ギリシア-Greece
【アエロー】 Aello
ハルピュイアの一人。名前の意味は「嵐」またが「疾風」。
【アトラス】 Atlas
ティターン族で、プロメテウスの兄弟にあたります。プレイオネを妻とし、プレイアデス、ヒュアデス、カリュプソ、ヘスペリデスなどの娘たちをもうけました。
オリュンポスの神々に敗北した時、罰として大地又は天を支える役割を振り当てられたのです。プロメテウスがコーカサスの頂に縛りつけられているように、アトラスはアトラス山脈と関係があると言われています。また、この事から、ティターン族とは世界を支える聖柱ではないかとウォーカーは示唆しています。
なお、アトラスはヘラクレスがヘスペリデスの林檎を取りに来た時、一度だけその重荷をヘラクレスに肩代わりしてもらう事ができました。また、後にペルセウスはアトラスに憐れみを覚え、メデューサの首をアトラスに見せて彼を石に変えたといいます。
【アプロディーテー】
ウーラノスの男根が海に放り込まれ、それが潮に揉まれて時が経つうちに、肉のまわりに白い泡が寄り集まり、そこから処女神が生まれました。これがアプロディーテーであり、美と愛欲を司ります。
【アポロン】 Apollo
アポロ。レトの子。太陽神、音楽の神、医術の神、詩と数学と予言の守り神。アルテミスの双子の兄弟。あるいは本来、その息子であったかもしれない。狼、二十日鼠、黄金の鬣を持つ獅子などが聖獣としてあげられるが、これらはアルテミスの聖獣としてのアポロの姿である、とウォーカーは述べている。また、祖型としてヒッタイトの神アプルナス
Apulunas
をあげているが、これは犬又は狼の頭をした戸口の守護神である。予言、詩、音楽、呪術、医術といった権能も、女神から奪ったものだという。これは、アポロが大蛇ピュートーンを退治する事によって得たデルフィの神殿が本来は女神の神殿であり、その頃から有名な神託所であった事からもうかがえる。更に、アポロの聖樹である月桂樹は、その葉を口にすると高揚感を覚え、詩的な霊感を得られると言われている。なお、ピュートーンを退治したため、その特徴の多くをアポロは吸収し、また、同一視されるようにもなった。
神としてのアポロの生活は、朝、東の宮殿で目覚めるところから始まる。火のように鬣を輝かせる馬たちに牽かせた戦車を、曙の指が示す道に沿って駆け抜ける。最後に西の地平へ下降すると馬を戦車から解き放つというものであった。
【アマゾーン】 Amazonai
北アフリカ、アナトリア、黒海周辺に住んでいた部族のギリシャ名。例えば黒海は昔はアマゾン海と呼ばれていた。女神(おそらくは月の女神、また馬の女神)を崇拝し、明らかに騎馬民族であった。たとえば、アマゾン族が馬を飼い慣らした最初の人々であったという言い伝えがある。伝説では女戦士の一族であり、弓を引くのに邪魔にならぬよう右の乳房を切り落としていたと言われる。また、彼女らの国では男は種族の保存と雑役にしか用いられなかったと云われる。
トロイア戦争ではトロイアの側にたって戦った。また、ベレロフォンに邪魔されるまでに、リュキアを席巻し、その全土を制圧するところだった。更に、アテナイをも攻撃した事があり、テセウスによってようやく撃退されたのだった。
【アルケニー】 Arachne
アラクネーの事であろうと思います。英語でもこれはアラクニーのが発音は近いと思いますが……。 さて、アラクネーはリュディアの娘で、大変な機織り上手として知られていました。その技術を鼻にかけ、ついに、機織りの女神でもあるアテナに競技を申し入れました。それどころか、競技の当日、アラクネーは神々のいろいろな醜聞を布に織りだしてみせたのです。これが神の怒りをかわないわけはありません。一方のアテナは夕雲と黄昏の青、星の光をとって世界の創造の場面を織り上げましたが、さすがは女神、アラクネーの敗北は明らかでした。アラクネーは絶望して自殺しますが、アテナはその姿を憐れんで、小さな蜘蛛に変えたと云われます。〔参照〕 スパイダー
【アルテミス】 Artemis
月の女神。レトの娘で、アポロの妹にあたります。白馬の牽く銀の戦車に乗って空を巡り、銀の弓を引き絞って銀の矢を射放ちます。また、銀の鎖で海の潮を自在に操り、あるいは大波を鎮める事もできました。
狩猟の女神であり、森の女神として獣たちの女主人です。獅子、熊、狼はアルテミスの聖獣であり、全ての小鳥もアルテミスに属します。また、若い恋人達の守護神でもありました。
文明以前のギリシアでは、アルテミスが広く信仰されていました。その名はもともと「屠殺者」を意味するアルテモスにちなみ、獣ばかりでなく、人や、人に似せたものが生贄として捧げられたようです。また、アルテミス自身、愛人や自分に言い寄る男を殺す、残忍な側面も持っています。アルテミスは処女神であるという性格からか、男嫌いという欠点も併せ持っていたようです。また、アルテミスは、実は両性具有の神であったという一面もあるようです。
アルテミスは樹木崇拝とも関係が深く、アルテミスの小像はしばしば樹のうろに安置されました。
【アレクト】 Alecto
アレクトー。復讐の女神エリーニュースの一人。名は「名を挙げられない女」を意味する。掟を犯した者を罰する女神。〔参照〕 ティシポネー
【アレス】 Ares
ゼウスとヘラの子。戦神。思いっきり暴力的。粗暴なだけでなく信義に欠け、ただただ残虐で無慈悲でしかも卑劣ですらある。これはもう不人気でも仕方がありません(^^;。まともに信仰されたのはギリシャ中部及び北部の限られた地域である由。ギリシャの神とローマの神がしばしば同一視されるからといって、アレスだけはマルスと混同しちゃならねぇ……って感じ(
・・)/。
神話中でも神々の間の嫌われ者で、その粗暴さにある種の魅力を感じたらしいアプロディテと、姉妹にあたる不和の女神エリス、そしてアレスが引き起こした戦で大幅に冥府の住人を増やしたハデスのみがアレスと交際があったようです。
【アンドロメダ】 Andromeda
エチオピアの王女。母であるカシオペイアが自分の美貌を海のニンフに勝ると自慢したため、エチオピアは海の怪物に襲われる事になり、アンドロメダが生贄にならぬ限りその災厄はおさまらないという神託がありました。迷惑ですねぇ。母親の罪なんですから、母親を生贄にすれば良さそうなものです。
