Hero growth picture diary story
第5章
後編
〜偽りと真実〜
「…ケイ、ねぇ…目を覚ましてよ…。」
だが彼女の声は届かない。証拠に彼はシャランラにも攻撃をした。
「危ない!」
フレッシュはシャランラを抱きかかえた。あまりのショックでシャランラは気を失った。
「ケロス!!しっかりするんだ!!」
背後から子供の声がした。ケロスの血は全く止まらない。
「お…おい!お前回復魔法は、使えないのか!!」
と必死になってフレッシュに尋ねた。だがフレッシュは回復魔法は使えない。回復魔法を使えるのはポカリだ。だが彼女はこの場には居ない。
フレッシュはできればこれはやりたくなかったが、今はそうも言ってられない。
「ゴメン!」
そう言って白い髪の子の首を叩いた。白い髪の子が気を失った同時に召喚獣ケロスも消えた。
「あらあら、あの子がシャラちゃんが必死で探してる子ね〜、良い男だけど確かにあのお目はヤバいわね〜。」
木の陰からフレッシュ達を暖かく見守っているステーキは琵琶を持っている男を見てつぶやいた。そんな彼の背後から、
「お久しぶりです、スーさん…。」という声がした。
「え?あら、ナルちゃん!?こっちに来てたの?」
とステーキは振り向いた。彼等が友達というのはどうやら本当のよう。
「えぇ…ちょっと仕事の関係で。」とナルシーは返し、
「それより、あの方を見てあなたはどう思いますか?」とステーキに尋ねた。
「う〜ん、そうね…て、あっ!フレちゃん危ないっ!!!」とステーキは叫んだ。
二人の人間を必死で守ろうとしているフレッシュに無数の音の矢が放たれた。
――――「ふぅ…。」
ポカリはナルシーが消えてからも暫く耳を抑えながらその場にしゃがみ込んでいた。
耳がまだ少し熱い…。頬が触れられた感触を覚えている。なんであの時グーで殴れなかったんだろう?と思いながら彼女はドアを見つめていた。シャドーが眠っている事が唯一の救いだった。
「…う〜ん。もぅあんな、変態の事気にすんのやめややめ!!忘れるんや!うん!もう忘れた!!よし!そや顔洗ってこよ!」
カラ元気な独り言を叫んで彼女は部屋を出たポカリが居なくなって、すぐにシャドーは起き上がった。寝起きのボサボサの頭を掻きながら舌打ちをした。
「チッ…あの変態、どーゆつもりだ?」
どうやらシャドーはさっきのシーンを見ていた様。シャドーは何故か苛立ちを感じた。なぜそう感じるのか理由は全く分からないが…。
そんな混乱の原因のナルシーはと言うと、
―――「…フゥ。仕方ない…。」
とフレッシュを見るなり指をパチンとならした。すると音の矢の動きがフレッシュの前で止まった。一体何が起きたのだろう…?フレッシュは困惑しながらケイを見た。どうやら彼も動けないようだ。それに気付いたステーキは、
「フレちゃん!平気?」と駆け寄った。
「…俺は平気、二人を頼むよ。」
シャランラと白い髪の子をステーキに託した。
「ええ…。」
と言うと二人を、担ぎあげた。フレッシュはまたケイに目を向けた。彼は必死でもがいている。何でこんな事するんだろう?ましてや知り合いのシャランラにまで、そもそもあの能力は一体何だろう?魔導師科でもない人間があんな力を使えるワケがないと思いながら近づいた。すると彼はナルシーが掛けた呪文を自力で解き、隠し持っていたナイフをフレッシュに向けた。間一髪でかわしたが完璧にかわせず彼の頬から血が流れた。やむを得ずフレッシュも剣を構えたが、ケイは突然その場にしゃがみ込んだ。それもとても苦しそうに…。
一体何が起きたんだろう?と思いながらフレッシュは彼を見た。
「…くっ!」
ケイは額を抑えながら後ろに退くと、常人では考えられないジャンプ力で木に飛び掛かり風のように消えた。フレッシュはそんな彼に言葉を掛けようとしたがそれはできず言葉は彼の口の中で消えた。一体何が起きようとしているのだろう?
