ノブコです!
読んでってね!
ちょっとおもろい、つれづれ話

46.カブト虫

 今年もまたカブト虫を飼うことになった。はじめは小さいクワガタを2匹もらってきただけだったのに、どういうわけかアッという間に飼育ケースは大所帯になってしまった。

 毎日曜に通っている教会学校で、ある日、三男と同じクラスの男の子とお父さんが、数え切れないくらいのクワガタを持ってきて、希望者に配っていた。別に商売でやっているわけではなくて、捕まえたのを飼っていたら自然繁殖して飼いきれなくなって困っているのだと言う。世間並に「ムシキング」にかぶれている三男が目の色を変えて飛びつき、ごねるので、三男に甘い母が承諾してしまった。そういうわけで、オス2匹とメス1匹をいただいたのだが、メスは家に着くまでにビニール袋に穴をあけて逃亡、オス2匹だけ、去年カブト虫を飼ったケースに再び土など入れて飼うことにした。

 去年、カブト虫は1匹だけだった。が、油断するとケースのフタをもちあげて脱走するくらい力が強く、活発でパワフルだった。そこへいくと、小さいクワガタは2匹いても、何となく物静かである。薄っぺらい体で這いまわり、ちょっと電気が点いただけで驚いてコソコソ木の陰に逃げ込んでいく。大人しくて飼いやすいし、可愛いと言えば言えなくもないけど、やや物足りない。

 そんなわたしの思いを神は聞いてくださったのか、次の週の教会学校では、同じ親子が衣裳ケース2個を持ってきた。中には、そう、カブト虫が! 母の抵抗むなしく、やはり飼うことになってしまった。それも、少々手違いがあって、4匹ももらってきてしまったのだ! ちょっとちょっと、そんなにたくさん飼ってどうするっていうの。1匹か2匹で充分だよ。

 子ども達は、カブト虫に限らず、時々いろいろな虫やカナヘビなんかを捕まえてきて、すぐに「飼う」と言い出す。しかしね、君たちに飼いきれるわけがない。手に負えないのはわかっているので、元気なうちに逃がしてやるよう指導する。カナヘビは、珍しくて飼ってみたいと母も思ったので、ネットで飼育方法を検索してみたが、やはり充分な世話をするには大変な労力が要る。飼育環境を整えるにはお金も要る。ただ子どもの好奇心にまかせていじっていたら弱るだけだ。

 だが、子どもの教育のためには、きちんと飼育方法を教えて、責任を持って世話をさせるのがよい。結果として残念なことになっても、それがよい経験となるのだ、と頭では分かっているのだが、実際子どものやることといったら、どうもトンチンカンなのである。これじゃあ弱っちゃうよッ、何やってんのッ、そうじゃないのよお母さんがやるからどいてなさいッ、触るんじゃないの!と、いつも結局は親が取り上げてしまう。そして世話はお母さんがやることになる。お母さんはブツブツ言いながら水をやったりエサを取り替えたり…、実はいちばん飼うのが好きなんじゃないかと家族に疑われている。

 そしてカブト虫。カブト虫というのは鳴かない虫だ。だから静かかと思ったら大間違い。こやつらは夜になると活動を始める。足で土をかきわけて這い出し、餌であるリンゴや昆虫ゼリーをむさぼる。止まり木をつたって飼育ケースのフタにとりついて縁に沿って歩く。どこからどう音がするのか、バキバキバリバリガサガサゴソゴソブキブキベリベリ…いろんな音がする。それもケースは玄関のげた箱の上に置いてあるのに、廊下の先のリビングからでも立派に聞こえるくらい大きい。時々泥棒ではないかと不安になって見に行くほどである。するとヤツはバッと中羽を広げて飛翔態勢、ブーン ガガガ ケース壁面に衝突、ベキッガキッ ああ、うるさい。

 カブト虫は図体がデカイせいか食欲が旺盛で、また力が強いのでだいたい昆虫ゼリーを乗せてある木とか入れ物をひっくり返してしまう。翌日土まみれになったゼリーを取り除くのが面倒である。そのうえ態度が横柄で、ちょっとやそっとでは逃げない。古いリンゴを取り除こうとするとしがみついたままくっついてくる。うっかり指や手につかまられたら、足のギザギザが食い込んで痛くてたまらん。

 そうして夜の間に精力的に活動したカブト虫達は、朝になると土にもぐって寝ている。大人しく寝ていれば可愛い気もあるが、昆虫ゼリーに頭を突っ込んだまま活動停止しているの、2・3匹まとまってお尻だけ土から出してるの、どうも行儀が悪い。土もきちんと平らにならしてあったのに、あちこち混ぜっ返すものだからボコボコになってしまった。やつらの傍若無人さを見ていると、海外旅行先で大阪のおばちゃんが団体で買い物に来たのに出くわしたような気がする。いや、別に気がするだけです。他意はありません。

 物足りなくてもクワガタだけ飼っていればよかったなあ。ちょっと後悔しかけたとき、自転車を取りに駐輪場に行くと、何やら黒いものが這っている。

 カブト虫だ。オスの。

 元気に飛んでいってくれよう。祈ってみたが、ちょっと弱っているのか、カブト虫は夜しか飛ばないのか、そいつは飛ばなかった。でも放って置いたら自転車か何かに轢かれてしまうかも知れないし、どこかの悪ガキがオモチャにして死なせてしまうかも。うまく自然に帰ったとしても、足が2本つぶれていて、生きていけるだろうか。

 カブト虫が1匹増えた。えーい、好きにしなさい。(2006.7.31)



47.上野動物園

 今年の夏休みも終わりに近づいた。間もなく幼稚園や学校がはじまる。夫も休みであるし、夏休みの最後にどこか遊びに連れて行ってやることにした。どこに連れて行ってやろうか?