今にも哀れなアンドロメダが怪物に喰われるかという時、メデューサ退治をしたばかりのペルセウスが通りかかり、メデューサの頭をかざして怪物を石に変えてしまいます。そして、アンドロメダはペルセウスに伴われてその故国へ行き、妻となりました。そう考えれば、生贄がカシオペイアだったならばいくら美しくたって子持ちですから、そううまくいったかどうか
(^^;。
【ウーラノス】
星蓋。すなわち星をちりばめた空です。ガイアのみから生まれ、その躯をあまねく覆うものとなりました。また、母であるガイアとの間にクロノスを含むティターン族を生み出しました。
【エキドナ】 Echidna
エジプト起源かもしれない。この名は「蝮の女」を意味します。ヘシオドスによればティターン族であるポルキュスとケートーの兄妹の交わりから生まれました。また、他説にガイアとタルタロスの子であるともいいます。上半身は美しい女、下半身は斑のある蛇。小アジアにあるアリマ地方の火山帯地下に棲み、生肉を食べます。ケルベロス、キメラ、スフィンクス、ヒュドラなどの母。スペンサーは『妖精の女王』の中で百の舌と一本の牙を持つ魔物の母親として描いています。夫はテューポーンで、ティアマットのように、たくさんの怪物を産みだしました。また、最後には百眼の怪物アルゴスに眠っているところを襲われて殺されました。
【エリーニュース】
クロノスがウーラノスの男根を切り落とした時にその血がガイアの上に流れ、エリーニュースが生まれました。数は三人で、アレクトー、ティシポネー、メガイラといいます。
【エリス】
争い(不和)の女神。ニュクスの娘とみなされる事があります。エリスが「最も美しい方へ」と記した林檎を神々の宴席に投げ込んだ事がトロイア戦争の発端となりました。この林檎を争ったヘーラー、アテナ、アプロディーテーを公平に裁定するためパリスが選ばれたのですが、パリスを籠絡しようとして女神はそれぞれいろいろなものを約束します。このうち、アプロディーテーが与えると約束した世界一の美女をパリスが欲しがったため、人間の世界では当の美女であるヘレネをパリスが掠奪する結果となり、これがギリシアとトロイアの間に戦争をもたらしたのでした。
また、エリスからはレーテー(忘却)、リーモス(飢餓)、ポノス(労苦
Ponos)、アルゴス(苦痛)、マケー(戦争)、ヒュスミネー(戦闘)、ポノス(殺戮
Phonos)、アンドロクタシアー(殺人)、ネイコス(闘争)、プセウドス(嘘)、アーテー(迷妄に根ざす破滅)などが生まれました。
【エレボス】
カオスから生まれた闇。あるいは幽冥(界)。
【エロース】
もともとは世界に偏在する愛、あるいは神的な愛をあらわすものです。愛欲(性愛)の神としては別にピロテースがいたのですが、ピロテースは忘れられ、後にエロースが愛欲を司るものにかわりました。今では更に卑俗化し、その名はポルノの世界で盛んに用いられるようになってしまいました。
【エンプーサ】
ヘカテーに仕える女悪魔で、若者の血を好んで吸います。片足は真鍮、もう片足は鈎爪あるいは驢馬の蹄のある形で、背には蝙蝠の翼を持ち、夜は街道に出没して旅人を苦しめます。弱点は悪口雑言。エンプーサを退けたければ、とりあえず悪口を言いまくってみましょう。あ、日本語だと……駄目かもしれませんが……。
【オキュペテー】
ハルピュイアの一人。名前の意味は「素早い」「速く飛ぶもの」。
【オルトロス】 Orthros
スペインで牛飼いをしていた怪物、ゲーリュオンの番犬。二つの頭を持つ巨大で獰猛な犬ですが、十二の功業のうち十番目の仕事としてミュケナイの王のため、ゲーリュオンの牛を奪いに来たヘラクレスによって撲殺されました。
【ガイア】Gaea
カオスの次に顕れた者。大地の女神。その名は「厚い(広い)胸をした者」を意味しています。大地は豊饒である事が望まれており、それはすなわち豊満な胸をした女という事なんですね。おそらく、ゼウス以前からギリシャで崇められていたのではないでしょうか。オリュンポスの神々があらわれると、神というよりは大地の精として記憶の彼方に追いやられてしまうのですが。
ともあれ、最初に現れた母神であり、夫なくしてウーラノスを生みました。そして、ウーラノスが雨を降らせるとまず草と木が生え、魔法の湿気の中から獣たちが生まれ、魚が現れ、次いで木々よりも背が高く百の腕を持つヘカトンケイレス、更に隻眼のキュクロプス、最後にクロノスが生まれたのでした。
【カオス】 Chaos
混沌。世界の最初に在ったもの、あるいは最初に顕れたもの。語義的には「口を開けるもの、隙間をつくるもの」をあらわす言葉から派生しています。つまり、世界の最初はいいなりぱかっと開けた曖昧な空間があった……という事なのでしょう。フェニキアでは世界の初源に煙霧のたちこめる拡がりがあったと語り伝えていたようで、ギリシアのカオスも、これに近いものと呉茂一は推測しています。特に人間としての姿や性格などは持ちません。
【キマイラ】 Chimera
キメラですね。エキドナとテューポーンの子です。獅子の頭と前脚、雌山羊の胴、下半身は蛇であり、口から炎を吐きます。あるいは、獅子と雌山羊と蛇からなる三つの頭を持つ獣。蛇は、竜だとされる事もあります。あまりにも異質な動物の寄せ集めであるため、異なるものが複合したものを指す言葉としてキメラが用いられるようになったほどです。グラウコスの子、ベレロポンテース(ベレロフォン)によって退治されました。
でも、この三つの獣って、どれも太女神に関係の深いものです。しかも種類は三つ。三相一体の女神を獣の形で表したものなのかもしれません。
【グリフォン】 Griffon
ギリシア語では、グリュプス Gryps が正しい。この名は、「曲がった(嘴)」を意味する grypos に関係します。アポロとネメシスに所有され、また、オケアノスの乗物であるともされています。体の前半分が鷲、後ろ半分が獅子である獣。大きな爪を持つ。獅子八頭を合わせたより大きく、逞しいといいます。また、中世には、その目と胸は燃えるように赤く、首の羽毛は青く、翼は白いと考えられました。