――――ガチャ。
洗顔を終えたポカリは、シャドーのいる部屋に戻った。
別に寝たフリをしなくてもいいのにシャドーは彼女が来る気配を悟ると慌ててベットに潜り込んだ。
「何や…まだ寝とんの?」
横たわるシャドーを見てええ気なもんやな…と思った。すっかりステーキとの事を忘れているのだ。
特にすることがないポカリはシャドーが眠っているベットに腰を掛けた。なんでここに座るんだよとシャドーは思った。が今起きるのは不自然極まりない、故にいかにも眠っているフリをした。
スー…スー…。
「よぉ寝とるな。」
彼の考えは墓穴を掘った。ポカリは顔を近づけマジマジとシャドーの寝顔を見た。洗顔したばかりの彼女からは優しい石鹸の香りがした。ただそれだけなのに彼は胸の鼓動が激しくなっていることに気付いた。
窓から心地よい風がフワッと入り込み、二人を優しく包んだ。ポカリはそっと彼の頬に手をあてた。
…一体、何をするつもりなんだ?とシャドーは思った。
―――――「ねぇ…一体、何が起きてるの?」
フレッシュは頬から出た血を腕で拭いながらナルシーに尋ねた。彼は笑いながらフレッシュに返した。
「さぁ…私はただの通りすがりの情報屋の教師ですからね…。」
と帽子に付いた汚れを叩き落としながら言ったただの情報屋の教師が何でこんな所に居るんだろう?フレッシュは疑問に思った。
「それにそーゆのはスーさんの方が詳しいのでは?」
とステーキに目をやった。彼は二人の看病していた。
「…それよりフレッシュ。相手の事なんかを考えているようでは命を落しかねない。甘い考えは直ちに捨てなさい…、もっと冷酷になる事も必要です。」
とナルシーは冷ややかな目をしてそう言った。すると、次の瞬間!強い突風が吹きつけフレッシュ達は思わず目を閉じた。…暫くすると風は止んだ。ゆっくりとフレッシュは目を開いた。だがナルシーの姿はもうどこにも居なかった…。
フレッシュは呆然と立ちすくんだ。そして先ほどのナルシーの言葉を思いだし表情を歪めた。
―――コイツは一体何をするつもりなんだ?
ドキドキしているシャドーに構わずポカリは行動に移った…。
バチンッ!!!!
何か叩かれた音が部屋中に響きわたった。
一体何が起きたのかシャドーは全く理解できなかった。ただ顔が痛い事しか感じない。
「…なんや逃げられてしもーたわ。」
ポカリは自分の掌を見てつぶやいた。どうやら虫がシャドーの顔に止まっていたらしい。
期待に胸を膨らませていたシャドーはカバっと体を起こし、
「て…っってぇな!!!何すんだよ!このブスッ!」
シャドーは怒鳴った。
「な!?…誰がブスや!!?このハゲッ!!」
ポカリは負けずに返した。
「うちはあんたのばっちぃ面に虫が止まってたから退治しただけや!!むしろ感謝せえ!」
「…何がばっちぃだ…!?第一感謝だと?…おこがましいにも程がある!!大体顔が下にあんのに叩くかよ普通!?…あ、ワリィお前普通じゃねーよな。」
またケンカをし始めた二人。折角途中まで良い雰囲気だったのに…。
「な…!うちが普通じゃあらへんやと!?大体そんな顔叩かれたぐらいでギャアギャア騒ぐなんてどっかの変態科の教師みたいやな。」
そうゆうとポカリはプイとそっぽ向いた。変態科の教師と言う言葉を聞いてシャドーは何故か無性に腹が立ち、
「あんなヤツの名前出すなよっ!!」
思わず大声で叫んだ。あまりの声の大きさにポカリは驚いて、
「…?なんや?そんな声張り上げなくても…。」
そんなにシャドーはあの教師を嫌いなのだろうか?ポカリは考えた。と同時にさっきナルシーにされた事を思い出しまた顔が赤くなった。シャドーはすぐにそれに気付いた。
「何、赤くなってんだよ?」
冷ややかな口調で尋ねた。
「え?あ、ちゃうちゃう!…なんかここ暑ぅーてな。」
ポカリは慌てた様子で顔を扇いだ。がシャドーは、
「ふん…顔が赤くなるような事してたもんな…。」
と言うと、ベットから出た。
「シャドー…?」
ポカリは困惑しながら彼の名前をつぶやいた。
…もしかして見ていた?
