北欧-Scandinavia
【イグドラジル】 Yggdrasil
これは英語読み。ユグドラシルの方が原語に近い表記でしょう。根を複数の世界に伸ばし、梢は天界を支える巨大なとねりこ、すなわち宇宙樹です。特に太い根は三本あり、第一は巨人の国の地下にあってミーミルの泉を抱え、第二は霧の世界ニフルヘイムに伸びてフヴェルゲルミルの泉を抱え、また、ニーズヘグに囓られており、第三は天界にあって聖なる泉ウルズを抱き、ここを神々の会議の席としています。
さて、名前そのものは「恐ろしきもの(ユグ)の馬」すなわち「オーディンの馬」を意味します。つまり、オーディンはこのとねりこに九日間自らを吊す……犠牲にする事によって、ルーン文字を得たのです。また、それ故か、ウプサラではオーディンへの犠牲は聖樹の上で絞殺するか、刺殺される事によって捧げられました。ちなみに、九はゲルマン民族にとって神聖な数にあたります。
なお、これに関連して絞首刑のように樹から吊される事を、”馬に乗る”と称する由。
〔参照〕 ハングドマン
【イズン】
ブラギの妻。若返りの林檎を護る女神で、その林檎をトネリコの箱にしまっています。ある時、ロキによって巨人スィアチの手に落ちた事がありますが、その瞬間から、エシール神達は歳を取り始めました。ロキが鷹に変身してイズンを取り戻してくるまで、それは続きました。
【ヴァーリ】 Vali
オーディンとリンドの間に生まれました。バルドルが死んだ時、その直接の原因となったヘズを殺しました。
ロキの息子で、彼が捕らえられた時に狼に変えられた同名のものがいますが、それとは無論別の神です。
【ヴァール】
誓言の化身たる女神。
【ヴァルキリー】 Valkyrie
オーディンの個人的な従者。戦場に飛来しては勇敢な戦士を守護し、戦死した者を天上のヴァルハラへ運んでいく。また、ヴァルハラではそこに住む「勇者の魂(アインヘリヤル)」の宴の酌取りとなる。……これでは、結婚したキャリアウーマンのよう(;‥)/。
原型は夢から現れ、戦士を守護し、白鳥や狼などに姿を変える事ができる精霊フュルギヤ
fylgja ではないかと云われています。
【ヴィーザル】 Vitharr
名前の意味は「森」。オーディンと女巨人グリースとの間に生まれました。普段は森に住んでいます。ラグナレクの時にフェンリルを殺すものです。その殺し方は、『グリームニルの歌』では心臓を剣で刺し貫いて、また、『スノリのエッダ』では片足で下顎を踏みつけ、一方の手で上顎を押さえ、口を引き裂いたと歌われています。
【ヴェルザンディ】 Verthandi
ノルンの一人。「現在」を体現するもの。その名は「生成する者」を意味します。また、母性と月の諸相とも関わりがあった。
【ウル】
トールの義理の息子。弓矢やスキーの技に長け、戦士の神の一員で、特に決闘の時に祈願されます。ノルウェイで広く崇拝されました。ユーダリル(いちいの谷)に館を構えています。なお、いちいは弓を作るのによく用いられる木材です。
【ウルズ】 Urdr
ノルンの一人。その名は「母なる大地」、「運命」を意味します。但し、本来は「編む者」または「織姫」を意味したようです。創造の言葉を体現する者でもあります。ノルンを代表する者、すなわち三柱の女神の最年長の者でもあり、現在・過去・未来について知悉しています。ノルンが守る泉そのものすら、ウルズの泉、ウルダルブルンネル
Urdarbrunnr
と呼ばれるほどです。この泉は智慧の泉であり、神々の集会所でもありました。つまり、泉の水がもたらす智慧が神々の集会にとって重要なものだったわけですね。このように、泉と女神と智慧が結びつけられた例はケルト神話などにも見る事ができます。
この泉は大変神聖であるため、泉に入る者は「卵の殻の中の薄皮のように」色が白くなると伝えられています。
【ウン】
エーギルの娘の一人で、浪の化身。
【エーギル】
ギュミルとも呼ばれます。海の神。
【オーディン】 Odin
