■Necranomicon. ■

クトゥルフ Cthulhu


 いわゆる「クトゥルフ神話」の代名詞であり、おそらくは最もポピュラーでもあるこの神は次の唱句によってよく知られている。

『フングルイ ムグルウナフ
 クトゥルフ ルルイエ
  ウガフナグル フタグン』

 「ルルイエの館にて 死せるクトゥルフ夢見るままに待ちいたり」と訳されるこの唱句は、エスキモーの悪魔教徒(ここでクトゥルフはトルナスクと呼ばれている)やダゴン秘密教団といったクトゥルフの信徒たちによって唱えられる。これが示すように、現在クトゥルフは深海の都ルルイエで深き者どもにかしずかれ死よりも深い眠りについているが、星辰が然るべき位置に戻りルルイエが再び浮上するときクトゥルフは甦り、地上の全てを支配すると信じられている。
 クトゥルフの描写は『クトゥルフの呼び声』に詳しい。それによると、タコもしくはヤリイカに類似した 触手に覆われたぶよぶよの頭部に、鱗に包まれたグロテスクな胴体、そして退化したコウモリ様の翼と軟質の巨大な鉤爪を具えており、全体としては「タコと竜と人間のカリカチュアを一緒くたに表現」したものとなっている。
 ただしクトゥルフの存在は物質に拘束されてはいないため、かなり不定形である。あえてその特徴を挙げるとするならば、やはり ねばつくふくれあがった頭とのたうつ触手であろう。この表現はクトゥルフの登場するあらゆる作品で用いられており、またクトゥルフの最大の魅力でもある。このイメージは実は西洋人にとってのタコのイメージなのである。ここでは詳しく説明しているスペースがないが、『蛸  想像の世界を支配する論理をさぐる』(ロジェ・カイヨワ;中央公論社)という本を紹介しておくので興味のある人は読んでほしい。アザトートやヨグ=ソトホートをさしおいてクトゥルフがラヴクラフトの神話大系の代名詞になるほど愛された(?)理由がわかるかもしれない。
 厳密に言うと、クトゥルフはアザトートやヨグ=ソトホートといった「神々」よりは若干劣る存在らしく、『クトゥルフの呼び声』では「大司祭」、『ダンウィッチの怪』では「いとこ」と呼ばれ、旧支配者(ここではアザトート等を示す)の姿をぼんやりと見ることができるのみとされている。あのコリン・ウィルソンが『賢者の石』の中で述べている「クトゥルフ=人間の神官」説は、この説明を下敷にしているのではないかと思われる。
 なお後年『狂気の山にて』の中でラヴクラフトは、タコに似た陸棲の種族としてクトゥルフ(若しくはその末裔)を描いており、その位置はウミユリ状の植物生命体(旧支配者)や大いなる種族、そしてミ・ゴゥなどと同列である。

 

 

 

 ■Necranomicon. ■