう。すなわち、メリュジーヌは土曜がくるごとに下半身が蛇となってしまい、もしも土曜には決して彼女を見ないという約束を守り通してくれる夫にめぐりあわない限りは、救われない事となってしまったのだった。
  こうしてフランス中を放浪していたメリュジーヌは、とうとうコロンビエの森でポアトゥーのレイモン・ド・ルシナン伯爵に見初められて、その奥方となる。その時、土曜日には一人で水浴をするので、絶対に自分の姿を見てはならないという禁忌を課したのは勿論の事だった。この世のものならぬ奥方の助力で伯爵家は栄え、子供も生まれ幸せな生活を送ったものの、どうしても伯爵は我慢できなくなって、ある日とうとう禁じられた日に奥方の部屋を覗いてしまう。すると、それは下半身が蛇身の水の精であるのがわかった。レイモンは驚いたものの、その秘密を自分一人の胸におさめておく事を誓うのだったが、生まれてくる子供が例外なくどこか異常な部分を持ち、時には性格まで常軌を逸したものである事に悩んでいた。そしてついに、特にたちの悪かった〈牙のジョフロワ〉なる息子が、喧嘩した弟が逃げこんだ修道院を百人の修道士と弟ごと焼き払うという非道をした時に、メリュジーヌの前で、息子の異常の原因がメリュジーヌの異形である事と非難してしまう。
  自分の本性が露顕してしまった事を知り、メリュジーヌは永遠に救われない身となってしまい、夫のもとを去らなければならなくなったが、その後、伯爵家の誰かが死ぬ時には、メリジェーヌの叫び声が聞こえたと伝えられる。主城であるリュジーニャン城が後に国王の管轄下におかれるようになると、メリュジーヌは国王の死を予言するようになり、これは城が1574年に消失するまで続いたと云われる。
  メリュジーヌの下半身は、銀と紺碧の鱗に覆われていたといい、蛇の姿もこの通りである。リュジーニャンの一族の紋章には、この色が使用されている。
 『妖精メリュジーヌ伝説』クードレット作(社会思想社・教養文庫)

夜の麻打ち女

  特定の家の前で深夜、麻を打つ。放っておくに越したことはないが、何晩も続く場合には、とり憑かれている麻打ち棒に古い鎌の刃を置いておけば、追い払う事ができるといわれている。

夜の乞食女

  乞食が集まる教会のポーチに現れる老婆の姿をしたもの。施しを乞うが、もしもそれに何かやると、みるまに大きく逞しくなり、襲いかかってくるという。

夜の洗濯女

  呪われた洗濯女。嬰児殺し(あるいは、おそらく堕胎)をした女の亡霊。沼や池、泉、あるいは古い柳の下、枯野の真ん中に深夜出没し、荒々しく洗濯棒を振り上げて洗濯をする。その洗濯棒で沼や池の水を天まで撥ね上げ、雨や嵐を呼ぶとも言われる事もある。しかしながら、彼女らが叩いたり擦ったりして洗っているのは、実際には自分が殺した子供の死体だといわれる。もしも彼女の邪魔をすれば、どれほど腕に覚えのある豪傑であろうと、水のなかに引きずり込まれて叩き洗われてしまう。

夜の紡ぎ女

  人の住んでいる家で、夜中、誰もいないのに紡ぎ車が回る音がするのは、この女のせいである。手が見える事もあるという。

リュバン

  白く長い塀に住み着いている一種の家付き妖精。夕暮れや月光の下でこういった塀を見つめていると、現れる事がある。ノルマンディーあたりでは、葡萄棚に沿って動き回るともいう。特に墓地のような特定の場所では、人骨を囓るなどの悪癖があるものもあり、これはリュパンとも呼ばれる。

リュプー

  語義的には狼狂、あるいは狼怪であるが、実際には鳥などの姿をして現れる悪霊で、道を行く人をからかい、悪戯して沼に沈めたりする事もある。狐火の姿をとることがある。

ルトゥルナン

  帰り霊。戻り霊(ルヴナン)ともいう。溺死や身投げした者など、非業の死を遂げた者の亡霊。