戦神であり、魔術の神でもある隻眼の神。神の中では最初に生まれた者であり、エシール(アサ)神族の長でもあります。「神々の父(アルファズル)」「戦死者の父(ヴァルファズル)」「勝利の父(シドファズル)」「人々の主(ヴェラチュール)」「狡猾な目つきの(ビレイグル)」「燃える視線の(バレイグル)」「隻眼のもの(ハール)」「禍いをひきおこす者(ベルヴェルク)」「仮面を被る者(グリームニル)」など様々な異名を持ちますが、本来のオーディンという名は猛々しい、あるいは凶暴な、といったような意味ではなかったかと言われています。この神はライン河畔で崇拝されるようになり、ヴィーキング行が盛んであった時代に戦士や貴族階級を中心に広まり、それより以前に信仰されていた天空神ティールに取って代わったようです。また、農民の神トールをも息子として取り込みました。
何故隻眼かにはちゃんと理由があり、これは代償として奪われたのだと言われています。どうしても智慧が欲しかったオーディンは、智慧の泉に出かけていって、番人の巨人ミーミルに片目を引き渡す事で、その水を飲む事を得たのでした。こうして、オーディンはもの凄く賢くなったというのです。また、オーディンは詩人達の神でもあるのですが、これにはなかなか狡い物語があります。つまり、小人達が蜂蜜と賢者クヴァシルの血を混ぜ合わせて醸した魔法の蜜酒を盗んできて飲んだから……というのですな。どうも、オーディンの智慧というのはむしろ狡智と呼んだ方がいいんじゃないかという気もしますね。もしかすると、トリックスターたるロキと義兄弟の契りを結んだのも、そんな性質が共通していたからかも。〔参考〕 イグドラジル、ハングドマン、ヘーニル
【ガルム】 Garmr
「怒れるもの」を意味する gramr から派生した名前だと考えられます。犬の中で最高のものであり、ヘルを護るものです。
【サーガ】 Saga
巫女の女神、またフリッグと同一であるとする説もありますが、正体はよくわかっていません。スカルド(吟遊詩人)の詩にしばしば登場する女神です。セックヴァベックという館に住んでいます。
【シギュン】 Sigyn
ロキの妻。その名は「滴る」を意味する
siga に関連するようです。ロキがエシール神族に捕らえられ、二人の息子(おそらくはシギュンとの間に生まれた)のうち、狼に変えられたヴァーリが引き裂いたその兄弟、ナリまたはナルヴィの腸で岩に縛りつけられ、また、その頭上に毒蛇が縛りつけられると、桶を持って滴る毒液を受ける事が彼女の役目になりました。
桶が一杯になると、シギュンは中身を捨てにその場を離れなければいけませんが、そうすると毒液が顔に滴ってきて、ロキが苦しさのあまり猛烈にもがくため、大地が揺れ、地震が起こると云われています。
【スカジ】 Scathi
トールに殺された巨人スィアチの娘で、その名は「傷つくる者」を意味します。父の復讐のため武装してアースガルズに来たスカジは、代償として神々の誰かと結婚できる事になりましたが、条件として、脚だけを見て相手を選ばなければなりませんでした。スカジはバルドルを選ぼうとしましたが、残念ながら海神ニョルズを選んでしまいます。
フレイとフレイアの母にあたります。
【スキンファクシ】 Scinfaxi
「輝く鬣をそなえたもの」。太陽を牽く馬。その鬣は常に輝いています。〔参照〕 フリームファクシ
【スクルド】 Skuld
ノルンの一人。一名を死のノルン。スカンディナヴィアの名のもととなった破壊の女神であるスカディ
Skadi
の異型でもあります。また、スクルドの名そのものは「税」「債務」「義務」といったような意味を持ちます。
彼女はノルンのうちでも、最後に来る者です。最後に来る者といえば万物にとって「死」であるに決まってますね。また、誰でも支払わなければならないものでもあります。北欧の詩人
skald はこの女神に仕える者でした。
【スルト】 Surtr
ムスペルヘイムの主。その名は「黒い」を意味しています。炎の剣を持って国境を護っていますが、ラグナレクが来ると、配下の火の巨人族を率いて世界を滅ぼします。
【スレイプニル】 Sleipnir
八本の足を持つ葦毛の駿馬。オーディンの馬。オーディンが吊り下げられたユグドラシルがオーディンの馬と言われたように、スレイプニルもオーディンが架けられた絞首台とみなされます。何しろ、その名前は「滑走する者」という意味であると同時に、「絞首台の木」という意味を含んでいるのです。従って、スレイプニルは死のシンボルとして扱われています。
