ハスター

Hastur

ハスター 

 いわゆる「クトゥルフ神話」の四大精霊の一人、風の精とされるハスターであるが、彼が神話大系の中に組み込まれるまでにはかなりの紆余曲折があったのである。
 初めてハスターを紹介したのはA・ビアスである。彼の短編『羊飼いのハイータ』において、主人公ハイータの信仰の対象となっている神がハスターなのである。ここでハスターは「決して姿を現さぬ」ものと称され、大自然を司る神として描かれている。
 次にハスターの名が現れるのはR・W・チェンバースの『黄の印』においてである。この作品は『黄衣の王』という短編集(タイトルと同名の書物を巡る怪奇小説集)のなかの一編であり、ハスターの他に「ハリ湖」「カニルダ」「黄衣の王」「蒼白の仮面」などといった名称も見える。ただこれらがどういうものかは残念なことに全くわからない。できれば『黄衣の王』の全編を読んでみたいと思って洋書屋に何度か頼んでみたのだが、どうもアメリカでも絶版になっているようだ。
 神話大系にハスターの名が現れたのはラヴクラフトの『闇にささやくもの』が最初である。と言っても、ここではユゴス星の菌生物ミ・ゴゥと敵対するものたちと結び付くものとして暗示されているにすぎず、しかも本当に敵対しているかどうかは不明である。ハスターが真に活躍する場は、やはりダーレスの諸作品である。そこでハスターはクトゥルフの異母兄弟であり、かつ風の精として、「クトゥルフ神話」では水の精とされるクトゥルフに強く敵対するものに描かれている。例えば『ハスターの帰還』では忌まわしき「安息所」を求めてクトゥルフと争い、『クトゥルフの追跡』ではクトゥルフの復活を阻止しようとするシュリュズベリイ博士たちの求めに応じて配下たるバイアクヘーを遣わしている。
 さてハスターの姿であるが、『ハスターの帰還』で安息所を手に入れたのがハスターならば、黒い鱗のある体、骨のない腕、そして鱗の下に沈みこんだ目のある魚に似た頭部を具え、全体としては人間を歪めたように見えるということになる。
 「クトゥルフ神話」においてはハスターは「名なきもの」の称号で呼ばれ、ヒアデス星団のカーコサ近くにある黒いハリ湖に幽閉されていることになっている。ちなみにカーコサとはビアスの短編『カーコサの一住民』で言及される地名である。

 

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