
アザトートを中心とする異形の神々の究極の魂とされるナイアルラトホテプは、「クトゥルフ神話」に登場するあまたの神々の中でも一風変わった神である。その顕著な特徴の一つとして、この神は人間の姿を含めた多くの化身を持つことが知られている。
短編『ナイアルラトホテプ』では、古代エジプトの血筋に連なるファラオのごとき人物として退廃の時代に姿を現し、疑似科学を用いて人々を惹きつけ、破滅へと導いた。また『魔女の家で見た夢』では「黒い男(ネグロイドではない)」の姿で主人公を黒魔術の世界へと誘う。さらにヘイゼル・ヒールド『博物館の恐怖』に登場するオラボーナや、ロバート・E・ハワード『墓はいらない』の東洋人(あるいはハスターの使徒かもしれないが)などもナイアルラトホテプの化身として解釈できるかもしれない。
人間に化身したときのナイアルラトホテプに共通するのは無礼なまでの丁重さと、その裏に隠された冷笑である。このような特徴についてフリッツ・ライバーJr.は、人間には決して理解しえない宇宙の嘲笑、欲得の絡んだ世界、人間の自虐的な知性等を見いだしている。なお種村季弘『悪魔礼拝』によれば、自由に姿を変える悪魔というイメージは貨幣経済社会の落とし子らしい。
人間以外の姿では、『闇にはうもの』に現れるコウモリの翼と燃える三つ目を具えた闇の化身が有名である。この化身は「輝くトラペゾヘドロン」によって呼び出されるもので、極度に光を恐れる。またブロック『顔の無い神』で砂漠より掘り出されたその神像は、ハゲタカの翼とハイエナの胴に、神聖三重冠をつけた顔の無い頭部を持つ、漆黒のスフィンクスの姿をしていた。さらに、同じくブロック『闇の魔神』の、豚に似た鼻と緑の目、牙と鉤爪を持つ、悪魔アシュマダイ(アスモデウスですな)に似た魔物もまたナイアルラトホテプの化身とされている。
ナイアルラトホテプの重要な属性の一つに、大地の神々の守護者たる異形の神々の代表という姿がある。『幻夢境カダスを求めて』で描かれたその姿は、虹色の衣と黄金の冠を身に着けた若きファラオで、堂々たる身のこなしと、堕落した大天使の魅力を持つ端正な面立ちをしていた。
だがナイアルラトホテプの本質は「はいまわる混沌」であり、その歩むところ都市は崩壊し自然の秩序は失われる。その属性から見るにナイアルラトホテプはアザトートと関係が深いが、アザトートとの最も大きな違いはナイアルラトホテプが意志を持っている点にある。このことはアザトートが目的すら持たぬ混沌そのもの、ナイアルラトホテプが混沌をめざすベクトルと考えれば理解できるであろう。すなわちアザトートたる混沌が秩序に出会ったときナイアルラトホテプとなり、すべてを混沌に帰すべく活動を始める。そしてアザトートの元に帰ったとき、ナイアルラトホテプは他の異形の神々と同じ、狂える顔無き神の姿を取るのである。
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