さて、そのスレイプニルですが、大変異常な状況のもとに生まれました。
ミズガルズが創られてほどなく、オーディンの館ヴァルハラを建てようとしていた時、一人の鍛冶屋が現れて、いかなる巨人でも攻め入る事のできない難攻不落の砦を造ると申し出たのでした。そのかわりに、鍛冶屋はスヴァジルファリという馬を使う事を条件にし、また、フレイヤと月と太陽を報酬にする事を求めました。神々はロキの助言でこれを受け容れますが、今にも期限内に砦が完成しそうになると、鍛冶屋の正体が巨人らしいと感づいた神々は、報酬を支払うのが厭になり、ロキに対応を押しつけたのです。そこでロキは美しい雌馬に変身してスヴァジルファリを誘惑し、砦が期限内に完成しないように工事を妨害しました。いよいよ期限内の完成が不可能になったとわかると、鍛冶屋は巨人の正体を表しますが、そこへ東へ遠征に行っていたトールが帰還し、巨人を撃ち殺してしまいます。一方、スヴァジルファリとの交情で身ごもった雌馬としてのロキは、日が満ちて子馬を産み落とします。これがスレイプニルなのです。
【ディース】
本来は祖母の霊で、産婦の分娩を助けるものでしたが、後にノルンやフュルギヤ、ヴァルキュレアと混淆しました。
【ティール】 Tyr
これも英語読み。本来はテュールですね。オーディンより古い神。天空神。そもそもテュールとは「神」という意味だった由。ところが、太陽を魔狼フェンリルに喰われるのを阻止する際、片手を食いちぎられて隻手となってしまうのだった。これによって本来の地位をオーディンに奪われたと考えると、ゲルマン-ケルトに共通な、”王たる者は五体満足でなければならない”という慣習が関連していそうな気がしますね。
なお、テュールの父は巨人で、ヒュミルといいます。麦酒を醸す大鍋をテュールとトールがヒュミルの処へ仮に行った時、トールは力比べの一端としてヒュミルとともに海釣りに行き、ヨルムンガンドルを釣り上げました(但しキャッチ・アンド・リリース)。
【トール】 Thor
雷霆の神。赤毛の、逞しい男の姿で表され、「歯ぎしりする者」という名を持つ二頭の山羊を繋いだ戦車を駆り、投擲すれば必ず敵を斃して自らの手に戻ってくる不思議な槌ミョルニールを携えている。霜の巨人の不倶戴天の敵。また、その腰には力帯が巻かれ、手には鉄の手袋がはめられている。ミョルニールと力帯、そして手袋を手に入れたについてはそれぞれ物語が残されています。とはいえ、一番面白いのは、ミョルニールが石の巨人族に奪われた時の話でしょう。これがなくてはエシール神族が覇を唱えているわけにはいかないので、なんとしてもミョルニールを取り戻さなければいけないのですが、それと引き替えに巨人族は、女神フレイアをよこせというのでした! 無論、フレイアが聞き入れるわけもなく、なんとトールが花嫁姿をして赴く事になるのです。この”女神”を石の巨人フルングニルが娶ろうとするわけですが、結婚の風習で、武器で花嫁を浄め、それを花嫁の膝に置くのですな。無論、これをたちまちひっつかんだ花嫁は、本性を現して巨人族を殺戮してしまいます。概して戦神オーディンよりも豪放磊落で、農民の守護者でもあり、より広く親しまれた神と言えるようです。当然、トール信仰も長い間続き、トロンヘイムの聖所は11世紀まで賑わっていた他、その槌が聖遺物として崇められたり、聖なる森や泉、そしてトールの聖日である木曜日が尊重されたりという形でおよそ16世紀まで、信仰され続けたようです。
トールの妻はシヴであると言われますが、本来はトゥルド(力)と呼ばれる女神でした。事実、アスガルドにあるトールの館は「トゥルドの野(トゥルドヴァンガル)」と呼ばれています。トゥルドは地母神で、牛と関係があったかもしれません。
〔参照〕 ヨルムンガンドル
【トロール】 Troll
地精。山、森、曠野、洞窟などに住む巨人で、ゴブリンの王とみなされる事もあります。また橋の下に腰を下ろして、彼らに供物を捧げずにこれを渡ろうとするものを獲って喰うと云われています。ウォーカーによれば、本来は異教の賢女(ハッグ)と同一のものだったのではないかという事です。北欧では他に、虹の橋(ビフロスト)を守るワルキューレが橋と関係していますが、日本でも橋はしばしば女神や女の姿をした精霊や鬼と深い関わりを持っていますね。
