高尾

清水から静岡へ行く「南幹線」という通りがあります。旧清水市役所(現・静岡市清水事務所)のすぐ近くの大きい交差点を起点とするこの道路を静岡方向に向かって信号一つ、巴町の角に、「高尾」はあります。

地元の人が宴会の後にポケットマネーで来るような小料理屋、というか、家庭料理の店。カウンターが7、8席と小上がり席がひとつ。メニューなんか、なにも書いてありません。いかにも港町のおっかさんという感じの「おかあさん」が、ひとりで切り盛りしています。カウンターの上にはその日の料理がいくつも並んでいて、客はそれを小皿にとったり、その日の新鮮な魚をいただいたりします。

地元色いちばんの食べ物は「イルカ」。清水は桜エビ、シラスといった海の幸に恵まれた場所ですが、伝統的にイルカも食べるそうです。私も何回か食べましたが、ここ「高尾」に来る前は、決して美味しいとは思わなかった。たいがい、昔の給食の鯨肉みたいな、ガムみたいに噛んでも噛んでも噛み切れない上に味気のないものだったから。ところが「おかあさん」の手にかかると、このイルカが何とも絶妙な煮物に変身してしまいます。

「料理なんて、ちょっとした工夫でどうにでもなるんだよ!」笑いながら話すおかあさん。煮物揚げ物焼き物なんでもござれの店。時には客の相談にのっていたり、「もう止めときなよ!」と飲み過ぎた客を叱ったり。何と、残念なことに、2005年の1月29日に、店、閉めちゃうんだって! 「あたしゃね、元気なうちに世界中のいろんな町に行きたいんだよ。料理? うちへおいでよ、いつでも作ってあげるよ。」

惜しいなあ。でも、これからも元気でね、おかあさん。

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