横浜 勝烈庵

横浜は、私にとって「ふるさと」である。生後九ヶ月頃から小学校卒業くらいまで、東横線の反町と横浜の間のトンネルの上くらいのところで育った。今は東横線は反町の手前からずっと地下鉄になってしまうから、こういう言い方ももうしばらくすると通じなくなってしまうのだろう。

横浜駅の近くの丘の上である。窓からは横浜駅を発着する電車が見え、その向こうには横浜港が見えた。大小さまざまな船が見える。港の傍には貨物線があって、そこには蒸気機関車が走っていた。そういう景色を見て育ったのだから、乗り物好きになるのはいたって自然なことだった。

ここ数ヶ月、仕事で通ったが、横浜もずいぶん変わった。きれいになった。

昔、造船所で立ち入ることのできなっかたエリアは、「みなとみらい」と名を変えて今や観光スポットである。ちなみに、このエリア、今、日本で一番きれいな町並みではなかろうか。歩道は整備され、地下鉄の駅はすべて芸術品といえるレヴェルである。みなとみらい駅など、地上から吹き抜けがあってホームに至る。つまり、地上から地下鉄の発着する電車が見えるわけで、ああいう建造物を見ると、建築の世界も世代交代して、新しい発想が具体的に形になっているのだなということを感じる。

さて、「勝烈庵」だが、横浜の老舗のトンカツ屋である。本店は馬車道、支店は横浜駅の地下街ほかいくつかある。やわらかい豚肉をカラッと揚げて、蜆汁とお新香がつくのが定番の「勝烈定食」。これは普通のトンカツ屋の「ヒレカツ」である。ロースも値段は同じ。ロースだと、ロース用のソースを別に持ってくるが、ソースの違いなどわからないし、どうでもいい。肉のやわらかさ、揚げたてのおいしさは、格別である。

店内には棟方志功画伯の版画がたくさん飾ってある。先代(もはや先々代か)が私淑したそうで、提灯などにある「勝烈庵」の墨跡も画伯のものである。たまにサービスデーにあたると、画伯の版画の描かれた絵皿をくれたりする。ちなみにその先代は横浜を愛した文化人で、多くの史料を持っておられ、それが、店や、同じ経営の洋食店である「山手五番館」や「馬車道十番館」に展示されている。

愛する店ゆえ苦言を呈するなら、店によってはカウンターの中で働く職人の私語が不快だったり、おばちゃんが多いホール係の接客に不愉快を感じることがなくもない。蜆汁は、名物赤出し味噌はむかしのままながら、蜆はおっそろしく小粒になり、味も落ちた。

しかし、子どもの頃から慣れ親しんだ店、横浜に行くと、つい、寄ってしまう。いろいろ文句はあっても、あの揚げたてのカツの歯触りが忘れられなくて、寄ってしまう。

これからも、この好みは、変わることはないだろう。「子どもの頃、しょっちゅう親に連れて行ってもらった店の味」なのだ。私の弟など、「横浜でカツ弁当買っていくぞ」というと、今だに、どこへでも車で迎えに来てくれる。

横浜 「勝烈庵」
http://www.katsuretsuan.co.jp/
本店:横浜、馬車道。横浜駅周辺に支店あり。
勝烈定食、ロース定食とも 1370 円。

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