ボクもパラサイト・シングルだった
パラサイト・シングルって言葉、知ってる? ボクは最近はじめて聞いた。山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999)というのが売れているんだそうだ。むかしはベストセラーなんて、わざと買わなかったんだけど、最近はホイホイ、なんでも興味シンシン。というわけで、買って読んでみた。
パラサイトなんてカッコよさそうだけど、要するに寄生虫のこと。シングルだけど、ひとり暮しでなくて、親のところに寄生している若い人たちを言うんだそうだ。以前は居候なんて言ったけれど、言い方次第でイメージ違うね。もっとも英語のニュアンスだと、とても悪いらしい。社会のダニみたいな感じかな。パラサイト・シングルというのは、著者の山田さんの造語らしい。
1995年の調査で、
男性20―24歳 未婚率92.6(パーセント) 親同居率59.3
25―29歳 未婚率66.9 親同居39.9
30―34歳 未婚率37.3 親同居21.7
女性20―24歳 未婚率84.6 親同居65.1
25―29歳 未婚率48.0 親同居35.1
30―34歳 未婚率19.7 親同居13.1 (同書、59ページ)
この世代で、男女各500万人、計1千万人が親にパラサイトしているパラサイト・シングルだという。たしかに多い。
じつはボク自身、長いこと親もとにパラサイトしていたから、あまりエラそうなことは言えない。30代になって、一応アパートを借りたけれど、週末は親もとに帰って、現住所も結婚までそのままだったから、結局親にパラサイトして、それから結婚後は、妻にパラサイトしていた(ボクの収入がなかったから)。いまの若い人はパラサイトしていても、ぜんぜん罪悪感はないらしいけれど、ボクなんかはみじめで、親と意見の合わないところもあったから、早く独立したかったけれど、生活が不安定で、なかなかできなかった。
横道にずれるけれど、最近のいろいろな社会の病理現象を反省して見ると、ボクはほとんど何にでも該当してしまって困ってしまう。だから、どうも「この頃の若いものは……」なんて言えなくて、恥ずかしい。時代の先駆者だと思って自分を慰めているけれど。もっとも、ボクたち「団塊の世代」は戦後民主主義の恩恵をいっぱいに受けて育ったから、一般に軟弱で根性なしで、その子供世代の「団塊ジュニア」たちがいろいろ問題を起しているのだから、基本的に言えば、ボクたちの世代が悪いんだろう。
それはともかく、以前はパラサイトしていると、一般に肩身が狭かった。浅見光彦探偵がパラサイト・シングルだというのは、なるほどと思ったけれど、彼も「居候」として、居心地が悪そうなところがあるから、やっぱりちょっと古い世代なんだろう。いまの20代、30代は、パラサイトが当然みたいだ。親のほうも、子供が独立するのは寂しいし、不安だから、パラサイとしてくれるほうがうれしいという、共犯関係が成り立つ。
家庭というエッセーで書いたけれど、昔は家父長的なイエというのが厳然とあったが、戦後の改革で壊れた。60年代ころからマイホーム主義が一般化して、次第に夫婦と子供を中心とする核家族中心に移行した。ところが、その際、自立してそれぞれ責任を持つ個人が共同生活を営むのではなく、むしろ自立しないまま相互にべったりくっつくという形態になってしまった。家庭とは秩序を持った小社会であるよりは、規律を持たない「甘え」の場になった。そして、夫婦関係だけでなく、というよりも、それ以上に親子関係がべったりになってしまった。
ボクが大学に入った頃(69年)、ちょうど東大紛争の最中だった。そのとき、東大の学園祭(五月祭ではなくて、駒場祭だったと思う)のポスターを描いたのがその後「桃尻娘」シリーズで売った橋本治で、歌舞伎調の絵に「止めてくれるな、おっかさん、背中の銀杏が泣いている」(銀杏は東大のシンボルマーク)というセリフが受けて流行した。教育ママから独立したい、それでもどうも難しそうだ、みたいな微妙なところがよく出ている。ちょうどそういう過渡的な時代だったわけだ。その後は一直線に親子が相互に共依存するような方向に突っ走った。大学生でも何かというと親が出てくるのが当たり前になってしまった。
山田さんによると、パラサイトの状態が快適であるため、結婚するよりこのほうが楽だ、というわけで、ますます晩婚化、非婚化が進むということになるらしい。社会が豊かになって、パラサイト可能になったための、思わぬ副産物というわけだ。
山田さんはこのようなパラサイト現象に危機感を持ち、若者の自立を促す何らかの手段を考えるべきだという。例えば、パラサイトしている場合には税金を高くするというようなことで。でも、それはちょっと無理だろう。子供の自立以前に、親が自立できていない。だから、「空の巣症候群」(子供が自立した後、親が目標を失って精神的に打撃を受ける現象)も起るわけだ。
ともかく、ボクはボク自身がパラサイトしていたし、いまは子供もいないから、エラそうなことは言えない。ただ、話がちょっとずれるようだけれど、夫婦間で、妻が夫にパラサイトする専業主婦という形態はやっぱりよくない。もちろん、いまの社会は結婚した女性が働きたくても難しい、とくに育児期間中はほとんど絶望的だ、という事情があって、やむを得ずパラサイト、という面もあるんだろうけれど、それだけでなく、若い人には専業主婦願望が再び強くなっているらしい。これは絶対によくない。
子供のパラサイトを税金で云々する以前に、女性のパラサイトを法律的に擁護している現行の扶養家族制度こそ改めるべきだ。そうしてこそ、男女雇用機会均等法を引きついて、本当に女性が自立できる時代になると思う。そうなれば、親子関係のパラサイトも解消してゆくだろう。この間の音羽の幼稚園児殺害事件にしても、母親が子供べったりでなく、もう少し自立できていたら防げたのではないだろうか。そんなふうに考えるのは、少し甘すぎるだろうか。
専業主婦の反論を期待します。
2000.3.24