イヤな予感が頭をよぎった。だが、シャドーは聞く耳を持たずローブに袖を通していた。ただシャドーはひとつ誤解をしていた。ナルシーがポカリにキスをしたと…。彼の位置からではそう見えたのだ。
イライラがなり止まない。何よりあの教師の事を話題にして顔を赤くするポカリに対して。
「なぁ…シャドー…くん…?」
ポカリは作り笑顔を装いシャドーに話しかけた。
「あんな、…さっきの事なら…ちゃうや…、」
と必死で誤解を解こうと頑張る彼女の姿を見て更にイライラが募った。
「だから、なぁ〜ってあんたいつ起きたん?起きてたんなら声掛けーや。」と言うポカリに、
「…邪魔するのは悪い気がしてね…。」
と冷ややかに言うとシャドーは部屋を出ようとした。それを見てすかさずポカリは、
「邪魔ってなんやねん?つぅーかどこ行くんや?」
と腰を上げ尋ねた。
「散歩。」とシャドーは一言言うとドアに手を掛けた。
一方フレッシュはというと…話は少し遡る。
―――彼は困惑しながら立ち尽くしていたナルシーに言われた言葉を考えながら…確かにこの先相手を殺す事も必要なのかもしれないけど、出来ればそんな事はしたくない…。
「…チャン…レちゃん…フレちゃん!」
そんなフレッシュにステーキが呼びかけた。フレッシュはハッとしながらステーキに目を向けた。
「…あぁ…ゴメン、聞いてなかった。何?」
優しい口調だったがどこか、戸惑いを感じる。かなり悩んでいる様子が伺える。
「だからね、ここじゃ何だし一端お家に戻りましょう?」と愛らしく微笑んだ。それに彼は、
「…うん…。」とつぶやいた。ステーキはそんなフレッシュを心配そうな目で見ていた。
「う…うん…、」
気を失っていた白い髪の子が気付いた。フレッシュはその事に気付くとその子の方に近寄りしゃがみ込んで、
「気分どう?ゴメンな叩いたりして。」
その子の頭の撫でながら言った。白い髪の子は少し顔が赤くなった。が、すぐに召還獣の事を思いだし、
「そ、そうだ!ケロスは?確か怪我を…!」と辺りをキョロキョロしながら言った。
「それなら大丈夫。俺の仲間に回復魔法を使える子がいるから。」と優しい口調でフレッシュは言った。それを聞いて白い髪の子は安堵の表情を浮かべた。が、
「ちょっとぉ〜?フレちゃん!人が良すぎよ〜大体この子フレちゃんを狙ってたじゃない?そんな敵に情けを掛けるのはどーかと思うけど、」とステーキが口を挟んだ。
それを聞いて白い髪の子は罰の悪そうな表情を浮かべた。が、フレッシュはステーキに言った。
「…確かにそうだけど。俺、やっぱり傷ついている者を見捨てる事はしたくない。例えそれが敵だとしても…。」
真っすぐな瞳でステーキを見据えた。
「…でも、また攻撃するかもしれないじゃない?」
「そうなったら…戦う。助けたのは俺の勝手な判断だから。でもこの子はもう大丈夫だと思う。あんなに召喚獣のことを心配していたし、それに怪我を負った召還獣にまた攻撃をさせる様な冷たい子じゃないと思うから。」
それを聞いたステーキはナルちゃんの言っていた事も一理あるかもと思った。すると、
「安心しろ…自分はもうお前達に攻撃する気はない。一応ケロスの恩人だからな。…。」
白い髪の子はポツリとつぶやいた。それを聞いたフレッシュは゛ほらね゛という表情を浮かべステーキに目を向けた。
「フゥ…フレちゃんがそこまで言うならもぅいいわ。…良かったわね。おチビちゃん。」
ステーキはもぅ何を言っても無駄だと思い、渋々納得した様子で白い髪の子に言った。すると白い髪の子は『チビ』と言う言葉に過敏に反応し、