優秀な鍛冶屋であり、財宝を守っています。また、男女両性がいます。白夜にはしばしば山野を彷徨します。
近世以降にはトロールの背丈はだいぶ縮まり、赤毛をした悪戯好きの小妖精になってしまいました。洞窟に棲んでいるところは同じですが、踊りを好み、取り替え子をするなど、それまでなかった要素があらわれています。
【ニーズホッグ】 Nidhoggr
ニーズヘグ。スペル上、dはthとdの間の音、oはややeがかった音なのですが、通信上は表示でいませんので御容赦。原音になるべく忠実に記すとニーズヘグとなるわけです。
怒りに燃えてうずくまるもので、その姿は黒い飛龍であり、ユグドラシルの根を囓る蛇とも伝えられています。
【ニョルズ】
海の神。後にスカジを妻に迎えます。ノーアトゥーン(船の館)と呼ばれる館に住んでいます。
【ノルン】 Norn
運命を司る三相一体の女神。「運命を支配する姉妹」。それぞれ、「高貴なる者」「同様に高貴なる者」「三番目の者」と呼ばれますが、より一般的にはウルズ(大地または運命)、ヴェルザンディ(存在)、スクルド(必要)、「成れる者」「成りつつある者」「将来成る者」などのように呼ばれる事もあります。世界樹の根本に湧く生命の泉であるウルダルブルンヌル Urdarbrunnr (ウルズの泉)の水源にある洞窟に住んでいます。また、オーディンよりも古い神々であり、全ての神を支配する者でもありました。
【ハミンギャ】 Hamingja
幸運をもたらす守護霊。生きている間特定の人間についてまわります。死ぬと、身内の者に移る事もあります。
【バルドル】 Baldr
光の神。オーディンとフリッグの子。エシール神族のアイドル的存在。ブレイザブリク
Breithablic 「幅広き輝き」と呼ばれる館に住んでいます。
ある時、バルドルは命にかかわる予知夢を見たと云われます。このため、神々はバルドルを喪う事のないよう相談をし、母であるフリッグは世界中のありとあらゆるものにバルドルに危害を加える事のないよう約束させました。ただ、幼いヤドリギ一本だけが、あまりに幼すぎるためにその約束から見逃されたのです。何もバルドルを傷つけないのですから、神々は面白がって、いろいろなものをバルドルに投げつける遊びを始めました。ところがロキはこれを面白く思わず、うまいことフリッグから例のヤドリギの事を聞き出しました。そして、秘かにそのヤドリギを手に入れると、盲目であるために遊びに加われずにいたバルドルの弟ヘズにそれを手渡し、バルドルに投げつけさせるのでした。
バルドルは斃れ、フリッグはヘルモーズを冥府に使わしますが、ヘルがバルドルを天上へ返す交換条件としたのは、万象がバルドルのために泣く事でした。フリッグは再び世界中のものにバルドルのため泣く事を頼みますが、ただ一人、ロキが変身した女巨人がフリッグの頼みを断ったために費えます。
しかしながら、ラグナレクが終わると、新しい世界とともに、再びバルドルは甦る事になっています。
【ファフニール】 Favnir
実際はアクセントが a にきますから、ファーヴニルとなります。巨人族ですが、善意による事なく手に入れた宝(従って呪われている)を護るため巨大な蛇あるいは龍に変身しました。英雄シグルドが、育ての親であるファーヴニルの弟レギンに唆されてこの宝を奪うためファーヴニルを屠りました。また、その心臓をレギンのために炙っている時、それに触れた指を舐めたために、鳥の言葉がわかるようになりました。
【フィヨルギュン】
大地の女神。フロージュンとも。トールの母でもあります。
【フェンリル】 Fenrir
フェンリルといえば、通常思い浮かぶのは、北欧神話に登場する妖狼ですね。別名フェンリスウールヴ(フェンリス狼)。神話中で幾つかのエピソードを持ちますが、そこでの素性としては、元々巨人族でありながらオーディンと義兄弟の契りをかわしてエシール神族の一員となったトリックスター、ロキと女巨人アングルボダの三人の子供の一人です。他の二人は、冥府の女神ヘルと、海中で成長し、大地(ミズガルズ)をひとめぐりするほどになったヨルムンガンドルすなわちミッドガルドの大蛇です。
