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「市民がつくるマニフェスト運動」
市長選挙の公約を市民グループがつくり、候補者全員に提案する「市民版マニフェスト運動」が奈良市で繰り広げられている。運動に参加する市民の一人ひとりが、「もし私が市長だったら、こんな施策をこんなふうに実行する」と自分の考えを出し合い、期限・財源・数値目標をしっかりと明示したまちづくりの公約にまとめ、ことし八月、奈良市長選挙の立候補予定者に提出した。
市民が公約を提案する運動は珍しい。市民主権社会の実現を目指しているが、遠回りのまちづくり運動のように映ることもあるだろう。この運動はしかし、陳情型の古い民主主義とは対極にある。公約には、市民と行政の「協働内容」という重要な項目があるのだ。世界から尊敬される歴史文化交流都市の構築など、夢と希望にあふれる具体策をふんだんに盛り込んだが、ここで市民は、汗も知恵も出す存在として登場する。たとえだれが市長に選ばれたとしても、このマニフェストには数値目標があるので、在職中の市長の仕事を評価する基準を市民自身が持つことになる。
運動は、奈良市民でNPO政策研究所理事長の木原勝彬氏が呼び掛けた。江戸時代の民家が残る奈良町の景観保全運動を起こし、知事選では候補者の討論会を開催するなど、木原氏はさまざまなまちおこしにかかわり、ガバナンス(協働・共治)論の著述も多い。八月二十九日告示の奈良市長選を前に、低投票率が続く近年の傾向を憂慮し、昨年十月、運動を立ち上げた。
呼び掛けには、自営業者や大学教授、福祉の専門家、まちづくり団体の役員、高校教師、学生ら多様な市民が集まり、十カ月にわたる議論を続けてきた。この奈良で何とか新しい変化を作りだそうと立ち上がった人々だ。まず地域の課題を洗い出し、問題を共有し、討論し、みな市長の顔になって解決方策を考え合った。この課程こそ「討議民主主義の活性化だ」と木原氏はみている。相互に学び合いながら結論を導き出すことが大切なのだという。
こんな公約ができた。小学校区のコミュニティー総合計画策定。県外来訪者が最多の行事「正倉院展」常設化と文化庁の奈良誘致。巨額の負債と不良資産をかかえる市土地開発公社の塩漬け土地を都市林に再生。財政危機を市政と市民が共有するための財政診断士制度の導入。個人市民税1%でNPO助成のための奈良市民基金を創設。行政情報を徹底公開し、政策形成プロセスの市民参加、等々。これは一例であり、自然・歴史・文化などの奈良の固有性を未来に生かし、最後まで人間らしく暮らせるまちづくり政策と協働プロジェクトの柱を二十五項目つくり上げた。
「あれもやります、これもやります式の願望リストのような選挙公約ではだめ」。メンバーの一人、中小企業診断士の梅屋則夫さんはこう言い切る。奈良経済自立の道筋を具体化させる論議では、期限や財源に厳しい意見を述べてきた。「マニフェストとはまさに契約行為です」と梅屋さん。
行政学者も声援を送る。同志社大学教授の新川達郎さんは「市民の手作り政策の方が柔軟で、実態に合っているかもしれない」と評価し、「マニフェスト運動を通して市民・企業・NPO・行政の関係が再構築され、新しいガバナンスが生まれる」と期待を寄せる。
マニフェスト運動に幅広い奈良市民の声を反映させたいと、メンバーは公開のまちづくり講座や懇談会を開いてきたが、ニュータウンの大きな会場で参加者がほんの数人という時期もあった。マニフェストという言葉はまだまだ市民になじみが薄いのだろう。その上、立候補者でない市民が苦労して公約をつくる意義もなかなか理解されない。それでも運動はひるまずに続き、公約の表現に磨きをかけ、数値目標をチェックするメンバーの目は日ごとに厳しくなった。
いよいよ市長選が間近に迫った八月七日、近鉄奈良駅前の会場でメンバーが開いたまちづくりシンポジウムには、運動に共感を寄せる北川正恭前三重県知事、岐阜県多治見市の西寺雅也市長、埼玉県志木市の穂坂邦夫市長がボランティアの講演に訪れた。立ち見客も含め会場を埋め尽くした百七十人の参加者が市民版マニフェストの冊子を受け取り、読み始めた。
「小さなことから始める勇気、それを大河に変える根気が大切」。北川氏がこう呼び掛けたとき、かつての、空席ばかりが目立った行事のひとこまが脳裏に浮かんだメンバーもいたのではないか。
この運動は議会の活性化にも役立つと思う。市民版マニフェストの政策のうち、市役所がなかなか動かない分野については、議員提案による条例化を働きかけてもよいだろう。たとえ議会が関心を示さなくても、市民が条例案をつくり有権者の五十分の一の署名を集め直接請求する道もある。議場の採決では、だれが賛成し、反対したのか、次回の議会選挙の判断材料に活用できる。
(浅野詠子 自治・分権ジャーナリストの会会員、奈良新聞記者)
【参考】
☆市民がつくる奈良マニフェスト運動 『まちづくりシンポジウム』
■ 日 時:2004年8月7日(土)午後1時30分〜4時30分
■ 会 場:奈良商工会議所ホール(奈良市登大路町)
■ 主 催:奈良マニフェスト運動実行委員会 特定非営利活動法人奈良NPOセンター 政策研究ネットワーク「なら・未来」 特定非営利活動法人NPO政策研究所
■ 内 容
<基調講演>
「これからのまちづくりと首長の役割〜市民マニフェストの可能性〜」
北川正恭(新しい日本をつくる国民会議代表、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、前三重県知事)
<提案>
「市民がつくる奈良マニフェスト〜奈良ビジョン21〜(奈良マニフェス
Ver2)」
木原勝彬(奈良マニフェスト運動実行委員会世話人、政策研究ネットワーク「なら・未来」代表)
<てい談〜新しい自治体づくりへの挑戦〜新風を巻き起こす市長からのメッセ−ジ>
西寺雅也(多治見市長)
穂坂邦夫(志木市長)
司会:浅野詠子(自治・分権ジャーナリストの会)、木原勝彬
☆市民がつくる「奈良マニフェスト運動」 http://nara-mani.net/