〜はじめて印刷物をつくる人のために〜

<第3回>印刷物の発注

●発注する

第2回<印刷物の見積り>に登場したお母さん、値段も折り合ったので、印刷をお願いすることにしました。
もし予算と合わなければ、条件を変えて何度か見積りを出すこともできますし、他の印刷屋さんにも同じ条件で見積りを出してもらい、比較検討してもいいでしょう。

さて印刷をお願いしたところ、印刷屋さんは次のように言ってきました。
@納期はいつですかA完全データ入稿でお願いしますBフォントはアウトライン化してください」
納期以外はさっぱりわかりませんね。またひとつひとつ追っていきます。

@納期

言葉の意味がわからない方はいないでしょう。いつまでに印刷物を納めればいいか、です。ただし印刷屋さんによって1週間でできるところ、2週間以上かかるところ、など差がありますので、はじめに確認した方がよいでしょう。はっきりと「○月○日に必要」とわかっている場合には、その旨をきちんと伝えておかないと、トラブルの元になりかねません。特に急いで納品してもらったときには特急料金がかかることがあります。

一般に、印刷物が仕上がるまでには、量にかかわらず2週間ほど時間がかかります。

A完全データ入稿

まず「入稿」というのは、原稿を入れることです。
現在、印刷の世界でもデジタル化が進み、ほとんどの作業をコンピューターで進めています。

データ入稿とは、「印刷のための原稿をデジタル化して印刷屋さんに渡す」ことです。「データ」の中身は、どのような印刷物をつくるを決めたデザインが入っています。記録媒体(MOやCD-ROM)に記録してやりとりします。ですからコンピューターがないとできません。

「完全」と付くのは、「写真もデータ化して組み込んでいること、すべての要素をデジタル化してあること」という意味です。もし印刷に使う写真がデジカメなどで撮ったデータでなく、プリントしかなかったら、スキャナーで読み込むという作業が必要になります。印刷屋さんに頼めばデータ化してくれるところがありますが、有料か無料かは確認すべきところです。

写真の扱いは、データ入稿といっても、アタリ(どこにどのように写真を入れたいか絵柄を書き記したもの)を入れておけば、プリントやポジ、ネガから製版してくれる場合もあります。この場合「完全」とは付きません。

「完全データ入稿」の利点は、すべてがデータ化してあると印刷屋さんの作業が減り、早く仕上げることができることです。そのための印刷機も発達しています。

蛇足ながら、「データ入稿」以前の入稿について。

「データ入稿」という言葉が出始めたのは、10年ほど前のことで、印刷の歴史上では、わりと最近のことです。その前は、印刷物は、版下という文字通り版をつくるかたちで入稿していました。これは、紙に細いインクで線をひき、写植という印刷用の文字を並べて貼り付け、あとから色の指定を書き込んだもので、ほとんどが手作業でした。(右の写真参照。右・版下に色指定を書き込んだもの 左・仕上がった印刷物)版下は色が付いていないだけで、ほぼ印刷物の仕上がり通りのものがつくられたのです。当然、写真はプリントやポジでした。ただ文字だけは、印刷用の文字を打つ写植機というもので印字しなければなりません。これは専門の写植屋さんがいて、デザイナーの指示にしたがって文字を打ちました。コンピューターでの作業が多くなるにつれ、写植屋さんも姿を消していきました。しかし、現在でも、コンピューターの文字にはない美しさを持つ写植文字にこだわるデザイナーも多く存在します。


Bフォントのアウトライン化

ペラの印刷物をデータ入稿する場合、コンピューターで制作する際、Illustrator(イラストレーター)というソフトをよく使います。作業上、文字は変更可能な状態になっていますが、印刷に使えるフォント(文字の種類)とそうでないフォントがあります。専門的になるので、あまり詳しくは説明しませんが、フォントに起因するトラブルというのは起こる可能性が、かなり高いのです。

Illustratorには、フォントを文字としてではなく、絵として変換する機能があります。それが「アウトライン化」です。一度、絵に変換すると、文字を打ち込むことはできなくなり、間違いがあっても直せなくなります。しかし、アウトライン化することで、印刷上のトラブルは激減しますので、印刷屋さんは「なるべくアウトライン化して欲しい」というところが多いのです。