【クロノス】 Cronus
ティターン族の末子にしてその長。ヘカトンケイレスを胎に押し戻されて苦しむ母ガイアに唆され、父であるウーラノスの生殖器を切り落として支配権を握るが、自分もまた、息子であるゼウスにその座を追われる事を予知し、生まれた子供を次々に呑み込むが、結局ゼウスは逃れおおせて、クロノスを追放した。しかしながら、本来は妻であるレア・クロニアの一面をあらわしたものか、それを男性化させたものだったかもしれない。レア・クロニアはクロノスの母でもあり、クロニア、レイアー、ヘーラーの三相一体の女神でもある。Chronos(時)と混同され、時の神とみなされる事がある。
通常は、大鎌を手にした憂鬱な老人として描かれる。基本的に農業神であり、おそらく、ギリシア人が南下してギリシアに入る前からその土地に住んでいた先住民-の崇めていた神と考えられている。クロノスは血族たる神々にとっては狡猾な悪者であったが、後代になってからその治世下は黄金時代であり、人間は神に愛され、苦労も悲しみもなく、平和のうちに豊かに暮らす事ができたとされている。
新プラトン派によれば、原初、世界がまだ水と泥しかない状態であった時、三番目に生じた翼ある竜で、牛と神(人)と獅子の頭を持ち、老いる事のないクロノスあるいはヘラクレスと呼ばれた。この竜からアイテール、カオス、エレボスが生じ、その下に竜は世界卵を産んだという。これはヘシオドスが語るところとは順番として逆なのであるが、特定の神を改めて最高位に押し上げる時には、しばしばこのような逆転がなされるのは避け得ない。
なお、ローマ神話では該当する神がないために、サートゥルヌスをもってクロノスに替えた。従って、同一視される事もあるが、実際には全く性格を異にする神である。
『クロノス』 井上雅彦(異形コレクション10『時間怪談』所収)
【ケートー】
ガイアとポントス(海)の間に生まれた娘。頬の美しい女神。鯨のような巨大な海棲生物を司るもの。
【ゲーリュオン】 Geryon
ゲーリュオネース。スペインに住んでいた怪物的な牛飼い。三つの巨大な上半身が腰のところで融合していました。その牛は美しい赤い牛として知られていました。といって、飼主がこんな凶悪な存在ですし、オルトロスという番犬もいましたから、ヘラクレスがミュケナイの王の命令で牛を奪いに来るまでは、狙われる事もほとんどなかったようです。ヘラクレスはこの怪物を三本の矢で射殺しました。
なお、ゲーリュオンは血筋的にはメドゥーサの子孫にあたります。メドゥーサとポセイドンの間にペーガソスとクリューサーオールという天馬が生まれ、クリューサーオールとオーケアノスの娘カリロエーの間に生まれたのがこの怪物だからです。
【ケライノー】
どうせ英語読みにするならセライノーでは。原語に近い形ならケラエノー。ハルピュイアの一人。名前の意味は「暗黒」「黒雲(嵐雲の女)」。
【ケルベロス】 Cerberus
冥府の番犬。注意したいのは、これがギリシャの冥府であり、従ってキリスト教的に罪人を罰するという意味での地獄ではない事。ケルベロスは資格のない生者が冥府に入る事、また、冥府から死者が地上に彷徨い出る事を防ぐため、入口を見張っている犬なのですな。大食い。頭は三つ以上、説によっては百もの頭があるとさえ言われます。また、尾が蛇であるとも、胴に蛇が巻きついているとも言われます。ケルベロスの通常の居場所は、ステュクス河の冥府側です。〔参照〕 悪魔としてのケルベロス
【ケンタウロス】 Kentauros
テッサリアなどに棲んでいた半人半馬族。人と馬の良いところを併せ持っている場合と、悪いところを併せ持っている場合があるようです。最も有名なケンタウロスはおそらく賢者として知られたケイロンで、彼は何人もの英雄に馬術と弓術、そして薬草の知識を授けました。
【ゴルゴン】 Gorgon
名前の意味は「怪生の女」。ポルキュースとケートーの間に生まれたステノー、エウレユアレー、メデューサからなる三姉妹をさすが、狭義には末のメデューサのみを指します。彼女らの髪は生きた蛇で、その凝視を受けた者は石と化してしまうのでした。姉妹のうち、メデューサだけがもともとは死すべき身であり、また、一番美しかった由。ところが、美しすぎたのがいけないのか、メデューサがポセイドンと寝た事がいけなかったのか、アテナによってこ〜んな姿にされてしまったのです。ギリシャに神々がいた時代、美しすぎる事は罪なのだったというわけですね。彼女らの本来の住処はヘスペリデスの園の近くですが、後代、リビアの神とみなされたりしました。
しかしながら、ペルセウスに退治されたゴルゴンの頭がアテナの盾に填め込まれた通り、実際にはゴルゴンとはアテナの破壊的な側面であったと考えられます。そもそも、ゴルゴンが三人である事が、彼女たちが本来三相一体の女神である事を意味しているといえるでしょう。蛇とは智慧であり、蛇の髪は、彼女たちが大いなる智慧に恵まれていた事をさすのではないでしょうか。
【サイクロプス】 Kyklops
キュクロープス。英語ではKがCに置き換わって発音が変わり、サイクロプスと呼ばれます。ウーラノスとガイアの子である、単眼の巨人で、アルゲース(雷光)、ステロペース(閃光)、プロンティノス(雷鳴)の三人兄弟です。父の手で、またクロノスが実権を握ってからはクロノスによって地底に閉じこめられていたのですが、ゼウスによって解放され、クロノスとの戦いにはゼウスの側に立って貢献しました。名前と父の素性から、雷精だったのではないかと思われます。『オデュッセイア』では洞穴に棲む羊飼であるとされていますが、後代、鍛冶神ヘファイトスの職人であると考えられ、エトナ山の噴煙は彼らが仕事をしている徴であるとみなされました。
【スキュラ】 Scylla