「誰がチビだ!」
と声を張り上げた。どうやら気にしているらしい。が、言っちゃ悪いが本当に小さい。ステーキと並ぶとそれはさらに強く感じた。
「…ねぇ、ところで君はどうして俺のこと知っているの?それに姫を助けたら大金とか有名人ってどう言う事なの?」
フレッシュはそれを一番知りたかった。
「…主の事は学校で色々と耳にする。」
学校という言葉を聞いて、
「き、君もアンダルシアの生徒なの!?」
フレッシュは驚いた表情を浮かべた。
「うむ。自分は召還士学科の生徒。クロア・ロイズと申す。」
それを聞いたフレッシュは、一体アンダルシア学校はこの他にどんな学科があるんだろう?と心底疑問に思った。
「自分が主を襲ったのは最近校長がこんな課題を出したからじゃ。」
と言うと一枚のプリントをフレッシュに手渡した。フレッシュはそれに目を落とした。
“最近おかしくなっちゃたプリン姫を助けよう!☆ 見事成し遂げた生徒にはご褒美に大金(百円)をプレゼント★君もこれで有名人!”
(百円)という字がかなり小さい字で書いてあった。フレッシュは呆れた笑いを浮かべることしかできなかった。
「…まさか君はこの百円目当てにやってるわけ?」と呆れた口調でクロアに尋ねた。
「百円っ!?」
クロアはその小さな()の字には気が付かなった様。バッと身を乗り出しプリントにのぞき込んだ。
…危うく百円ごときで殺される所だったフレッシュ。
「ま、真に百円だ。…道理で周りの者が誰もやろうとしなかったワケだ。」
クロアはトコトン何かが抜けている子なんだなとフレッシュは改まって実感した。
「…まぁ害がないって分かったからいいじゃない?ところでチビちゃんは性別はどっちなの?男の子?女の子?男の子なら個人的に仲良くしたいわ〜★」
ステーキはキラキラと目を輝かせながら尋ねた。するとクロアはジッとステーキを見てはプイと目を逸らし、
「で?回復魔法を使える奴はどこにおる?」とフレッシュに目を戻した。
「え?ああその子なら俺の家に…、」
ステーキの質問には何故答えないだろう?と疑問に思いながらも答えた。すると、
「俺の…家にだと!?てっきりここにおるのかと思ったではないか!なら早く向かうぞ!」
そう言うとクロアはバッと立ち上がり歩き始めた。
とりあえずクロアが襲った理由は分かった。が先ほどの男はなぜ知り合いであるシャランラ狙ったのだろう?
とクロアの背を見ながらフレッシュは考えた。そしてこの先、人を殺さなきゃならないのだろうか?と悩みながら。出来れば絶対にしたくない…。そんな思い悩んでいるフレッシュに、
「おい!!主の家はどこだ?」とクロアが呼びかけた。
「え?あぁそうか。」
フレッシュはゆっくりと立ち上がった。すると、
「フン、そんな血を垂れ流しておるからボーとするんだ。…これはそのぽっぺたにでも張っておけ。」
と言うと、何かを投げた。それはフレッシュの足元に舞い落ちた゛それ゛とは一枚の絆創膏だった。フレッシュはそれを見てクスと笑みを浮かべながら拾い、
「ありがとう。」
と返した。だがクロアは何も言わずサッサと歩きだした。どうやら照れているようだ。真っ赤になっている耳がそれを物語っている。
ステーキはシャランラを抱き抱えながらフレッシュに「行きましょう♪」と言った。それに、
「あ、…うん。」と返し、フレッシュ一行は仲間の居る家に向かった。
この先の旅への計りきれない不安と疑問を抱きながら…。