熱安定性
磁石の信頼性を評価するのに、熱安定性は重要な項目である。特に、ネオジム磁石においては大きな弱点のひとつであり、応用設計において十分な注意を払う必要がある。
ここでは、「磁石の熱安定性」および「磁石の熱減磁」に分けて説明する。
また、ネオジム系焼結磁石の減磁曲線および熱減磁の実際についても説明する。
磁石の熱安定性
ここでは、磁石の熱安定性について、減磁曲線からの導出方法を説明する。
外部磁界による減磁
外部磁界による減磁について説明する。
1.外部磁界dHを印加すると、動作点(1)は(4)に移動
2.外部磁界dHを取り除くと、動作点は(5)となる
3.(1)と(5)の差dBdが不可逆減磁
昇温による減磁
昇温による減磁について説明する。
1.室温から昇温すると、動作点(1)は(2)に移動
2.室温に戻すと、動作点は(3)となる
3.(1)と(3)の差dBdが不可逆減磁
磁界と昇温による減磁
外部磁界と昇温の同時印加による減磁について説明する。
1.室温から昇温すると、動作点(1)は(2)に移動
2.外部磁界dHを印加すると、動作点は(5)となる
3.外部磁界dHを取り除くと、動作点は(6)となり
4.室温に戻すと、動作点は(7)となる
5.(1)と(7)の差dBdが不可逆減磁
磁石の熱減磁
ここでは、磁石の熱安定性について、熱減磁の種類および試験の種類を説明する。
熱減磁の種類
熱に起因する減磁については、以下に示したように、可逆減磁と不可逆減磁とがある。
熱による減磁のうち、室温に戻すことによる回復する分を可逆減磁、回復しない分を不可逆減磁と呼ぶ。
不可逆減磁のうち、初期の急激な減磁を初期減磁、時間の推移に伴う減磁を経時変化、再着磁して元に戻らない分を永久減磁と呼ぶ。
可逆温度係数
可逆減磁は、温度に対しほぼ直線的に変化し、その割合を可逆温度係数と言う。一般的には、可逆温度係数をBrの温度係数で代用することが多い。
熱サイクル試験
磁石を加熱すると磁化が変化(減磁)するが、この減磁には、室温に戻すと回復する可逆減磁と、回復しない不可逆減磁がある。
経時変化試験
不可逆減磁とは、加熱により減少した磁化のうち、室温に戻しても回復しない減磁のことを言うが、加熱初期の急激な減磁のことを初期減磁と言う。
永久磁石の磁化は時間とともに変化(減少)するが、これは熱ゆらぎ緩和に起因する磁気余効現象によるもので、その磁化の変化(減磁)は対数時間に比例する。
酸化や析出による組織変化など冶金学的構造変化によって永久的に磁気を失ったときにも減磁は見られるが、この場合再着磁を施しても回復しない。この減磁を永久減磁と言う。
磁石の減磁曲線の実際
ここでは、磁石の減磁曲線の実際について説明する。
減磁曲線の温度依存性の実際
保磁力(HcJ)が22.4 kOeのネオジム系焼結磁石の減磁曲線(4πI-H曲線)の温度依存性を示した。
残留磁束密度(Br)と保磁力(HcJ)は、温度上昇とともに減少するが、その度合いは異なる。
室温から百数十℃の温度範囲では、それらの温度変化の度合いは直線関係にあり、温度係数に換算すると、Brの温度係数はおおよそ-0.1 %/℃、HcJの温度係数はおおよそ-0.6 %/℃となる。
室温での減磁曲線の実際
保磁力の異なる三種類のネオジム系焼結磁石の室温での減磁曲線を示した。
17.1、22.4、26.0 kOeといずれも高保磁力であるため、室温での減磁曲線に大きな違いは見られない。
高温での減磁曲線の実際
保磁力の異なる三種類のネオジム系焼結磁石の140 ℃での減磁曲線を示した。
最も保磁力の低い17.1 kOeの場合、140 ℃での保磁力は140 ℃での残留磁束密度の半分以下であり、パーミアンス係数が小さいと減磁してしまうことが理解できる。
磁石の熱減磁の実際
ここでは、磁石の熱減磁の実際について説明する。
熱減磁の保磁力依存性の実際
保磁力の異なる三種類のネオジム系焼結磁石の磁束の温度依存性を示した。パーミアンス係数は1.0である。
5%減磁をひとつの目安とすると、17.1 kOeでの耐熱温度は100 ℃程度であるのに対し、26.0 kOeでは180 ℃程度にまで改善され、高保磁力化による耐熱性改善の効果が分かる。
熱減磁のパーミアンス係数依存性の実際
22.4 kOeのネオジム系焼結磁石の磁束のパーミアンス係数依存性を示した。
パーミアンス係数が0.5での耐熱温度が130 ℃程度であるのに対し、2.0では180 ℃程度に向上しており、パーミアンス係数を高くする、すなわち、磁石の形状や磁気回路を工夫することによっても、耐熱性が改善できることが分かる。