ポルキュースとケートの娘。海神グラウコスに恋されたニンフで、グラウコスはスキュラを得るためにキルケーに相談を持ちかけたのですが、その時キルケーの方がグラウコスを好きになってしまったため、恋敵のスキュラを破滅させるため、キルケーはスキュラが沐浴する泉に毒草の汁を流し込んだのでした。スキュラがこの泉に腰までつかると、たちまち下半身は咆哮をあげる怪物達の群に変化してしまいます。つまり、下半身は三列の歯を持つ六頭の犬の上半身が絡み合ったものに変わっていたのです。海神に恋されたほどですから、さぞかし美人だったものと思われます。これはたまらないでしょう。スキュラはイタリアとシシリアの間の海峡に身を投げてしまい、神々によって怖ろしい大岩に更に姿を変えられるのでした。岩にするくらいなら、救ってやれ〜〜〜〜〜〜〜。
【スフィンクス】 Sphinx
エキドナとテューポーンの子。女の顔と乳房、鳥の翼、獅子の胴と足あるいは犬の胴と蛇の尾を持つ怪物。人間の言葉を話す事ができ、ヘラに命じられてテーバイのはずれに棲みつき、通りかかる者に謎かけをしては、それに答えられなかった者を喰い殺していました。ヘラの動機は、しかも不明です。う〜ん、迷惑。謎自体はムーサ(ミューズ)から授かったものだという事です。後にイオカステの子オイディプスによってその謎を解かれ、投身自殺を遂げています。
謎については今さらここにあげるまでもなく有名なものですが、一応記しておきましょう。「朝は四本足、昼は二本足、夜には三本足で歩くものは何か」また異説に「一つの声を持ちながら四足、二足、三足となるものは何か」というもので、正解はいずれも「人間」。近年の解釈では正解者のオイディプス自身が解答であるともいいます。
〔参照〕 エジプトのスフィンクス
【セイレーン】 Sirene
ポリュクースとケートの娘。キュレネの妖精。ペイシノエー、アグラオペー、テルクシエペイアの三姉妹の名が伝えられています。航海中の船に歌いかけて水夫を惑わし、難破させたり溺死させたりするものにホメロスが与えた名前です。ハルピュイアと似て、少女の頭と赤みがかった羽を持つ鳥か、女の上半身と海鳥の下半身を持つ姿で表されます。歌の魔力が力を喪った時には死ぬ運命を定められていたため、後にオルフェウスがアルゴ船上から竪琴を奏でた時には、とうとうその魔力がうち破られ、セイレーン達は岩に変えられたといいます。また、異説では海に飛び込んだとか。中世の伝承には人魚として姿を現す事があったようなので、もしかすると海に飛び込んで人魚に変身したのかもしれませんね。
【ゼウス】 Zeus
クロノスとレイアーの子。神々の王。天空と山の頂を治めるもの。その名は「明るく輝く空」を意味します。ヘラを妻としますが、女神だろうとニンフだろうと人間だろうと、手当たり次第に浮気しています。また、そのために様々なものに変身しました。しかも、その結果たくさんの子供を作っています。それらの子供はたいがい、神か半神か英雄になっています。聖木は樫、聖鳥は鷲です。
雷神としての正確も持ち、普段はオリュンポスにあって雲を天蓋とし、雷電を王笏にしています。
ゼウスの住まいはギリシアの最高峰であるオリュンピア山。その宮殿は「鋼を敷いた」と歌われます。寒そう(-_-;)。とはいえ、古代ギリシアにあって、鋼鉄はまだまだ大変入手しにくいものだったのでしょう。
生まれた時のエピソードについてはレイアーの項目を参照のこと。成人してからゼウスは兄弟と力をあわせて父クロノス及びその兄弟、すなわちティターン族と戦いますが、この時、ガイアの助言によってウーラノス、クロノスの二代にわたってタルタロスに幽閉されていたキュクロープスとヘカトンケイレスを味方につけます。この時、キュクロープスはゼウスに雷電を、プルートーンに隠身の兜を、ポセイドーンに三叉戟を贈ったのでした。
【タナトス】
ニュクスから生まれた死。但し他にも避けられない宿命としての死モロス、暗い命運としての死ケールという兄弟がおり、それぞれニュアンスが異なるもののようです。タナトスはより破壊的な死を意味するのでしょうか。かなり初期にその使い分けは曖昧になってしまったようで、タナトスが精確にはどのような死を意味するのかまではよくわかっていません。
【ダフネ】 Daphne
月桂樹の女神。予言の樹の女神。伝説では、アポロの求愛を逃れるために月桂樹に変身した河の神の娘とされています。とはいえ、月桂樹の葉は噛むと陶酔感や霊感をもたらすもので、このため狂宴と関係がありました。ダフネの名は本来はダポエネ Daphoene 、すなわち「血塗れの者」を意味し、この女神を崇拝する女達は月桂樹の葉を噛みながら血の供犠を行っていたのです。これは、アポロの祭儀が広まり、その中に吸収されて月桂樹を噛む事がデルポイの巫女に限られるようになるまで続けられていました。
【タルタロス】
【タロス】 Talos
クレタ島の番人。青銅でできた巨人で、岩を投げつけて船が許可なく近寄る事を防ぎます。本来はおそらく青銅の時代の人間であり、トネリコから生まれた者であると云われますが、後にはすっかり全身が青銅で不死身の存在となりました。但し、踵の筋の下に真赤な血管が薄い膜で覆われている部分があり、ここが唯一の弱点となっています。また、異説では灼熱に身を灼いて、両腕に人間を抱きかかえては殺したともいいます。メディアの導きを得たカストールとポルックスによって殺されました。
【ディオニュソス】 Dionysos
植物神。特に葡萄の神。また、陶酔の神。祝祭の主。その名は「怒号する者」を意味します。雄牛との関係も深く、雄牛の角を持つ若者、あるいは暴れる雄牛として描かれます。また、常に葡萄を持っています。本来は外国起源ですが、その出身はトラキアであるともプリュギアであるともクレタ島であるとも言われ、よくわかりません。信仰の中心地はエルサレムにあったと云われています。
ギリシャにおいては、母がテーバイの女王セメレーで、父はゼウスと伝えられています。セメレーはディオニュソスを身ごもっている時に、嫉妬深いヘラに騙されてゼウスの真の姿を見てしまい、その光があまりに強いので焼き尽くされてしまうのでした。その灰の中からゼウスは胎児を拾い上げ、なんと自分の太股に縫い込んで、月満ちるのを待ったのです。えぐいぞ〜。せめて代理母を使って欲しいですねぇ。この事から、ディオニュソスは「二度生まれた者(ディメートール)」とも呼ばれます。
