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終身刑の廃止案―ベッカリーアの国の刑法改正(23 settembre 2000)において、イタリアの終身刑の廃止案のことを書いた。死刑を禁止しているイタリア共和国憲法27条には、イタリアの啓蒙思想家ベッカリーアの刑法思想の影響がみられることはよく知られているとおりである。その後イタリアでもまだ終身刑の廃止は実現していないが、日本ではベッカリーアの思想とは逆に、厳罰化を中心とする少年法の改悪案が成立させられた。
日本では、ベッカリーアは、その著書『犯罪と刑罰』Dei delitti e delle pene, 1764 * により刑法学者、啓蒙思想家として著名であった、と私は考えていた。ところが、近年ベッカリーアの著書『公共経済の諸要素』**を翻訳された三上禮次氏は、その「解説」および「あとがき」において、「ベッカリーアは日本などでは『犯罪と刑罰』の著者として知られているが、本国のイタリアでは経済学者とされている。」(p.1)、「イタリアではベッカリーアはむしろ経済学者として知られていることに気が付き、かつその主著は本訳書の『公共経済の諸要素』であることを知るようになった。」(p.271)と経済学者としてのベッカリーアを紹介されている。
これまで日本では、啓蒙思想家としてベッカリーアの刑法思想が紹介されてきたことは事実であり、その点でベッカリーアの著書『公共経済の諸要素』を初めて翻訳されベッカリーアの経済学者としての側面を研究しようという三上禮次氏の方法に敬意を表する。しかし、ベッカリーアは、イタリアでは、むしろ経済学者として知られているという点については疑問がある。ベッカリーアの刑法学者としての位置付けは、イタリアのことをよく知らない日本独特の現象ではない。
啓蒙思想家 Illuminista としてのベッカリーアを、刑法学者であるか経済学者であるかを議論しても生産的ではないのだが、現在のイタリアにおいてもベッカリーアの名前は、『犯罪と刑罰』の著者として、刑法学者として取り上げられることの方が多いということは否定できない。
ミラーノの出版社 Garzanti に "Nuova Serie Garzainti" というポピュラーな小型事典のシリーズがあり、分野毎の、例えばEnciclopedia del Diritto、Enciclopedia di Filosofia というように、事典を出版している。Garzannti社は、辞書に強い出版社で、日本でよく使われている小学館の『伊和中辞典』は、Garzantiのこのシリーズの1冊がもとになっている。Cesare Beccaria は、上記シリーズの Enciclopedia dell'Economia に載っているか、それとも Enciclopedia del Diritto に載っているか、両方に載っているか、あるいはいずれにも載っていないか?
Beccariaは、ガルザンティの法学辞典だけに登場し、経済学辞典には登場しない。さらにいうと、現在は法学と経済学の辞典は、独立しているが、1985年の初版では、"La Nuova Enciclopedia del diritto e dell'economia であり、その後法学と経済学に分冊されたのだ。法学辞典のBeccariaの項の記述は、初版のBeccariaの項の記述と同一であり、分冊する際に、その項は法学辞典の方にだけ入れられたのである。
これで十分というわけではないが、ベッカリーアが現在のイタリアで取り上げられる分野を示すひとつの例にはなるだろう。
*風早八十二・風早二葉訳『犯罪と刑罰』(岩波文庫)
**Cesare Beccaria, Elementi di economia pubblica, 1804
チェーザレ・ベッカリーア,公共経済の諸要素
三上禮次訳、九州大学出版会,1997.2
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