研究者で生活できるのか?

 こんなメールを頂きました。

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 突然のメールでお許し下さい。分からない事があって、色々なホームページを検索していたところ、bunmao様のページに出会いました。きっとbunmaoさまなら、私の疑問に答えてくれるのではないかと思い、思いきって悩みを打ち明けてみることにしました。

 私の主人は現在、院生(D3)です。今D論を書いている最中で、今年の春卒業することになっています。将来は研究者になって、大学の先生になりたいということです。

 私の悩みは何かと言うと、彼は院を卒業したら、大学の研究員(ポスドクですか?)になるつもりのようなのですが、主人がもし、不意の病気などで入院してしまった場合、その入院している期間、国立大学で雇われた2,3年の任期付きの研究員にはお給料が支払われるのかということです。

 私は子供や家の事情で、フルタイムで働く事は無理ですしパートにでても、それだけで一家の生活を支えるのは非常に困難です。主人にはやりたいことを精一杯やってほしいと思っていますが、その反面、現実的なことを考えると心配で寝れないこともしばしばです。

 そんな時、bunmaoさまのHPを見つけました。分かる範囲で結構ですので、なにか教えていただけないでしょうか?よろしくお願い出来ればと思っています。お忙しいところ、ほんといきなりメールを送ってしまってすみませんでした。

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 うーん、とうとうぶんまおも人生相談を受けるようになってしまったか! あんまり社会の役なんかに立ちたくないけれど、それでもご質問とあらば、分かることは答えなければなるまい。オッホン! などと、きゅうにプロフェッサーらしくなるね。

 といっても、ほんとうのところはボクにもよく分らないんです。というのは、単にボクが世間知らずというだけじゃあなくて、この頃制度がネコの目のように変わって、今いちばん新しい情報には必ずしも通じていません。ですから、大まかなことでお許しください。

 いまポスドク対策は大きな問題になっていて、ポスドク救済の対策がいろいろと立てられるようになってきています。その背景は、ここ十数年くらい、大学院を重点化し、とりわけ博士号を多く出すということが国の政策として推進され、博士号は取ったけれど、というポスドク博士浪人が急増されたことにあります。そうか、ポスドクといっても、その方面について知らない人には何のことだかわかりませんね。ポスト・ドクトラル(たぶんそうだと思います)の日本的な略し方で、博士号は取ったけれど、就職がないという人のことです。

 何でそんなに博士を増産しなければならないのかよく分りません。政府の言うには欧米並みというけれど、欧米でもそんなに量産していないですよ。だけど、なぜか最近はアジアのほうがやたら張りきって博士号を出すようになった。コンプレックスの裏返しかもね。

 事情は理系と文系でだいぶ違うから、一概には言えないけれど、はっきり言って、大学院に進んで、研究者になる、なんてのは、今ではあまり実現性のない話だと思ったほうがいいですよ。よほど優秀ならば別で、その場合は、日本の大学なんかにいないで、早く海外の条件のいい大学に行くほうをお勧めしますね。

 いいところに就職して、給料をばっちりとって、何かやりがいのある仕事をしようというんならば、大学院なんかに行かないで、早く就職するほうがいい。ノーベル賞の田中さんを見て御覧なさい。企業の研究所でも、博士まで行って頭が固くなった人よりも、柔軟でなんにでも融通のきく若い人を採用して、自分のところで教育するほうがいいに決まっています。

 今は大学院が一種のモラトリアム機関になってしまったようなところがあります。ボクの頃だって、大学院に進むのに、将来職があるかどうか、なんて考えなかったし、モノの見事に就職浪人暮らしをしましたから、まあ、人のことは言えませんけれどね。ただ、それでもある時期までは、博士課程まで行けば、だいたいは大学なり何らかの研究職がある、という楽観が通用しました。

 ところが今は、まったくそうはいきません。少子高齢化で大学のポストが減ったところに、博士号の増産でポスドクは増える一方です。そんなわけで、大学なり研究機関なりに就職できるのは、宝くじに当るようなものになってしまいました。大学院進学→博士号→大学の先生→研究者という図式は、残念ながら、運がよければ、という条件付です。大学の教授・助教授の公募には、何十、ときには百を超える応募があるといいます。大学の非常勤講師の口さえも少なくなって、奪い合いです。非常勤講師なんて、週ひとコマ授業で、月23万円程度にしかなりません。

 そんなわけで、政府でもポスドク対策に乗り出しました。いろいろポスドク用の一時的な職を用意しています。たぶんいちばん条件がいいのは、日本学術振興会の特別研究員というので、大学の助手よりもいい給料がもらえ、その上、別に無条件で科学研究費がついて研究に専念できますから、天国のような話です。でも、3年が任期で、それが過ぎると地獄です。

 その他にも、最近では大学や研究所で、それぞれのプロジェクトに対応した研究員を置くことが、かなり自由にできるようになり、ポスドクの一時凌ぎの職場となっています。その場合の条件は千差万別ですが、ふつう学術振興会ほどはよくありません。任期もたとえ何年か継続雇用可能でも、一年ごと更新というところが多いと思います。それも通常、40歳までが限度ですから(最初採用時40歳までという場合もありますが)、それを越すとやっぱり地獄です。

 そこで、研究員期間中の身分保障ですが、原則として一時雇用のパートと同じ程度と考えればよいでしょう。病気の場合、国民保険がふつうと思いますが、最近では職場の保険が通用する場合もあるようです。通常の入院ならば、月額の給与が決まっている場合はその間も出るでしょうが、日雇い方式で、出勤した日数に応じて給料が支払われる形式だと、出勤しなければ給料は出ません。ただパートと同様に、有給休暇を認めたり、一時的な病欠に対して保証をしていることもありえます。また、理系と文系で違い、理系のように、実験で毎日出勤しないと研究できない場合はかなりシビアだと思いますが、文系で家での研究が認められるとある程度融通がつくところがあるかもしれません。

 ともあれ、ポスドク研究員というのは、明日をも知れぬ綱渡りの生活です。政府でいくらポスドク対策をしても、ポスドク後の恒久的な職までは対応してくれません。それに対しては自己防衛するほかありません。そのうちに当然どこかの大学にポストが得られるだろう、などとあまり楽観視しないことです。いちばん正統的なのは、大きな業績をあげて、公募の職で他の人よりも目だって採用されるようになることですが、それだけの自信がなければ、予備校や塾とか、何か最悪の場合に備えてアルバイトなり、少なくともコネを作っておくことは必須です。

 不幸にして(?)そんな人を配偶者に持ってしまったら、配偶者まかせにせず、ふたりで稼ぎ、一方が失職した場合、もうひとりが肩代わりする覚悟が必要です。それこそ男が稼いで、女が家を守るなどという考えは通用しません。男が失職したら、男に家事育児を任せて、女のほうが外に出てはたらくくらいは、常識として考えておくほうがいいでしょう。ボク自身、子供がなかったこともありますが、5年間、彼女の給料だけで生活しました。

 というわけで、少々厳しい答になりました。ボクも30代後半で一応の職を得るまでは、本当に眠れない夜もあり、結婚するのもずいぶんためらいました。でも、好きでやりたいことをしていこうというのならば、それなりのリスクはしかたないとも言えますね。そんなときこそ、二人の愛情のスクラムの力が試される時じゃあないでしょうか。ひとりで悩まないで、ふたりで一緒に考えていくべき問題でしょう。

2003.2.7

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