以上、ざっと説明しましたが、専門用語もたくさんあってあまりよくわからないのではないでしょうか。ぼんやりと、何となくこういう意味なのかな、と思うくらいでけっこうです。なぜなら実際にデータを作成するのでばければ、納期の他はあまり関係がないからです。

さて、例のお母さんは、印刷屋さんにデータを渡したくても、自分ではどうすることもできません。そこで、はたと思いつきました。
「そうそう、幼稚園のお母さん仲間にデザイナーさんがいたわね。頼んでみようかしら」
そうです、ここでやっとデザイナーの出番です。では、デザイナーに仕事を依頼しましょう。

●デザインを頼む

印刷物をつくるためには、どのようなデザインにするか、決めなければなりません。それを決め、実際に印刷ができるような形にするのがグラフィックデザイナーの仕事です。

どのようなデザインにするかは依頼主(クライアント)と打ち合わせをします。あくまでも内容が大事なのであって、デザインはそれをよりわかりやすく、より効果的にアピールするためにあるのです。もし中身がよく決まっていないときは、打ち合わせをしながら決めることもできますし、さしあたってイメージだけ出すこともあります。

●デザイン料

デザイン料は、規定がありません。人によっても場合によってもちがいます。
この例の場合、「1色・B5・片面」では、1万〜5万くらいでしょうか。ずいぶん幅がありますが、言い値なので、デザイナーに直接きくしかありません。
CDジャケのカラー面のみで3〜10万前後。ブックレットの中身をつけると5〜20万くらいでしょうか。これもケースバイケースなので、問い合わせてください。
デザイン事務所では、会社で規定を設けているところもあります。

●入稿までの流れ

先ほども触れたように、デザインは内容がなくてはいけません。依頼主は、何をどのように伝えたいのかを明確にしなければなりません。
デザイン上必要と思われるものはデザイナーが用意しますが、「この写真を使いたい」とか「このイラストを使いたい」というものがあったら、依頼主が用意してデザイナーに渡します。

そして、第1稿(ラフ)ができたら、また依頼主と連絡し、内容とイメージを検討します。ラフは、あくまでも、こんな風なものをつくろうと思う、というだけのものですから、変更したいところやイメージとちがうところなどは、どんどん言ってかまいません。この頃は、コンピューターで制作し、カラープリンターで出力するために、あたかも仕上がりのようなラフができてしまいますが、変えていいのです。あくまでも印刷物をつくるのは依頼主だということを忘れず、納得がいかないのに妥協する必要はありません。ラフは洋服を買うときの試着と同じで、何回出してもデザイン料は変わりません。

それと平行して依頼主は文字校正というのを行います。これは文字に誤字脱字がないかチェックする作業で、これを怠ると、まちがったまま印刷が仕上がってしまうかも知れません。丁寧に見ましょう。

第2稿、第3稿と煮詰めていって、文字の直しもすべて終わり、もうこれ以上変更はないとなったら、印刷屋さんに渡します。これが「入稿」です。


実際に、架空の「手づくりビーズショップ」のチラシをつくってみました。
下の写真、左と中が第1稿(ラフ)として提出したデザイン2点です。

これを受け取った奥さん(依頼主)は、自分のイメージに合ってるか、言いたいことは伝わってるか、文字の間違いはないか、などと検討します。そして左の方のラフで進行することに決め、「もう少し店がオープンすることをアピールしたいので、文字を大きく、インパクトのあるものに」という注文を出しました。その結果、右の第2稿ができました。

ほぼイメージ通りだったので、デザインが決定。文字校正もOK。入稿です。


●印刷屋さんとデザイナー


入稿に際して、前項にあるような写真のデータがどうだのフォントがどうだのといったややこしいことや、実際のデータの受け渡しなどは、専門家であるデザイナーが直接印刷屋さんとやりとりすればいいことです。

逆に、印刷屋さんは決まっていなくて、デザインを先に考えた場合、デザイナーが印刷屋さんを紹介したり、印刷込みで仕事を受けたりすることも少なくありません。

さて、入稿が無事に済んだとして、その後もすることがあります。


第4回は<紙と色校正>です。

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