 子どもに聞くと、「近所の公園」が最有力である。たしかに君たちはそれでいいのかも知れない。だけどお父さんとお母さんは、夏休みの思い出のひとコマをつくりたいのだよ。それが「近所の公園」では日常生活に埋もれてしまうではないか。そもそも子どもに聞くのがまちがっていた。生まれて数年の彼らが知っているところといったら、数えるくらいしかない。かなり限定されている。

 検討の結果、上野動物園になった。誰よりも母のわたしが行きたがったのである。子どものころ、どこかへ行くというとたいてい上野だった。どうも料金が手頃で上野駅からまっすぐでわかりやすいから、という理由らしい。わが家では4年ほど前に、小さかった子ども達を連れて行ったきりだ。下のふたりは小さすぎてよく覚えていないようだし、そろそろまた連れて行きたい。

 わたしが小学生のころ、はじめてジャイアント・パンダが上野に来て、それはそれは話題になった。さっそく見に行ってみると、パンダ舎の前はトンネルのようになっていて、その入口まで長い長い列が出来ている。やっとトンネルに入ってみれば、人がギュウギュウ詰めになっていて、ゆっくりパンダを見るどころではない。係員は、止まらずに通り過ぎるよう注意するのだが、やっとパンダ舎の前まで来た人達は、なかなかどこうとしないし、前の方の人などはどきたくても身動きがとれないのだ。後ろの方の人は、前の人の頭しか見えないものだから、何とかパンダを見るまではがんばっている。

 子どもだったわたしは、父の肩車で見た。どんな風に見えたかはっきりは覚えていないけれども、ジャイアント・パンダはその名の通り大きかった。大きい白と黒の毛の固まりだった。やっとのことですし詰めのトンネルを抜けると、わたしは父に言った。「もう一回見る」。だが、それはあっさり却下になり、ワンワン泣いて抗議したのである。今、わたしは親の立場となり、そのときの父の気持ちがわかるようになったけれども。

 そう、上野といえば、西郷隆盛、ではなくジャイアント・パンダだ。母の上野のパンダにたいする愛着はなかなか深いのである。なのに前回来たときには、パンダはメキシコへ繁殖活動に出かけていて留守だった。うちの子ども達は本物のジャイアント・パンダを見たことがないのだ。けしからん。何をさておいても、パンダを見せなければ!

 「じゃあパンダ行こう! 本物のパンダがいるんだよ! 行くよ!」

 意気込んでパンダ舎の前に連れて行く。が、手をつないでいた三男は、喜ぶどころか「ノドかわいたあ、動物園に着いたら飲んでいいって言ったでショ」と関係ないことを言っている。問答無用、パンダが先だ。

 パンダはいた。

 でも、後ろ姿だった。何やら床にドヘーッと長々と、白と黒の物体が茹ですぎた餅みたいにのびていた。どっちが頭なんだかお尻なんだか。子ども達は、30秒くらいで通り過ぎた。通り過ぎて、隣のレッサー・パンダを見ている。「パンダちゃん、見た?」と聞いたら、「うん! レッサー・パンダかわいかった」とか言っている。違うでしょ、ここは上野動物園なんだよ、上野といえばジャイアント・パンダでしょ。レッサー・パンダなんか他の動物園でも見られるでしょ!

 大人というのは、自分の価値観で物の優劣をはかり、それを子どもにも押しつけるものである。だけど、子どもにとってはまったく意味のないものなのだ。レッサー・パンダよりジャイアント・パンダの方が上だなんて誰が決めたのか?希少種であるとか、高価であるとか、それに何の意味があるのか?ジャイアント・パンダよりレッサー・パンダの方が好きなんだから、それでいいのだ。動物園に来て、何を見なければいけないとか、何に感心しなければいけないとか、そんな決まり事など、本当はどこにもないのだ、と母は学んだ。

 だが、うちの息子達は、やや変わり者なのか?と思わないこともない。「次は何を見たい?」と問えば、「馬」「ネズミ」「昆虫」…馬とネズミはいたが、昆虫は展示されてなかった。その辺にセミや蛾がいるけど、これでいい? 不忍池のほとりで休んでいると、

 「わあー、コイがいる〜!」

 あのさあ、トラやクマの前もさっさと通り過ぎたよね、君たち。やっぱり「近所の公園」がいちばん似合ってるのかもね。(2006.8.30)

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