うつ病エピソード

depressive episode

1) 初期症状

 最初は身体的な不調を自覚し、睡眠障害、食欲減退、頭重感、疲労感、同期などが現れる。億劫になり、興味を失い、能率が低下する。記憶力減退、判断力低下を自覚する。自信を喪失し、自分を責めすぎ、れ投函を抱いてしまう。しかしなお、仕事は平常どおりにやり他人との応接にも勤めて平成を装うので、職場などでは、異常が目立たないことが多い。この間、数週間かかる緩慢な発病(うつ病)である。まれには数日間で急速に発病し、特に静止症状が強く、終日就床するようになるものもある。
 発病に心理的社会的誘引の関与が認められることが多い。その発病(うつ病)状況によって、特殊な呼び方をする場合がある。根こそぎうつ病 Entwurzelungsdepression は移民、強制収用など、自分の生活の根拠を失って起こるもの。引越しうつ病 Umezugsdepression は中年以後の女性で長く住み慣れた住居を移したときに起こるもの、荷おろしうつ病 Entlastungsdepression は長い心理的ストレスが続いた生活から急に緊張が解消したときに起こるものなど。注意するべきことは、発病状況としては、新築、昇進、子供の結婚、などいわゆる慶事の場合でも起こりうることである。特に執着性気質の人で、やがて生じてくる状況の変化に対して、無意味な取り越し苦労から始まり、次第にうつ状態が発展することを注意しなければならない。

 何か積極的な環境刺激があると、一時的に軽快するのは軽症の場合で、重症のうつ状態(うつ病)では、周りの社会的状況の変化には全く普遍である。

2) うつ状態の基本症状

(1)抑うつ気分 depressed mood
(2)興味あるいは喜びの喪失 loss of interest ore pleasure がほとんど全ての面で毎日続くこと
(3)身体的症状として、睡眠障害、食欲不振、体重変化
(4)その他の抑うつ症状として不安、精神運動制止または焦燥、思考の渋滞、気力減退、思考力の減退、活動性低下、罪責感、自殺念慮、症状の日内変動、離人感などがみられる。

 (うつ病)患者は自分の気分を悲しい、暗い、望みがない、打ちひしがれた、ふさぎこんだ、などと表現し、悲哀 sadness と絶望 despair を抱く。表情は沈うつ、不活発で、涙ぐむこともある。強い抑うつは、感情の動きはおもぐるしく平坦となり、無感動 apathy となる。
 これまで、楽しみの種であった趣味をやめる。いつも見ていたテレビ番組を見なくなる。友人や家族から引っ込み、社会的対人関係をわずらわしく感じるようになる。
 制止と激越 psychomotor retardaion or agitation は、話が遅く、堪えるに時間がかかり、低い単調な話し方で体の動きも遅くなるように現れる。いかにも疲れているように見受けられる。重症では寡黙となる。思考と行為における制止または渋滞が強度になると、行動、発語が全く起こらず無表情となることがあり、これを抑うつ性混迷 depressive stupor という。この反対に苛立ちまたは、激越 agitation (または焦燥)があるときは、足ふみをし、静かに座っていられず、髪の毛、皮膚、衣服などを何かひっぱったりこすったりし、不平を爆発させて叫ぶ。かえって多弁になるなど。
 思考面でも思考力の低下を訴え、集中困難、思考テンポの遅延、決断不能 indecisiveness がみられる。
 軽症の場合には渋滞(または意志発動の制止)が、表面的には目立たず、おもに自信喪失感、悲哀感、絶望感など主観的体験が中心となる。

3)その他の主な症状

 不安感、いらいら、くよくよ、身体の健康に対する過度の憂鬱、時には恐怖発作、恐怖症として表現される。
 しつこい食欲不振があり、体重減少が1ヶ月で体重の5%以上あるとき。まれに体重減少3%以上。
 うつ状態で感情状態の異常が種々の身体的自覚症状の背後に隠れていることが非情に多い。睡眠障害、同期、胃腸障害などの身体的症状だけを訴え、抑うつ気分を積極的に訴えないことが少なくないので注意を要する。これを最近では、仮面うつ病 masked depression と呼ぶ場合があるが誤解を招きやすい概念でもある。しかし、多数のうつ病患者が、疲労感、倦怠感、頭重感、同期、息苦しさなど(すなわち身体的抑うつ somatic depression) の訴えで内科医を訪れ、心臓神経症などとして取り扱われるのが、過去の現状(今もそうかもしれない)である。
 入眠はまずまずよいが、明け方に2時間以上速く目覚めて、眠れないままにあれこれと考えて苦悶感がつよくなること(早朝覚醒 erly morning insomnia) はもttも特徴的な睡眠障害である。入眠障害、断続的な眠り、中途覚醒もしばしばみられる。時には過眠を示す症例もある。
 症状の日内変動として、朝目覚めたときに悪く、時間が経つと次第に良くなり、夕方になってやっと人心地がついたように感じることが多い。これを日内変動 diurnal variation という。
 自信喪失(自我感情の渋滞)または無価値感。これは何かしっくりしない感情があるという軽症のものから、自分の価値について完全に否定的な評価までいろいろである。これが生命力の減退の自覚と結びついて、ほんの軽い仕事でさえ困難となり、その些細な失敗が誇張されて否定的な自己評価を確かめる材料となる。
 罪悪感 guilt は、現在あるいは過去の失敗について過剰な反応の念にとらわれ、取り返しのつかないことをして家族に対し、または職責上、実に申し訳ないというものである。時には、その罪深さは妄想的確信に至る。
 注意集中の困難、思考の渋滞、決断不能もしばしばみられる。記憶困難を訴え、注意が散漫になりやすい。
 自殺念慮 suicidal ideation と自殺企図 suicidal attemt は必発といってよい。死や自殺についての観念は、はじめ希死念慮(死ねるものなら死にたい)、死の恐怖、そして自分や家族さえも一緒に死んだほうがうまくゆくという確信(拡大自殺)、さらに具体的な自殺願望、自殺計画へとつながってゆく。
 軽症の場合には、自己およびあらゆる物事に対する興味が失われ、それらのものからも遊離して、自分自身もよそよそしく感じ、また周囲との感情の共感もなくなってしまったという離人症 depersonalization がみられることもある。
 妄想はよくみられ、軽い疑い深さから関係妄想まであり、時に真性の妄想もまれにみられる。よく現れる形としては、罪業妄想 delusion of guilt で、自分の罪や、何か不適切な行為のために処罰を受けなければならない、あるいは法律に触れているなどと考える。時には妄想の内容がうつ病患者の抑うつ的観念とは何ら関係ない内容さえある。抑うつ的観念と関係深い内容としては、このほか虚無妄想 nihilistic delusion や貧困妄想 delusion of poberty――事業の不振をきっかけにして経済的に立ち直ることが不可能となった、破産して明日からの生活にも困るなど――、心気妄想 hyopchondriacal delusion――癌などの重症の病気に罹っている、脳が溶けてしまった、自分の体はもう死んでいる、など――がある(コタール症候群とは微小妄想、虚無妄想とともに、不死妄想、すなわち、自分は永久に死ぬことができず、生を行き続けなければならないと確信するもので、退行期うつ病にまれにみられる)。
 幻覚は一般的ではない。あったとしても一過性で、その内容は抑うつ観念にかんけいあるのが普通である。










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