ロキの子供たちが神々の滅びに関与するという予言のもと、フェンリルはまだ子狼の時に捕らえられましたが、どんなに頑丈な足枷でも引きちぎってしまったと云います。このため、アサ神族は小人族に依頼して、猫の跫音、女の髭、山の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾を材料として作ったグレイプニルという名の美しいリボン様の足枷を作り、「どんな足枷でも引きちぎる事ができるのだから、こんなリボンが切れない事はないだろう」ともちかけました。フェンリルは神々の様子を疑い、それで自分を縛る間、誰かが自分の口に手を入れておくよう求めます。そこで戦神ティールが片手をフェンリルの口にさしこんでいる間に、神々はこのリボンで彼を岩に繋ぎましたが、勿論、リボンはみかけ通りのものではあり
ませんから、フェンリルはどうしてもこれを切る事ができず、騙されたと知ってティールの手を食いちぎりました。そのまま、顎を剣で縫われ、ラグナレクまで繋がれていますが、時が至ると解き放たれ、オーディンを殺すものとなります。但し、フェンリル自身はヴィーザルによって殺される事となります。
もうひとつ、フェンリルは太陽を飲み込む者である事が〈巫女の予言〉に語られています。但し、この予言ではフェンリルがロキの子であるかどうかは触れられておらず、ただ「東の”鉄の森”(イアールンヴィズ)に棲む老婆(魔女)から生まれた一族」とのみ云われています。これは巨人族ですが、皆、狼の姿をしており、最も強い者はマーナガルムすなわち「月の犬」と呼ばれ、死ぬ人間の肉で腹を満たし、月を捕らえ、天地を血に染めると〈ギュルヴィたぶらかし〉で説明されています。特に太陽と月をおいかける二頭は、太陽をおいかけるものがスコル(騒音)、月を追いかけるものがハティ・フローズヴィトニスソン(悪評高き狼の息子、憎悪あるいは敵)という名であるとか。ここではェンリルとは一族の名として扱われているようです。但し、フローズルスヴィトニル(悪評高き狼)はフェンリルの別名でもあります。これは自然現象を説明する神話として、日蝕や月蝕を説明しているといわれますが、また、ラグナレクの際に太陽を飲み込むものとしてのフェンリルは、冬至の象徴でもあります。
個人名ならぬ個狼名としてのフェンリルは、通常雄性とみなされていますが、バーバラ・ウォーカーはこれが本来雌であった可能性を示唆しています。つまり、冬至に太陽を飲み込み、再び新しい太陽として産み落とす太母神としての狼ではなかったかという推定です。
【ブラギ】
【フリームファクシ】 Hrimfaxi
「霜の鬣を持てる者」。夜を牽く馬。毎朝その轡から滴る泡が、谷間の露となります。
〔参照〕 スキンファクシ
【フリッグ】 Frigg
フリーンとも呼びます。オーディンの正妻。バルドルの母。愛と結婚の女神で、エシール神族の女神のうち、最高の位を得ています。
【フレイ】
ヴァニール神族の海神ニヨルドの息子で、フレイアとともにエシール神族のもとへやってきた人質です。その名は「領主」を意味しています。とはいえ、この家族関係は本来は母−妻−娘であるフレイアを争う二柱の神、フレイとニヨルドであり、両者は一年のそれぞれ半分を象徴していたと考えられます。すなわちフレイとフレイアが一対であるように、フレイとニヨルドも同じ一柱の神の両側面を表しているのでしょう。
フレイは「暗くゆらめく炎を超えられる馬」と「一人で巨人族と戦う剣」の二つを宝として持っていましたが、巨人ギュミルの娘ゲルズに恋し、その娘を手に入れるためそれらを二つとも従者のスキールニルに与えてしまいました。
別名「ベリの輝く殺し手」。剣を持たなかったため、巨人ベリを牡鹿の角で打ち殺した事によります。
また、フレイはアールヴヘルム(妖精界)の支配者でもあります。
【フレイア】 Freya
