■『竹取物語』の夢■


序章
アイするココロ


第一章
突然現れた他人(ひと)



第二章
完全なる拒絶



第三章
原初の感覚



第四章
歌ではなく……



第五章
かわいいかぐや姫



第六章
滑稽な人間



第七章
モナリザの心



第八章
破滅



第九章
連れ去る力



終章
離れていても……





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岩田澄人


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『竹取物語』の夢>第五章 かわいいかぐや姫


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 石作(いしつくり)皇子(みこ)の次に出てくるのは、「白銀(しろがね)を根とし、黄金(こがね)を茎とし、白珠(しらたま)を実として立てる木」の「一枝」を要求された庫持(くらもち)の皇子。それは、「東の海に蓬莱(ほうらい)といふ山あるなり」という、その山にあるらしい。
 庫持の皇子はなかなかカシコイ人で、海に出たふりをしてそっと難波へ漕ぎ帰った。「鍛冶工匠(かちぢたくみ)」六人と秘密の家にこもり、見事に「珠の枝」を作った。そして、海から持ち帰ったふりをして、難波にご帰還。世間の人は、「庫持の皇子 は、優曇華(うどんげ)の花持ちて、上り給へり」って噂でもちきり。

これをかぐや姫聞きて、「われは、この皇子に負けぬべし」と、胸うちつぶれて思ひけり。
【現代語訳】庫持の皇子が優曇華の花を持って難波に着いたと聞いて、かぐや姫は、「私は、この皇子に負けてしまうんだわ」と、胸がきゅんとした。


 どうしたことか?
 ここには、石作の皇子のウソをすぐに見抜いたかぐや姫は、もういない。テレパシー能力をなくしたのか? そこにいるのは、うろたえ戸惑う、単なる普通の人間の女性だ。
 他者との距離がたしかにある。しかし、人間らしさがその距離を融解する。
 かぐや姫は、ちょっとぼくの近くにいる。
 ちょっとかわいいかぐや姫がいる。
 ちょっと人間的なかぐや姫がいる。
 この後、「鍛冶工匠」が「給料くださーい」とやって来ちゃって、あえなく庫持の皇子のウソはバレちゃう。

かぐや姫の、暮るるままに思ひわびつる心地、笑ひ栄えて、翁を呼びとりて言ふやう、
 「まことに蓬莱の木かとこそ思ひつれ。かくあさましき虚事にてありければ、はやとく返し給へ」
【現代語訳】かぐや姫は、日が暮れるにつれて「庫持の皇子と夫婦としてベッドに入らねばならぬ」とがっくりしていたのが、花がニセモノだとわかると晴れ晴れと笑い、竹取のお爺さんを呼んで言うのには、
 「本当に蓬莱の木かと思ったわ。こんなにあきれるほどのウソでしたんですから、すぐに庫持の皇子に返して!」と。


 結局は、冷たいんだけどね……。でも、何か、体温のある冷たさだ。
 冷静に他者との距離を見つめた物語は、一方で、冷静に普通の人間を見つめた。やっぱり、それが、原初的な話型の世界とは違うところだ。だから、かぐや姫も普通の人間になった。
 でも、普通の人間が、乾いた拒絶をする……、それは、原初の拒絶よりもこわいことかも知れない。