ディオニュソスの生まれについては異説もあります。それによると、ゼウスは蛇の姿で母であるレアを犯し、後に冥界の女王となるペルセポネーを生ませました。しかも今度はペルセポネーを犯して、ディオニュソスを生ませたというのですな。これがほんとの見境なし。また、デメテルやレテが母であるとする説もあります。
この神の祭礼は大変騒々しく荒々しいもので、特にその信徒の女達は「熱狂している女(マイナデス)」と呼ばれ、恍惚として山野で踊り狂い、獣たち(時には人間すら!)をとらえて引き裂いては生のまま喰らったとか。かなり秘教的な要素も含んでいた事と、大変な狂宴を伴った事から、ローマに渡ってからは何度も元老院によって禁止された由。この神は別名をリーベル・パテル「解放者」といいますが、これは政治的な意味合いでは勿論なくて、理性や社会的なしがらみから人々を解き放つものという意味だったのでしょう。
ディオニュソスの象徴である、松かさをつけた杖テュルソスは男根の形をした笏です。聖獣は狐であり、狂宴において女達はしばしば狐の皮をまとったと云われています。更に、古くはディオニュソス・メランアイギス「黒い山羊皮のディオニュソス」と呼ばれ、ディオニュソス自身は黒い山羊の皮衣をまとっていました。また、血塗れの狂宴はすなわち、ディオニュソスの流す血が大地を豊饒にする事を意味し、信者達が狂宴を通じて神の肉と血を味わった事を意味しています。
【ティシポネー】 Tisiphone
その名は「破壊」または「仕返し」を意味します。復讐の女神エリーニュースの一人。真鍮の爪と翼を持っています。神々の怒りをかった者を苦しめるのが仕事で、決して殺す事なく永遠に苛む手を休める事はありません。
ウーラノスの娘であるとも、神々のうち最も古いものであるとも言われます。
【ティターン】 Titan
「支配者」を意味する。ガイアとウーラノスの間に生まれた者たち。オリュンポスの神々より前に存在した巨神族。その長はクロノスです。ゼウスに率いられたオリュンポスの神々と戦いましたが敗北を喫して、苛酷な運命に追いやられてしまいました。〔参照〕 アトラス、プロメテウス
【ティフォン】 Typhon
ガイアとタルタロスの間に生まれました。ギリシャ語の発音に近く表記するならテューポーンの方が良いでしょう。熱風の神です。特に砂漠から吹く熱風であり、疫病をもたらす神でもありました。その名は「激しい勢いで吹き出す、荒ぶるもの」という意味で、妻であるエキドナが火山帯の下に住む事を考えると、現在そうと思われているような颱風ばかりではなく、火山の爆発もその顕れであるかもしれません。エキドナとの間に多くの怪物をもうけました。自身が大変怪物的な姿を持っています。すなわち、翼を持ち、指の替わりに百頭の龍を備え、下半身は無数の毒蛇に覆われ、眼からは火を噴くというのです。巨人族の一員ですが、むしろ蛇神か龍神と呼びたいような姿ですね。
【ドリアード】 Dryades
ドリュアデス。あるいはまたハマドリュアデス。森のニンフ、すなわち妖精。美しく、足の速い娘の姿をした精霊で、森と谷を支配し、野生の動物を守護します。アルテミスの狩り仲間でもあります。特に樹木と関係が深く、特定の樹と結びついており、その樹が枯れると共に死んでしまいます。当然の事ながら、彼女らは斧を持つ人間を嫌いました。
【ナルキッソス】 Narcissus
自己愛の象徴。伝説ではエコー(谺)という名のニンフに愛されながら、それを顧みる事なく、ただ日がな泉の畔で自らの姿を水鏡に映して過ごしたため、罰として水仙の花に変えられてしまったといいます。ウォーカーによれば、これはディオニュソスの異型であり、魂を捉える水の精の棲む泉に生贄として捧げられる植物神であり、花の形で毎年甦るものです。
【ニケー】 Nike
「支配」又は「勝利」を意味する前ギリシャ時代の女神です。生誕の河としてのステュクスから生まれ、パラス(男根)を産み落としたと言われます。雪花石膏のように白い肌、雪のような翼、燃えるような金髪を持っていました。
【ニュクス】 Nyx
闇を意味します。混沌、すなわちカオスの娘にして光の母。黒い衣をまとった夜の女神で、陰鬱かつ激しい性格をしていますが、一方で安らかな眠りを与える存在でもありました。
また、ニュクスはエレボスと結ばれてヘーメラーすなわち明るい昼を生み出しました。ニュクスとヘーメラーは対となる存在ですが、ニュクスの方が優位にあるようですね。また、ニュクスはタナトスやヒュプノス、オネイロス(夢)なども産み落としました。一説には黄昏の娘であるヘスペリデスもニュクスの娘であると云われています。
【ネーレウス】
ガイアとポントス(海)の間に生まれた海神。通常、老人の姿で表されます。優しく正義を愛する神として知られ、海底の洞窟に住んでいます。美人揃いのネーレイデス(ネーレウスの娘たち)とともに海を治めていますが、特にネーレイデス達は波を鎮め、風を和らげ、海流を導く役割を負っています。
【ネメシス】 Nemesis
「分配する者」。応報の女神。テミス(必然)の娘で、林檎の樹で作られた運命の車を持ち、鞭を腰にたばさんでいます。ニュクスの娘とされる事もあります。神に代わって正義を行う者として報償と刑罰を分配します。すなわち驕り高ぶる者を懲らしめる一方で、才能ある不遇な者に高い地位を与えるのです。また、不当な事に対する憤りを表すともされます。
本来は季節の女神であり、太陽の運行を司る役目を負っていたと考えられています。
【ハーピー】 Harpyiai
これは英語読み。タウマースとエーレクトラーの子。本来はハルピュイア(複数形ハルピュイアイ)ですね。名前の意味は「掠め取る者」あるいは「むしり取る者」。葬儀に使われたハープとの関連もあるかもしれません。クレタの聖山ディクテに棲む死の精で、虹の女神の姉妹でもああります。女性の頭と胸をした鳥の姿をしています。また、長くゆるやかな髪を垂らし、翼をもった女性として描かれる事もあります。彼女達はおぞましい場所に棲み、癒されない飢えに悩まされているため、常に青ざめた悩ましげな顔をしているとか。また、もの凄い悪臭がしたそうです。古典ではオキュペテー、ケラエノー、アエローの三人姉妹が確認されています。本来は嵐の精であり、稲妻を表す黄金の武器を揮い、雲の乳を搾るものであったようです。
