北広島町 おおあさ鳴滝露天温泉
湯、大好き、という立場で日帰り温泉やスーパー銭湯について書いているこのコーナーだけれど、今回は、番外編、山の中の温泉のご紹介。
珍しく、温泉を目的に一泊で出かけた。折りしも今年初めての大型台風が接近中。わざわざ山の中へ行く天気ではない。十余名の一行は、私が若手になるくらいで、みんな分別のあるいい大人のはずなのだが、誰からも中止や延期の声はあがらない。まさに「湯の決死隊」である。
行き先は広島県北広島町、大朝地区にある、鳴滝温泉である。
広島市から、山陽道、中国道、浜田自動車道を通って行く。すいていれば1時間くらいで着く。東京にいると、1時間くらいの移動だと、景色も変わらないし、まったく日常と変わりないが、地元の人に聞くと、ここまで来ることはそんなにないし、十分旅行気分になるという。実際、高速道にのるとすぐに山の中である。山といっても、なだらかな中国山地だから、景色は穏やかである。険しい地形ではないから、少しでも平らなところがあればそこに人が住んでいる感じで、小さな集落が沢山ある。
広島で目に付くのはオレンジ色の瓦。これは石州(せきしゅう)瓦、通称赤瓦という。石州とは、世界遺産で有名になった石見(いわみ)銀山のある地方、今の島根県西部である。私は山陰地方を歩いたことがないけれど、そちらの方が、赤瓦の本場だそうだ。広島では西条地区に多い。東京から新幹線で行けば、東広島を通過する前後から、瓦がオレンジになるのに気がつくだろう。赤瓦は高価で、それゆえもともと裕福な西条地区に多いそうだ。鬼瓦はなにやら立派な形だが、その由縁は地元の方もご存知なかった。
北広島町は、平成17年に、芸北、大朝、豊平、千代田の4町が合併して誕生したそうだ。北海道の北広島市が有名で、そこと間違えられないような町になりたいと町長さんは言っておられた。山あいの、静かな町である。
鳴滝温泉の由来も聞いた。

この近くに「鳴滝」という滝がある。山中の美しい滝だが、そこへの小径がいつしか草に覆われてしまった。この道を復元しようと地元の若者がボランティアで作業をしているとき、お湯を掘りあてた。さて、どうしようといろいろな話になったとき、これを観光資源にするのでは地元の自然が荒れる、だからそっとしておこうということになったそうだ。それを聞いた地元の運送会社が、それはあまりにもったいない、そういうことならこの湯を毎日別の場所に運んで温泉場を作ろうということになり、今の場所に建物を作り、毎日湯を運んで、営業しているのだという。
木立の間に、鳴滝温泉はある。看板など、もう少しセンスいいものを立てればいいと思ったが、中に入ってしまえばそんなものは見えないから、まあ、いい。看板とは、難しいものだ。目立たなければ人が素通りしてしまうし、目立つものは、概して品が悪い。
源泉の温度は17℃と低い。だから、沸かしている。したがって、入浴できるのは朝7時から夜9時(露天は12時から)と制約がある。しかし、何といっても、大自然の中にある露天風呂は気持ちいい。写真で滝のように見えるのは「打たせ湯」である。
湯につかった後の宴会で、川魚「ごり」をいただいた。あゆ、やまめ、いわなとほぼ同じ大きさ。塩焼きでいただいたが、身がしまって、川魚にしてはしっかりした味。臭みはない。このあたりに棲む魚で、そんなにたくさん獲れるのもではないと聞いた。川といえば、このあたりに源を発する川は、日本海に流れるものも、瀬戸内海に流れるものもあるそうだ。中国地方のちょうど真ん中ということだろう。ちなみに瀬戸内海側と日本海側は、高速道を通ればわずか1時間ちょっとで結ばれている。この近さは、関東の人間には驚きだ。
北広島は「神楽の里」でもある。千代田地区の神楽は、広響とロシアに行ったほか、アメリカはじめ諸外国にも出向いているという。地理的に出雲に近いことと関係があるのだろうが、舞台は出雲神楽に比べると動きが大きく派手で、早変わりなどもあるそうで、歌舞伎的な、見ていて飽きないものだそうだ。この「鳴滝温泉」にも神楽の舞台があり、館内にはその写真もあったけれど、年に4回ほどしか上演されないそうだ。神事の関係、というよりは、演じる地元の人の都合が大きいとのこと。観光ということへの考え方はいろいろあるだろうし、よそ者がとやかく言うことではないけれど、見る方から言えば、もう少し上演回数があってもいいような気もする。
翌朝は雨の中だったが、町内を案内していただいた。雨に佇む白紫陽花が美しい。
町が整備した戦国武将吉川(きっかわ)元春の館は、間もなく公開される遺跡。復元建築は「台所」だけ。あとは芝を植えた広い台地に残された遺構を眺め往時を偲ぶようになっている。1600年に吉川氏が岩国に移封されてからは全くの廃墟となっていたというが、石垣は残っており、近くには資料館もある。
うっかり場所を忘れてしまったが、この近くに、昔の風呂を体験できるところがあるとも聞いた。蒸気をもうもうと焚き浴衣のまま入る蒸し風呂だそうで、これは一度行ってみたい。私はサウナが苦手だけれど、これなら大丈夫そうな気がする。
古くからの造り酒屋「老亀(おいかめ)」では、ヨーロッパのコンペティションで金賞を受賞した古酒を試飲させていただいた。先代が、なぜ日本酒は寝かしておいていい味にならないのか研究を重ねられた成果だという。10年ものという古酒は、重い黄金色で、口に含むとトロッとして、ワインのようだった。
わずか一泊二日だったが、久々に「休日」をすごした。台風から逃げるようにして、東京へ帰った。
おおあさ鳴滝温泉のホームページ
http://www.kitahiroshima.com/narutaki/index.html