以前Cafe OPALのレヴューに載せてもらったシドニーオリンピック新体操レヴューの続き
である。
前回はアリーナ・カバエバを中心に書いたが、今回は彼女以外の注目選手、注目点につい
て書きたい。

まず僕にとって最もショックだったのは、ブルガリアのテオドラ・アレクサンドロバが不
参加だったこと。現在の新体操界はスタイルや柔軟性といった身体能力を非常に重視して
いる。そのため作品構成自体の面白味に欠ける演技が以前に比べて多くなっている。また
伴奏曲を充分に生かし切れていない選手も多い。実に残念なことである。
僕が新体操を見出した80年代後半は、ブルガリアとソ連が新体操界を牽引していた。両国
ともに手具操作や身体能力といった技術力、曲の表現力を両方兼ね備えた選手が揃ってい
た。それに加えて作品の構成も実にドラマチックであった。そしてそれぞれの選手の個性
を充分引き出していた。
アレクサンドロバは、新体操選手としてはスタイルは決して良くないし、柔軟性にも欠け
る。現在の流れの中でチャンピオンになれる選手ではない。しかし彼女しか出し得ないス
ピード感、10回転以上のピルエット、アクロバティックな手具操作で魅せてくれるので
ある。昨年の世界選手権でも最も拍手が大きかったのは彼女であった。表現力という点で
は若干の疑問を感じるが、彼女はまさにエンターテイナーである。僕が新体操を見始めた
頃の興奮を感じさせてくれる数少ない選手である。
その彼女が今回の五輪には不参加であった。ケガでもしたのか? 後身に譲ったのか? 
こうなれば19歳という年齢からいって引退するのは確実だ。今年の春の欧州選手権で彼女
は10位くらいだったので、新体操王国復活を目指すブルガリアとしては将来有望の若手の
名を売るためにとった措置かも知れない。いずれにせよ今回の五輪で彼女がどんな演技を
するのか楽しみにしていた僕にとっては大変残念であった。昨年の世界選手権に続き、再
びシドニーの観客を楽しませて欲しかった。

昨年の世界選手権2位のベラルーシのユリア・ラスキナが今回も2位になった。ここ最近
はずっとカバエバと優勝争いをして2位が続いていただけに、カバエバが失敗した今回は
金メダルのチャンスであったが、彼女もカバエバと同じくhoopでミスしてしまい、2位に
終わったのだ。
彼女はとても力強い動きをして、怪しい雰囲気を醸し出していて魅力的な選手だ。まるで
沸騰する水のような強さ、勢いを感じる。今年は曲の使い方や振り付けなど、昨年よりも
さらに彼女の個性が生かされていた。それだけにミスが残念であった。

4位には97年の世界チャンピオンでアトランタ五輪の銅メダリスト、ウクライナのエレー
ナ・ビトリチェンコが入った。23歳で今大会の最年長選手だと思う。昨年の世界選手権は
5位に終わって表彰式で涙を流し、観客の同情をかって人気を高めた。が、今年の欧州選
手権では得点を不服として途中棄権し、バッシングを受けていた。昨年まではシドニー五
輪での金メダル獲得が目標だと断言していた。しかし今年の欧州選手権の結果を受けてか、
今大会では「成績よりも観客に満足してもらう演技をしたい」として臨んだ。独特の間の
取り方の表現と正確な技術はさすが元世界チャンピオンである。たしかに見る者を充分満
足させてくれたと思う。しかしひねくれた見方をすれば、あれだけ優勝にこだわっていた
彼女が、急に「成績よりも・・・」と言い出すのは変な感じがする。あくまでもひねくれ
た見方だが、欧州選手権でのイメージダウンを取り返すための作戦では、と思ってしまう。
ひねくれすぎか?

5位はフランスのエバ・セラノ。彼女は決して華やかな選手ではない。正確さが彼女の武
器である。特に彼女のフェッテ・ターンは見事である。普通ならばフェッテ・ターンは
360度ずつ回転するのだが、彼女は450度ずつ回転する独特のフェッテ・ターンを行う。
(今大会では見せてくれなかったが。)4年前のアトランタ五輪でも上位に入賞していた。
当時は正確なだけであったが、今回は動きにメリハリも加わり、手具操作にも独創性が出
てきて素晴らしかった。

ウクライナのタマラ・エロフェーワ。兎に角(新体操的に)スタイルがいい。手足が長く
て顔が小さく、柔軟性に優れている今時の選手である。しかし、表現力ではいまいち。
ballでは同国の先輩アレクサンドラ・ティモシェンコ(バルセロナ五輪チャンピオン)が
使った曲と同じ曲を使っていた。ティモシェンコは「懺悔」というテーマでその曲を表現
してみせた。その、胸に迫ってくるような力強い演技に比べたら、淡々とこなしているよ
うに見えてしまう。身体能力は素晴らしいので、これからが楽しみな選手である。

日本の松永里絵子さんが16位になった。大きなミスもなく堂々と演技していた。「マダ
ム・バタフライ」を使ったballのラストは素晴らしかった。ただ、徒手能力は上位選手に
比べれば若干落ちてしまうので、その部分は見劣りしてしまう。
そして僕が注目するのはコーチの秋山エリカさん。川本ゆかりさん、山尾朱子さん、松永
さんと彼女の指導するいずれの選手も大きな試合で自分の能力を(ほぼ)出し切っている。
名コーチが名選手を生む、ということだろうか。かつてブルガリアが全盛の時もネシュカ
・ロベバという名コーチがいた。彼女は新体操を通じて自分の理想とする「美」を選手に
表現させようとしていた。それにこたえたのがリリア・イグナトバであり、ビアンカ・パ
ノバであろう。ネシュカは言う、「新体操は芸術とスポーツの境界線上にある」「私のや
るべきことは、美しいものを美しいと感じる魂、その魂を育てることである」と。
秋山さんは、選手が演技しているときは会場の隅で選手に向かって「慌てないで、落ち着
いて行きなさい」「見なさい!」とか話しかけながらその演技を見つめておられる。自分
自身も踊っているようである。
秋山さんもネシュカさんに負けない名コーチだと思う。

スペインのアルムデナ・シッド・トスタドはとても個性的な選手だ。オリジナルの手具操
作をたくさん取り入れて楽しませてくれる。見せ方をよく知っている選手である。彼女も
エンターテナーだと思う。

そして金メダルを獲得したロシアのユリア・バルスコワ。バランスの素晴らしい選手。ど
ちらかと言うと淡々と演技をこなす選手で、あまり印象の強くない選手であった。
しかし五輪で金メダルを獲得してからの彼女は別人のように変わった。今まであまり見せ
なかった笑顔を観客にふりまき、自身に満ちあふれた演技をするようになった。チャンピ
オンになったことでさらに素晴らしくなった選手である。

とりあえずはこんなところであろうか。
今後、もっともっとたくさんの心に残る選手が登場することを期待しつつ、駄文を締めくく
る。
I love RG!

(2001.1.3)

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