東欧-Slav
【ヴィー】 viy (ウクライナ)
地霊。地中に棲む怖ろしい老人。その姿は鉄の指と、筋張った木の根のような土だらけの手足をして、胴は短くずんぐりしたがに股の男。瞼はだらりと足許まで垂れ下がり、蜘蛛のような顔つきをしているという。たくさんの妖怪の親玉格であるところをみると、本来は大地を守る神であったのかもしれない。礼拝堂にすら平気で入ってくる事ができるが、夜明け(昼の光)には耐えられない。以上の様子はゴーゴリの短篇『ヴィイ』で知られる。また、この物語の中で、ヴィイに支配された富裕なコサックの令嬢は悪鬼となって学生をとり殺した。
【ヴォジャノーイ】
内陸の水辺に現れる黒い鬼。また、蛙のような人間、緑の髪をした老人、浮木、巨人のような姿である事もある。馬のように鯰に跨る。泳いでいる人を引きずり込んだり、水藻のふりをして子供をおびきよせたりして、その肉を喰ってしまう。また、ボヘミアでは、春、水面の氷が溶ける頃に豚や馬の供物がないと、怒って洪水を起こすという。
【キキーモラ】 (東スラヴ)
家付き妖精。夜、赤ん坊が泣くのはキキーモラのせいだと言われる。糸紡ぎが得意で、もしもキキーモラの糸紡ぎの音を聞いたり、その姿を見る事があれば不幸が訪れる。
【クドラク】 kudlak (スロヴェニア)
邪霊。邪悪な魔術師自身か、それが死後変容してなった怪物。疫病や作物の不作、様々な不運はたいがいクドラクが原因であるとされる。また、馬や豚、雄牛、その他の動物や火の輪に変身する事ができる。クドラクであるとみなされた者は、復活してますます邪悪なものにならないように、死んだ時に西洋サンザシの杭で串刺しにしたり、膝の下の腱を切断したりしておく。常に無実の者や無防備な者を遅い、クルースニクとは激しく対立する。いわば闇の象徴であり、クドラクである者はそれを体現するかのように黒い色をしていると云う。
【クルースニク】 krsnik (スロヴェニア)
クレスニク Kresnik とも。十字架を意味する krat から派生した言葉で、一種の善なる魔術師であり、クドラクとは正反対の性格をしており、その仇敵でもある。その存在意義からして、そもそもクドラクを倒す事にあると云う。また、クドラクが黒いように、クルースニクは常に白い色をしている。馬、豚、雄牛その他の動物や火の輪に変身する事ができ、人々やその家を守る。光を体現する者であり、最終的には必ず勝利する事になっている。
【ストリゴイイ】 strigoii (ルーマニア)
自殺者、魔女、犯罪者、偽証者、吸血鬼に殺された者、七番目の息子、胞衣をまとって生まれた者、猫に跳び越えられた屍体、胎内にいる時吸血鬼に睨まれた者、片思いの末結婚できずに死んだ者などが死後にストリゴイイ(女はストリゴイカ
Strigoikca)なる。一種の屍鬼で、生きている者の血を吸う吸血鬼である。これを防ぐためには鎌を屍体の心臓に突き刺したり、九つの錘を埋葬した後の地面に突き刺しておくと良い。また、埋葬に用いたロープや屍体が黒魔術を行う者の手にわたると、親族までが吸血鬼にされるかもしれない。
ストリゴイイは一般的に赤毛と青い目をしており、二つの心臓をを持つと云われる。
【チェルノボグ】 Chernobog
「黒い神」であり、ベロボーグと対立関係にある。死の神であり、呪詛を助けるものでもある。相互の関係についてはっきりした事はわかっていないが、黒と白の対立はロシアからブルガリア、セルビアに至るまで普遍的に見られるものである。
【ドモヴォーイ】
家を守る妖精。名の一部にあるドム dom は家を意味している。家の者はドモヴォーイを「お祖父さん」と呼ばなければならないという風習から、祖先の霊とも関係しているのかも。パンと塩といった僅かな供物と引き替えに一家に幸運を約束し、農場の仕事を助け、死者が出る前触れに呻き声をあげる。但し、この妖精がもたらす幸運は近隣から盗まれたものである事もある。また、ドモヴォーイを馬鹿にしたり、供物をくすねたり、その姿を盗み見たりすると、他の家に去ってしまうか、復讐される事もある。
【トリグラフ】 Triglav (西スラヴ)
字義的に「三つの頭」を意味する。戦士の神であり、西スラヴで信仰を集めた。シュテッティンに主要な神殿がある。黒い馬を聖獣とする。
【ノスフェラトゥ】 nosferatu
私生児から生まれた私生児が死後に変容してなる怪物。埋葬後すぐに墓から這い出し、生者の血を吸ったり、その肉を喰う事を喜ぶ。また、新婚の者を憎み、男を不能に、女を不妊になるよう呪う事ができる。一方、人間の女との間に子供をなす事ができるが、その子供は全身が体毛に覆われていて、モロイイと呼ばれる吸血鬼である。ノスフェラトゥを退治するには墓に銃弾を撃ち込むか、串刺しにする方法が用いられる。
【パドリ】 (ルーマニア)
大抵、少女の姿をしている妖精。但し、樹や煙などに変身する事もある。ある老人によれば、刺繍をしたハンガリアン・ブラウスだけを身に纏っていたという。風のように泣き、また、歌うが、言葉をしゃべる事はない。パドリが現れる前兆として、しばしば、風が吹き始め、羊が騒ぐ。
【ベロボーグ】 Byelobog
この名は「白い神」を意味する。善、または光の体現であり、世界の涯でチェルノボグと最後の決戦をすると言われている。
【ポリスーン】 (白ロシア)
森の精。この名前はスラヴ語で森を意味する les に関係する。また、後代ウクライナでは聖エゴーリイと同一視された。スラヴの森の精がしばしばそうであるように、ポリスーンも狼を支配するものである。また、森の獣たちの主でもある。
【ポルドニツァ】
白い服を着た背の高い娘姿の精霊で、収穫の季節、ライ麦畑に現れる。ポルドニツァは、真昼に働く農夫の頭をつかんでぐるぐるまわし、耐え難いほどの頭痛を与える。
【モコシ】 mokos
おそらく、ロシア語のmokryj(湿った)と共通であり、慣用句「母なる湿った大地」とも関係して、大地を潤すという権能による豊饒の女神であると考えられる。
【ヤリーロ】 Jarilo (セルビア)
春の豊饒の神。白い衣を着て白馬に跨り、右手には人間の頭、左手に麦の穂を持つ若者の姿で表される。4月の27日に「ヤリーロの葬礼」と呼ばれる死と復活の儀式が行われた。
【ルサールカ】
水の精。ロシア北部では光る緑の目をした青白く冷たい女だと言われ、ダニューブ河地方では美しい歌声をした妖艶な女だという。一説に事故か暴力によって溺死した女がなるといわれる。また、水の中にだけ棲むわけではなく、冬は水中で過ごし、春は丘に上がり、聖霊降臨際の頃に森に入って、夏は木の精になって過ごすという。ヴォジャノーイの妻であるともいう。また、貧しいが勤勉な農夫を秘かに助ける事もするらしい。