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40.土偶 41.アキヤマさん 小学生の頃、わたしにはアキヤマさんという親友がいた。1年生の後期に大阪から東京に転校し、友達をつくるのも下手だったわたしが、いつアキヤマさんと親しくなったのか、覚えていない。が、家が近くてよく行き来していたのは確かだ。ふたりとも、クラスでは目立たないどころじゃなくて、鈍くさくてボーッとしている、いわゆる「おミソ」タイプだったから、ウマがあったのであろう。 アキヤマさんとわたしは、漫画が好きだという共通点があった。読むのもしかり、また描くのも好きだった。ふたりで学校の休み時間に絵を描いていると、級友達が寄ってきて「わあー、上手!」と感心するので気分がよかった。もっとも、実力はアキヤマさんの方が数段上で、小学生の頃から十二単の平安時代のお姫様なんてのをサラサラと描いたほどだった。 ふたりの家は多摩川にほど近く、室内遊びに飽きると多摩川の河川敷へ行き、夕方まで遊んだ。あるとき、タイムカプセルを埋めようと言って、いろいろな宝物=ガラクタを缶に詰めて土手に埋めた。埋めた場所はあっさりと忘れてしまい、二度と掘り返すことは出来なくなったが、別にそんなことはどうでもよかった。アキヤマさんとわたしは、いろいろな遊びを思いついては実行した。毎日が冒険のようだった。 小学高学年になると、ふたりとも塾に通うようになった。塾と言っても退職した先生が、近所の子どもを集めて勉強をみてあげるという、こじんまりした「集まり」だった。決まった曜日になると、アキヤマさんが手提げ鞄を持ってうちまで迎えにやって来る。その姿を見ると、わたしの母は後でこっそり「ほんとに、アキヤマさんはいつ見てもオバサンみたいねえ」と言うのだった。 オバサンに小学生が「オバサン」と言われたら心外であろう。しかし、そう言いたくなるほど彼女は「オバサン」くさかった。コロコロとまん丸な体型に、まっすぐな長い髪を垂らし、一体どこで売っているのかと不思議なくらいババ臭い服を着ている。当時は小学生もどんどんあか抜けている頃だったにもかかわらず、彼女はまるで時代に逆行するかのようにいつ見ても「オバサン」ファッションなのだった。 彼女とのつき合いは中学時代まで続いた。級友の中には、中学ともなれば男の子とつき合う子もいた。それなりの関係を持つ子もいただろう。だが、クラスの誰それが好きだとか、告白したとかされたとか、一緒にどこかへ行ったとか行きたいとか、わたし達はそういう流れからは離れたところにいた。それらの話はまるで他人事のように聞こえたし、実際、他人事であった。あまりに馬鹿みたいに何も知らないので、世間並みに経験のある友人からは、「お子ちゃま」扱いでつき合っていただいていた。 わたし達は、あいかわらず漫画やアニメが好きで、たわいもないことをして遊んでいただけである。 「ねえねえ、アキヤマさんはさあ」とわたしが聞く。わたし達は、なぜかニックネームや下の名前ではなく、名字に「さん」を付けて呼び合っていたのだ。 「『宇宙戦艦ヤマト』の古代くんと島くん、どっちが好き?」 「そりゃあ古代くんでしょう!」 「えーッ、うそォー、わたし島くん!」 「ええーッ、そうなのお!?」 どっちもテレビアニメの中にしかいないんだから、どっちだっていいのである。どうせなら本物の男の子の取り合いくらいすれば格好がつくというものだ。もしもわたしが親だったら、まちがいがなくて安心なような、あまりに幼稚で不安なような、複雑な気持ちになったことだろう。 進路がわかれたのは、高校受験の時だ。志望する高校が別だった。といって、それがわたし達自身の考えだったかどうかわからない。学校や親に「受験しなさい」「この高校がいいでしょう」と言われたので、「そうなのかなあ〜」とあまり深く考えず、受験準備をしていたように思う。 ふたりは別々の高校に入学した。高校で、新しい友達が出来、いろいろなことが起こり、アキヤマさんとは会わなくなった。そしてまた、高校生活が終わり、それぞれに巣立っていった。 高校時代の友人とは今でも連絡が取れるし、中学時代の友人もひとりふたりは年賀状のやりとりが続いている。だけども、アキヤマさんは、どうしているのかわからない。高校に入って間もなく、彼女の家は横浜の方に引っ越しをしたと聞いた。わたしの母は、アキヤマさんの母上とそこそこ仲が良かったから、新しい住所を教えてもらっていたのではないだろうか。しかし、わたしはあえて聞こうとせず、そのうちわからなくなってしまった。 あのコロコロと「オバサン」くさかった女の子は、今どうしているのだろうか。40歳になって、本当にオバサンになって、わたしと同じく母親になっているのかしら。あんなに漫画を描くのが上手かったのだから、美術系の仕事をしているのか、それとも、あれからガラリと変わって、全然ちがう風になっていたりして。わたしが高校でオーケストラに入って楽器を始めて、それから音楽家と結婚したのよ、なんて言うと驚くかしら。 この頃、昔なじみに会って話をしてみたいと思うようになった。 トシだなあ。(2005.9.11) |