この名は「奥方」を意味します。「猫の女王」「大いなる雌豚」「ヴァルキューレの先導者」「予言者」など、多くの添え名を持っています。元来はエシール神族ではありません。ヴァニール神族とエシール神族の戦の後、和睦の保証たる人質として来たのです。海の神ニヨルドの娘で、同じく人質として来たフレイは兄(おそらく本来は夫)にあたります。名前の意味は「女主人」。明らかに兄妹で一対の神で、聖婚の儀式に関係が深いと考えられます。兄は猪を、妹は猫に牽かせた戦車を乗り物として用いています。フレイアは最も美しい女神と讃えられ、もともとのエシール神族でオーディンの妃であるフリッグと同一視される事もあります。
彼女もまた、オーディンと同様戦場で死んだ勇士を自らの館フェンサリス
Fensalir (沼、あるいは大広間、海の宮殿)に迎え入れます。但し、館の名はフォールクヴァング
Folcvangr (戦場)と呼ばれる事もあります。実際のところ、戦死者の半分は彼女のところへ行くのです。このため、彼女をヴァルキューレの一人と数える事もあります。彼女の有名な首飾り、ブリシンガメン
brisingamen
は死後の楽園である異界へ入るための虹の橋でもあります。
更に、フレイアは原初の女族長、聖なる祖母達であるディシールまたは「力強き者たち」を意味するアフリエの長でもあり、従って魔術(セイズ)の女神という一面も持っていたようです。エシール神族に魔法を教えたのもフレイアであると云われています。
【フレスベルグ】 Hraesvelgr
「死体を飲み込むもの」。巨人の一員ですが、鷲の姿で天の一角におり、その翼から風を生みだしています。
【ヘイムダル】 Heimdall
海より生まれ、「王」 rig
と呼ばれた神。神話上の重要な役目は、全世界を監視して、ラグナレクが訪れる時に、角笛ギャラルホルンを吹き鳴らしてその到来を告げる事です。身をやつして地上を彷徨う事もあり、そのような放浪の途上、豊かな家と農家と貧しい家のそれぞれで一晩づつもてなしを受け(すなわち、三相一体の太女神の各相と聖婚し)、モージル(母)との間になしたヤルルを祖先とする貴族、アンマ(祖母)との間になしたカルルを祖先とする農民、エッダ(曾祖母)との間になしたスレールを祖先とする奴隷の三つの階級を生み出しました。 〔参照〕 ムスッペル
彼を産んだのは浪の化身である九人の巨人の娘で、地上と天を結ぶビルレスト(虹)の麓にヒミンビョルグと呼ぶ館を持ち、ここから普段は世界を眺めています。その生まれから、波間から昇る曙光の化身であるともみなされます。
ラグナレクの時に彼に約束された運命は、ロキと戦って相打ちになるというものです。
【ヘーニル】 Hoenir
神々が海岸で拾ったとねりこと楡(と云われるが実際は未詳)の流木から人間の男女を創り上げた時、人間に心を与えた者。名は「番人」「射手」を意味するが、このエピソード以外には登場しません。
〔参照〕 ローズル
【ヘズ】 Hoethr
バルドルの弟である盲目の神。その名は「戦」を意味します。ロキの企みにより、運命のヤドリギを投げてバルドルを殺し、そのために弟のヴァーリに殺されました。ラグナレクの後、バルドルとともに甦ると予言されています。
【ヘル】 Hel
ロキとアングルボダの間に生まれた娘。フェンリルと同じ理由で彼女はギョル河(ざわめく河)に囲まれたニフルヘイム(霧の国)に追放され、冥府の女神となりました。このため、彼女の名は冥府そのものをも意味するよになります。尤も、戦士した勇者はアスガルズに行くわけですから、彼女のもとへ送られるのは病死した者、老衰した者、女などです。但し、元来は全ての死者がニフルヘイムに行くとされていたようです。また、彼女の国へ至るためにはグニパヘリルと呼ばれる、切り立った岩で囲まれた洞窟を下らなければいけないらしいです。
ヘルの名は「隠すもの」を意味します。冥府の女神としての彼女は、半身が青く、半身が人肌の色をしています。後にキリスト教の時代が来ると、彼女の名は地獄を意味する事となりました。
【ベルセルク】 Berserk
bear sark、つまり熊の毛皮をまとった戦士。戦いの時は非常に凶暴になり、超人的な力をもって敵味方の区別なく殺戮すると言われています。また、熊に変身する力があるという伝説もあります。本来は雌熊の姿をとる月の女神ウルセルの加護のある戦士の事を指します。
【ヘルモーズ】
