Hero growth picture diary story
第8章
後編
〜Sの悲劇〜
ポカリ達は黙ったままフレッシュを見た。誰も何も答えられない。
――なんとか次の目的地が決まったのに、その目的地ナウイ村に行く交通手段が無いことに気付いたフレッシュ達。
クロアの生れ故郷のナウイ村に行くには、まずガビチョーン山脈地方まで行かなければならないのだが、オリマー王国からではそこに行くだけでもかなりの距離がある。
そんな時は大抵の人間は馬車や汽車を使うだろう。しかし、十代そこそこの少年少女が馬車や汽車など使えるだけのお金はない。
だけれども歩いて行くにはかなりの日数が掛かってしまう、何よりまず体力が保たない。
どうしよう…?
立ち尽くすフレッシュ達。
「案ずるな。」
クロアは一言言うと、玄関に向かった。
「え?ってクロア?どこに行くの?」
そんなクロアの後をフレッシュ達は追った。
一体何をするつもりなんだろう…?
フレッシュはそう、思いながらクロアに声を掛けた。
「え?ねぇ、どうしたの?クロア?」
クロアはフレッシュの家の前に立ち、彼の方を振り向いて、
「これで行く。」
と静かにつぶやいては、地面に一粒の碧い色の種をピンっと蒔いた。
そしてクロアは何やら呪文の様な言葉を言うと、さっき種を蒔いた所が碧く輝き出した。
何か召喚しているようだ。
地面からは碧い光と強い風が吹き傍にいたフレッシュ達は、髪を押さえたり、顔に手をかざして目を細めたりしながらもクロアを見つめていた。
「…空を駆ける者…今姿を現し給え。」
クロアがそう言うと、碧い光が大きな塊になり、そこから一匹の大きな大きなイルカが現われた。
不思議な事にそのイルカは宙に浮いていた。
目がクリクリっとしていて愛くるしいイルカだ。
「かっ…かっ、可愛ええ〜!!むっちゃ可愛ええ!」
クロアの召喚したイルカを見てポカリがはしゃいだ。
「頼むぞ。」
クロアは優しく笑いながらそのイルカの頭を撫でた。
すると、イルカは「キュ?」と首を傾げながら鳴いた。
フレッシュもそんな愛らしいのイルカを見て心が和んだのを感じた。
ところが、
「なぁ…行くってそれでか?」
シャドーは何故か心配そうにクロアに聞いた。
「うむ、そうだが?」
クロアはしれっとした態度で返した。
「臆するな。セザンヌはただのイルカではない。
こやつは空を泳ぐ。セザンヌなら自分の故郷まで十日ぐらいで着く。」
クロアはセザンヌというイルカの頭を撫でながらシャドーに説明した。
クロアに頭を撫でなれたセザンヌは気持ち良さそうな表情を浮かべていた。
クロアの召喚したイルカのお陰で金と時間の問題は見事にクリアした。
なのに、何故か嫌な予感がする…。
シャドーはそう思えてならなかった。
「なぁ?なぁ?乗ってええ?」
さっきからずっとはしゃいでいるポカリが瞳をキラキラと輝かせながらクロアに聞いた。
「うむ、構わぬ。」
クロアがそう返した途端にポカリはセザンヌの背に乗かった。
「平気?」
シャランラが心配そうに尋ねた。
「大丈夫やで!」
ポカリが笑いながら返すのを見てシャランラとフレッシュもセザンヌに乗った。
背に乗る前にフレッシュは、
「宜しくね。」
と優しく微笑みながらセザンヌのつるつるした肌を撫でた。
セザンヌは「キュ!」と愛らしい返事をした。
「シャーくんも早くぅ〜!」
いつの間にやらステーキもセザンヌの背に乗っていて楽しそうにシャドーの名前を呼んだ。
すごく嫌な予感がするシャドーだったが皆平気そうな様子を見て、ただの思い過しか…と自分に言い聞かせて彼もセザンヌに乗ろうとした。
瞬間、
『゛あー重てーな、おい!』
ひどくドスのきいた声がした。
シャドーは誰の声だろう?と辺りを見回したが、それらしき人物は居ない。
きっと空耳かなんかだろう?
そう思ったシャドーは気を取り直してセザンヌの背に乗ろうとした。が…、
『あーさっきの金パの子(フレッシュ)可愛いかったな〜vVあれで男とはマジで惜しいよな。つーか仕事とかいってマジ面倒だぜ。何せキャラ作んなきゃだしな?ってーかオカマが乗ってるってどーゆ事よ!?キッタネェーな!じんましん起きそうだぜ。…あん?にーちゃん何見てんだよ!?乗るならとっと乗りな!あっそうだ!?まさかにーちゃん水虫とかじゃねーよな?俺に移したらタダじゃおかねぇからな。』
シャドーの頭からドスのきいた声が鳴り響いた。
……どうやらセザンヌの声らしい。彼はテレパーシが出来るよう。
シャドーはセザンヌが二重人格キャラだと分かると、ため息を一つ吐き無言で背に乗った。
『おいおい無視かよ〜?そりゃないぜ。』
セザンヌはシャドーに話し掛けた。
この一人と一匹のやりとりはシャランラですら気付けない模様。
したがってセザンヌの本性は、シャドー以外の人間には絶対に分からない。何とも巧妙な能力である。
シャドーがセザンヌに乗ってすぐにクロアも乗った。
「では頼むぞ。」
クロアがセザンヌの頭を撫でた。
「キュゥ〜。」
シャドーの頭には、
『…かったりぃーな…。』という声が鳴り響いた。
こうしてフレッシュ達は、新たな場所に旅立っていった。
この先何が待ち受けているのか?シャドーの嫌な予感とは?沢山の謎を抱えたままセザンヌに
乗ったフレッシュ達は空高く舞い上がり、青い大空を泳ぐ様に故郷を後にした。
―――「あら?フレッシュったら、テレビ付けっぱなしで出てっちゃったのね。」
一人自宅にいるフローラはそう言ってテレビを消そうとした。瞬間、ピーッとやかんのお湯が沸いた音が聞こえた。
「あ、そういえば。」
フローラはテレビをそのままにしすぐキッチンに戻った。
付けっ放しのテレビからは深刻の面持ちをしているニュースキャスターがこんな事を報道していた。
「…えー本日未明、ガビチョーン山脈地方にあるハッスル漁村の住民達が行方不明となりました。王国騎士隊では集団失踪の線で捜査を勧めておりますが原因は全く分かっておりません。ガビチョーン山脈地方付近のレトロ町、フルイ村、ナウイ村の住民方々は特にご注意をしてください……。」