■『竹取物語』の夢■


序章
アイするココロ


第一章
突然現れた他人(ひと)



第二章
完全なる拒絶



第三章
原初の感覚



第四章
歌ではなく……



第五章
かわいいかぐや姫



第六章
滑稽な人間



第七章
モナリザの心



第八章
破滅



第九章
連れ去る力



終章
離れていても……





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岩田澄人


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『竹取物語』の夢>終章 離れていても……


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 そして、帝に贈る歌。最後の歌。

今はとて天の羽衣着るをりぞ
君をあはれと思ひいでける
【現代語訳】今が最後と天の羽衣を着て記憶がなくなる瞬間
あなたを愛していると気づきました
 「あなたの記憶が消えてしまう前に、あなたのことを愛していると気づきました。」
 でも、その一瞬後に、その「心」は消えてしまう。

ふと天の羽衣うち着せたてまつりつれば、翁を「いとほし、かなし」と思しつることも失せぬ。この衣着つる人は、もの思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。
【現代語訳】天人がかぐや姫にさっと天の羽衣をお着せ申し上げたところ、姫は、お爺さんのことを「気の毒だ。愛おしい」とお思いになっていた心もすべて消えてしまった。この着物を着てしまった人は、感情がなくなってしまうのじゃ。かぐや姫は、飛ぶ車に乗って、百人ばかりの天人を連れて、天に昇っていった。


 これが平安人が見つけた「愛する心」だ。
 現代人のように「愛している」とはっきり言う実体的な「愛」じゃない。
 むしろ、生まれたての「心」が引き裂かれたところにこそ、「愛する心」が生まれる。
 原初の闇を宿した決定的な距離の中で、ふっと生まれた「愛する心」。
 別れの中でこそ、ようやく認識される「愛する心」。
 その後、日本文学は、「愛する心」をポジティブに語ることは、基本的にない。いつもそれは、決定的な距離の中でだけ自覚される「愛する心」なんだ。
 でも、ぼくは、この瞬間こそ、かぐや姫と帝が、存在ごとほんとうにふれあった瞬間のような気がする。
 かぐや姫と帝の、メールも届かない、ひとつの言葉も交わされない、宇宙イチ遠い遠距離恋愛が、今始まったようだ。