オーディンの子で、バルドルの弟。バルドルが命を落とした際、身代金を積んでヘルからバルドルを返してもらうため、使者にたちました。
【ミーミル】 Mimir
オーディンの叔父にあたる巨人であり、その名は「考える人」を意味します。智慧の泉の番人であり、日々その泉の水を飲むために大変な智慧者であると云われています。オーディンはこの泉の水を飲むため、片目を代償として差し出さなければなりませんでした。然しながら、その後もミーミルはしばしばオーディンの相談役となります。一口飲んだだけの者と、毎日飲んでいるものでは、やはり智慧の量にも相当な差があったのでしょう。
【ムスッペル】 Mutspell
ムスッペルとは何者か? ゲーム上の絵を見れば、ムスペルヘイムの火の巨人であるように見えない事もありません。事実、スルトの配下である火の国の軍勢はムスッペルと呼ばれます。
ウォーカーによれば、ムスペルヘイム、またはムートスペルハイムは、「母の呪いの地」を意味すると考えられます。北欧神話では概して女はあまり活躍しません。例外は太女神であるフレイアですが、これもエッダでは本筋にあまり登場しないように見えます(ヴァニール族の出身だからという言い訳はあてはまらないでしょう。巨人族出身のロキがあれほど活躍しているのですから)。また、『エッダ』は「太祖母」を意味し、事実鉄の森の老婆がオーディンに与える予言ですが、ここでそもそも太母は貶められた存在として描かれているのです。これだけ男性的な世界であるにも関わらず、それはムスペルハイムからもたらされたものによって滅びてしまうのでした。尤も、オーディンのような新しい男神に強制された太母が、好意的な事を言うとはあまり思えませんが……。
民話で、家を出る時に母に呪われた者が悲惨な運命を辿るように、エシール神族とその世界は最初から母に呪われていたのかもしれませんね。これは、オーディンを長とする父権的な神々が興った時に衰退した太女神、三相一体の女神の破壊的な側面が、暗に影響しているのかも知れません。
【ユミル】 Ymir
「荒れ狂うもの」を意味します。巨人の先祖。エシール神族はその肉から大地を、血から海を、頭蓋骨から天を創ったと云われます。ブリミル Brimir (騒ぐ者)、ブラーイン Blainn (色黒き者)などの別名を持ちます。
【ヨルムンガンドル】
ミズガルズの蛇。ロキとアングルボダの間に生まれた子の一人で、海に投げ込まれた結果、大地を一巡りするほどの図体にまで成長しました。この蛇が激怒して尾で浪を打つと、海が荒れると云います。ラグナレクの時に海から這い上がり、トールに毒を吐きつけて殺しますが、自らもまたトールによって斃れます。
ヨルムンガンドルはラグナレク前にもトールとは二度、出会っています。一度はトールがヒュミルとともに海釣りに行った時で、鯨を餌に、トールはヨルムンガンドルを一度釣り上げたのでした。また、幻戯の術に長けた巨人スクリューミルの館では、猫にみせかけられたヨルムンガンドルを床から持ち上げる事で大力を示し、巨人達の肝を冷やさせたのです。
【ローズル】 Lodurr
神々が海岸でアスク(とねりこ)とエンブラ(にれ)の流木を拾った時、オーディンが息(命)を、ヘーニルが心を、ローズルが生命の暖かさと美しさを与えたと云われます。名の意味は「誘惑者」。ロキの別名とも推測されていますが、はっきりした事はわかっていません。
【ロキ】 Loki
北欧神話における偉大なるトリックスターです。本来は巨人族の出ですが、オーディンと義兄弟の契りを結んだため、エシール神族に迎え入れられました。その名は「閉じる者」「終える者」を意味し、また、「火」
logi
にも結びつけられます。「終える者」としては世界の終末をもたらす神として解釈される一方、火の神とする説も有力。いずれにせよ、火はとらえどころのない形をしていますし、ラグナレクの時に世界に終末をもたらすのは、ムスッペルハイムから来た火の巨人達ですから、終末と火とは関係なくもないわけですね。
様々なものに変身する事ができ、しかも雌性のものに変身した場合は子供を産むことまで可能でした。たとえば、スレイプニルは雌馬に変身したロキが巨人の所有する種馬と交わった結果生まれた駿馬なのです。
〔参照〕 イズン、バルドル,シギュン