出自としてはポントス(海)がオーケアノス(海洋)の娘エーレクトラーとの間に生まれた娘にあたります。
『風の中の顔』 カール・ジャコビ作(『黒い黙示録』所収)
【パンドラ】 Pandra
人間(男)を破滅させるために神々から送り込まれた女。危険な贈物。決して開いてはいけない、と言われていた箱を開く誘惑に耐えきれず、その中に封じ込まれていたありとあらゆる禍……戦争や疫病、死などを外に出してしまいました。しかしながら、最後に、底には希望だけが残ったと伝えられています。不思議なのは、何故いろいろ嫌なものが詰まった箱に希望も一緒にいれられていたかですね。本来は禍であったものが変質したのか、それとも、箱が開く事は避けられないと推測していたプロメテウスあたりが、あらかじめ救済措置として仕掛けておいたのか。
ところでこのパンドラも、本来は太女神の一人であったと考えられています。疫病を司る神がそうであるように、地下に棲む冥府の相を強く打ち出した女神だったかもしれません。
【ヒドラ】 Hydra
よりギリシア語の発音に近く表記するなら、ヒュドラ。テュポーンとエキドナの子で、多数の頭を持ち、レルネー近くの沼地に棲んでいました。この頭は蛇であり、数はシモニデスは五十と述べ、その他の説によれば九つとありますが、どっちにしたって、切り落とせばそこから二つ生えてくるのですから、数えてもあまり意味がないように思われます。これを落とすためには、火で焼く他手はありません。また、真中にあった頭の一つは不死でした。ヘラクレスがこれと戦い、頸を刎ねるたびに、助け手を務めたイオラーオスが焼けた鉄を傷口に押し当てて新たな頭がはえてくるのを防いだといいます。火だけでなく、もしかすると鉄も、効力を持っていたのかも。最後に、不死の頭はヘラクレスによって巨大な丸石の下に埋められ、これはいまだに生きているといいます。まことにしつこい。
ヒュドラの息は大変な猛毒で、沼地の水や周りの空気を汚染していたそうです。また、これを退治した後、ヘラクレスは胆汁に鏃を浸して毒矢を作り、後の怪物退治に役立てました。
【ピュートーン】 Python
「大いなる蛇」「黒い太陽」。時にエジプトのアポピスと同一視されます。ゼウスの助けを借りずにヘラから生まれたといいます。デルポイの神霊であるため、海豚の姿をとる事もあったようです。大地の中心にある窖オムパロス
omphalos に棲み、このために大いなる智慧を持っていました。デルポイの神殿を支配していた予言を与える神霊でしたが、アポロによって射殺されました。また、太陽神としてのアポロが冥界にいる時の姿であるとも言われます。〔参照〕 スナッピー(海豚)
中世以降、悪魔の一員として数えられ、「嘘をつく霊の君主」と呼ばれる予言する怪蛇とみなされました。
【ヒュプノス】 Hypnos
ニュクスの子。名前の意味は「眠り」。地下世界に住み、夜になると地上を渉猟して甘い眠りを人々にもたらす神。『イーリアス』中では、ゼウスの怒りを逃れたヒュプノスが鳥に姿を変え、夜のもとに逃れたと述べられている。尤も、ゼウスの怒りをかった理由というのは、ヘラクレスを妨害しようとしたヘラが、それを邪魔されないようにゼウスを眠らせる事をヒュプノスに頼んだため……というのだから、とんだとばっちりというもの。ゼウスとヘラの夫婦の被害やいかばかり(^^;。しかも『イーリアス』中ではギリシャ方に肩入れしようとしたヘラが、またしても同じ事をヒュプノスに頼み、前の惨状を思いだしたヒュプノスがゼウスの怒り怖さに……というのですから、大変です。後に、プシュケーの苦難を救ったりする事もあり、ギリシャの神のうちでは慈愛深い部類なんじゃないかと思います。
【プルートーン】
ゼウス、及びポセイドーンの兄弟。クロノスを打倒した後、籤引きによって冥界を支配する事となりました。キュクロープスに贈られた隠身の兜を持っています。冥界の支配者となってからのプルートーンについて語られる物語として第一に有名なのは、ペルセポネーに関するものでしょう。他に、オルフェウスの物語でも、重要な役回りで登場します。
【プロメテウス】 Prometheus
名前は「先見の明」を意味します。人間に火をもたらした者。人間に火の使い方を教えた者。「明敏な助言者」。ティターン族のイアペトスと妖精クリュメネーの子で、生まれからゼウスに敵対する者でした。アトラスやエピメティウスなどは彼の兄弟にあたります。兄弟がゼウスに戦い挑んだ時、ただ一人プロメテウスだけが勝利をつかんだのですが、その代償として大きな苦痛に耐え、しかも未来の出来事についての知識を明かさないという犠牲を払わなければなりませんでした。最後には岩に繋がれて昼は鷲に肝臓をついばまれ、夜にはその肝臓が再生されるために、永遠に苦しまなければならない事になります。
ヘシオドスによると、世界には黄金の種族、白銀の種族、青銅の種族、英雄の種族、鉄の種族がいて、いずれもゼウスによって滅ぼされました(鉄の種族、すなわち我々だけは何とか生きのびたのですが)。このうち、白銀の種族はプロメテウスによって不敬虔となり、鉄の種族は一旦とりあげられた火を、神々のもとから盗んできたプロメテウスによって再び与えられ更にその使い方を教えられたという事です。
プロメテウスがいかに人間を愛し、人間がゼウスの奴隷となる運命から免れさせたかには、次のような話もあります。神々に生贄を捧げる方法を人間に教えた時、プロメテウスは食用に適した部分を人間が食べ、そうでない部分を神々が取るように導いたのです。謀られたとはいえ、ゼウスは自らその部分、すなわち脂肪と骨を選んでしまったので、後からこれを変えることはできませんでした。このため、ゼウスはプロメテウスと人間に復讐を誓ったのだといいます。
【ヘカーテ】 Hekate
ギリシャ語としてはアクセントの位置がずれ、ヘカテーになります。名前の意味は「遠くから働くもの」。エジプトのヘケトと関係が深く、ヘカテーの聖獣も蛙です。ティターン族に属します。三叉路の女神であり、月とも関係が深い。特に月の三相の女神としては、老婆と死の相にあたります。後に魔術の女神と見なされ、黒い雌の山羊や黒い子犬を生贄として捧げられるようになりました。また、三頭の女神として描かれる時、魔術の女神としてはこれらの頭が犬、獅子、馬におきかえられていました。
