7 土佐日記   用言確認テスト

 六日。澪標のもとより出でて、難波に着きて、川尻に入る。みな人々、媼・翁、額に手を当てて喜ぶこと、二つなし。かの船酔ひの淡路の島の大御、「都近くなりぬ」と言ふを喜びて、船底より頭をもたげて、かくぞ言へる。
  いつしかといぶせかりつる難波潟葦漕ぎ退けて御船来にけり
いと思ひのほかなる人の言へれば、人々あやしがる。これが中に、心地悩む船君、いたく賞でて、「船酔ひし給べりし御顔には、似ずもあるかな」と言ひける。

*六日…二月六日。 *澪標…航路標識。 *難波…大阪市南区あたりの古い呼び名。 *川尻…淀川の河口。 *二つなし…この上ない。 *大御…年長の女性に対する敬称。御老女の意。 *賞で…ほめて。感心して。

現代語訳

二月六日、澪標(みおつくし)のところから船出して、難波(なにわ)に着いて、(淀川の)河口に入る。船の人々はみな、ばあさんもじいさんも、額のところで手を合わせ(合掌して)喜ぶこと、この上ない。あの船酔いの淡路島の御老女が、「都が近くなった。」という声に喜んで、船底から頭を持ち上げて、このように言った。

  早く着きたいと気もふさいで待ち遠しく思っていた難波潟に、葦をこぎ分けていよいよ御船はやって来たことだよ。

まったく思いがけない人が歌を詠んで、船の人々は不思議に思う。その人々の中に、病気である船君が、たいそう感心して、「船酔いなさっていたお顔には似合わない歌だなあ。」と言ったのだった。