【ペガサス】 Pegasus
ペガサスは英語読み。ギリシャ語の発音に近く表記するのならペーガソス。よく知られている通り、翼のある馬です。特別な馬具を用いる事でのみ、捕らえる事ができます。メデューサが首を斬られた時にそこから噴きだした血の中から生まれました。但し、その原因となった交わりはメデューサがまだ美しい娘であった頃に行われ、相手はポセイドンであったといいますから、一応受精卵はあったようです……ってそれでいいわけないけど。また、その蹄は地を蹴れば泉(ペーゲー)を湧き出させる事ができました。その一つであるヒッポクレネ(馬の泉)は、ミューズの住処であるヘリコン山にあり、ペガサスがミューズにも関わりのある事を物語っています。ペガサスの背に乗る者は詩的霊感を得るとも言われています。
ベレロポンテース(ベレロフォン)がキマイラを退治する時に父である海神から賜ったとも、アテナに策を授けられて捕らえたとも伝えられています。
翼のある馬は、この他に「慈悲深く破壊する雌馬」であるアガニッペや、デメテルから生まれた「高みにある月の生き物」アレイオンなどがいます。アガニッペはデメテルの化身であるとも言われています。
聖王または英雄が死ぬ事=天界へ移動する旅の象徴であり、キマイラ退治の後、ペガサスに乗って天界へ翔け昇ろうと企て、その背から落ちて野馬の餌食となったベレロポンテースの伝説は、かつて聖王が雌馬の装いをした女神官(女王)によって生贄とされた儀式を基底にしていると考えられます。
【ヘカトンケイル】
ヘカトンケイレス。単独の怪物ではなく、複数です。すなわちコットス、ブリアレオース、ギュエースまたはギューゲースという三人兄弟。ガイアとウーラノスから生まれた異形の巨人。五十の頭と百の腕を持ちます。どういう肩や胸をしているのか想像がつきませんが、大変な強者で、岩に砕ける波浪を擬人化したものだと云われています。
あまりに醜いため、生まれるそばからウーラノスの手でタルタロスに幽閉されました。いわば、大地の胎に子供を押し戻そうとしたようなもので、ガイアは大変に苦しみ、とうとう鋼鉄で巨大な鎌を作り、ウーラノスを滅ぼすよう迫る事になります。結局はクロノスによって(あるいはクロノスが先頭に立って)ウーラノスを追うわけですが、その時クロノスに協力したにも関わらず、やはりヘカトンケイレスはタルタロスに閉じこめられる事となります。最終的には、ゼウスがクロノスに立ち向かう時タルタロスから解放されましたが、後にタルタロスに幽閉されたティターン族を見張る番人となります。かつての囚人が看守となったわけですね。
【ヘスペリデス】
黄昏(ヘスペロス)の娘。海洋の西の涯の園で黄金の林檎の樹を守っている姉妹ですが、特にそれ以外の特徴は持たないようです。常に歌いかつ舞っていると想像されています。〔参照〕 ニュクス ラドン
【ヘラクルス】 Heracles
ギリシャ語で正しくはヘラクレスです。ラテン語ではヘルクレス
Hercules になります。名前は「ヘーラーの栄光」という意味ですが、実際にはヘラの敵意により、大変な目にあった英雄です。それというのもゼウスと、テーバイの女性アルクメネーの間に生まれた子供だからで、庶子が正妻に睨まれるのはいつの世もありがちな事なのでしょう(^^;。あまりのヘラの敵意にとうとう追いつめられたヘラクレスは狂気に陥り、なんと家族を殺してしまったのでした。その償いとして成し遂げなければならなかったのが、かの十二の功業というわけです。
十二の功業を順番にあげていきますと、(1)
ネメアの獅子退治 (2) ヒュドラ退治 (3)
アルカディアの鹿の捕獲 (4)
エリュマントスの猪の捕獲 (5)
アウゲイアス王の厩の掃除(なんと三千頭の牛がいたのだ) (6)
ステュンパロスの森の鳥(アレス神に属する邪悪な生き物)退治 (7)
クレタ王ミノスにポセイドンが贈った雄牛の奪取 (8)
トラキアの人喰い馬の奪取 (9) アマゾーンの女王の帯の奪取 (10)
スペインに棲んでいた怪物ゲーリュオンの赤牛の奪取 (11)
ヘスペリデスの林檎の奪取 (12)
冥府からケルベロスを連れてくる事。
この功業が完了した後、ヘラクレスは半人半馬のネッソスと争い、おそらくは巫女であったデイアネイラを妻として勝ち得ますが、ネッソスの企みによってその血に浸され、毒となった衣をまとったために命を落としてしまいます。そして火葬され、天に昇って星の間に位置を占めるようになりました。
【ペルセポネー】 Persephone
穀物の女神デーメーテールの娘。「乙女(コレー
Kore )」と呼ばれていた彼女は非常に美しい娘で、オケアノスの娘たちと花畑で遊んでいるところをプルートーンに誘拐されるのでした。デーメーテールはこれを嘆いて地上のいたるところを探し歩き、このために大地は不毛となってしまいます。そこでゼウスが仲裁にたち、もしペルセポネーが冥府で何も口にしていなかったら、デーメーテールの手元に返されるという事になったのですが、残念ながらペルセポネーはすでに柘榴の粒を少し口にしてしまっていたため、一年の半分を冥府すなわち地下で、残りの半分を地上で過ごす事に定められました。(また異説では一年の三分の一を地下で、三分の二を地上で)。とはいえ、これは後代に創られた物語だと考えられます。
何故なら、ペルセポネーという名は「破壊する者」を意味するからです。すなわち、実際には、コレー、デーメーテール、ペルセポネーが三相一体の女神なのです。おそらく、本来はオリュンポスの神々より先に崇められていた地母神が吸収され、穀物の女神と冥府の妃神として残っていったのでしょう。
別名として「収穫の乙女」「穀物の母」があり、密接に穀物と結びついている事が示されていますが、地下の女神としては亡霊や怪物を送り出したり、呪詛に応えてそれを実行したりする女神でもあったようです。
【ポセイドーン】
クロノスとレイアーの子。ゼウスが成人した時、ガイアの策略によってクロノスに吐き戻されました。首尾良くクロノスを打ち破った後、籤引きによって海を支配する事になりますが、これがいまひとつ気に入らなかったらしく、後にしばしばゼウスやその娘アテナと対立するようになります。
ポセイドーンが手にしている三叉戟は、クロノスと戦う際に、キュクロープスから贈られた武器です。
【ミノタウロス】 Minotaurus
字義通りにはミノス王の牛。ミノス Minos
は「月の生物」を意味し、代々のクレタ王の添え名として用いられました。クレタ王は月の太女神に仕える聖王であり、生贄に供される雄牛ミノタウロス、すなわち月の雄牛と同一視されたであろうものです。後の伝説では生贄とするための美しい白い雄牛を神に捧げるのが惜しくなったミノス王が、他の牛を代替にしたため、怒ったポセイドンが妃であるパシパエーに、その雄牛と交わるよう呪ったのでした。模型の雌牛の中に潜み、この雄牛と通じたパシパエーは身ごもり、牛頭の男子を産み落としたのです。雄牛はもともとポセイドンが送ってきたもので、ミノス王はそれをポセイドンへの生贄にすると誓ったのですから、他の牛を代替にされた神が怒ったのは仕方ないとはいえ……パシパエーには罪はないと思うのだが……。神託によってこれを閉じこめるために有名な迷宮がダイダロスによって作られ、年々属国であったアテーナイから人身御供として七人の少年と少女が送られましたが、後にテセウスがその一人として迷宮に入り、クレタの王女アリアドネの協力を得てミノタウロスを屠りました。
実際の歴史上でも、クレタ島では古代、牛を神獣として崇めており、実際に女と牛が交わる秘儀も行われていたといいます。また、突進する牛の角を掴んで、その体を飛び越える競技も、(おそらくは宗教的儀式の一部として)盛んに行われていたのでした。
【メガイラ】 Megaera
意味するところは「恨み」。おそらくはデメテル・クトニアの黒い大洞穴(メガラ)に関連し、悪事を働く者を罰する精霊としてそこから現れたのではないかとウォーカーは述べています。従って復讐の三女神エリーニュースの一柱であり、犬と関わりがあります。伝説では、この名はヘラクレスの妻にも与えられています。
【メデューサ】 Medusa
ゴルゴンの末妹。その名はおそらく、「女の智慧」を意味する。太母神の破壊的側面を表すもの。その顔を直視する事は石化と、それによる死を招くと言われます。蛇の髪を持つ、蛇女神であり、伝説ではリビアの女王の一人で、ペルセウスによって退治され、アテナの盾に飾られるべく、切り落とされた首を奪われました。
しかしながら、何故そもそもペルセウスはメデューサの首を切り落としたのでしょうか。吸血鬼と同様、首を切り落とす事なしに、滅ぼす事が不可能な存在だったのでしょうか。そういえば、吸血鬼もその視線をもって犠牲者を釘づけにする事ができますね。
さて、ギリシア神話で怪物として語られているメデューサですが、本来はコリュントスで古くから崇められていた女神で、デメテルとほぼ同一の性格を持つか、同一視されていたようです。夫神はポセイドンであるかもしれません。何故なら、ギリシア神話でも、美しい娘であった頃にメデューサとポセイドンが交わっていたため、後に怪物となったメデューサの頭が刎ねられた時、その頸からペーガソスが生まれたのだと語られているからです。
【モイライ】
運命の女神。紡ぐ者クロートー、分配する者ラケシス、曲げ得ない者アトロポスの三人からなる古い女神で、夜、すなわちニュクスの娘とされる事もあります。三相一体の女神はしばしば太母神的性格を持ち、月とも関連が深いですから、あながち不思議な事でもありません。後に、クロートーは紡ぎ織り、ラケシスあるいはアトロポスが紡ぐための糸口をとり、また鋏で糸を切る姿で描かれるようになりました。
【ラドン】 Ladon
世界の西の涯にある園に住むヘスペリデスの黄金の林檎を守っている蛇。象の牙より長く鋭い歯を持ち、半マイル近くの体長を誇ります。
【ラミア】 Lamia
リュビアの女王でしたが、ヘラによって子供を殺されたため、その復讐のために、世界を彷徨い歩いては主に幼児の血を飲んだり、人の肉を喰う悪鬼となりました。見かけは大変に美しいといいます。この他に様々な異説があり、竜や蛇とともに砂漠の洞窟に棲むともいい、また、巨大で貪欲な魚、おそらくは鯨か水に棲む竜であるとするものもあります。また、ヘラによって蛇に姿を変えられた美少女であったという説もあります。しばしば、吸血鬼の代名詞としても用いられます。
【レイアー】
クロノスの妃。ヘスティアー、ヘーラー、デーメーテール、プルートーン、ポセイドーンなど、生まれる子供を次々に夫に嚥まれてしまった為、ゼウスが生まれた時、巨石を身代わりに夫に嚥ませ、子供はクレタ島に隠した。この策略はガイアが授けたものだともいわれますが、思えばガイア、レイアと二代にわたって天の妃は夫に虐待されていたわけで、二人の結びつきは結構強かったのかもしれませんね。
なお、ゼウスが成人してから、ガイアは再びはかりごとをめぐらせて、クロノスに吐剤を飲ませ、かつて嚥みこんだものを次々吐き出させたといいます(って事は、子供は消化吸収されなかったのでしょう。あるいはかなりえぐい状況が展開されたのか、それともクロノスは食事をしない体質だったのか……(-_-;) )。当然、最後に嚥まれたゼウスの身代わりの石が真っ先に出て来たわけですが、これはパルナッソス山の麓、後にデルポイ神殿が建てられるところ、ピュートーに記念として据えられました。
【レト】 Leto
アルテミスとアポロの母神。ギリシャ本来の神ではなく、東方の豊饒の女神ラトが原型であると考えられます。このためか、レトについての記述は混乱を極めています。月の女神であるアルテミスの母でありながら、レト自身もまた、月の女神であるポイベの娘なのです。その上、ゼウスによって受胎させられた人間の処女であるともされています。
レトの名は「石」または「婦人」を意味し、北極星または地軸の神であるポロスの娘でもありました。レトは、狼の国リュシスから雌狼の姿でデロス島にやってきたと言われています。イヌ科の動物がしばしば言われ宇ように、狼の姿であったため、レトもやすやすとアルテミスを産み落としたので、安産の女神とも目されます。