カフェを作る人々 東京カフェマニア

  prata (プラッタ) 赤岩智美さん

中目黒prata
もとinstant cafe!のオーナー、通称「女将さん」。
個性的なあの名店は、東京カフェの原型のひとつ。
カフェだからこそ可能だった、自由な楽しみに
溢れていました。

その女将さんが新しく開いたprataは、
肩肘はらずに、でもまったく手を抜かずに、
「自分が食べたい家庭料理」を考えています。
しろうと(失礼)が実現しようとしていることが、
実はいちばん「頑固な職人」に近いなんて!
さりげない志の高さに、熱い共感をおぼえます。




prataの看板
(上)
中目黒駅前から続く
長い長い商店街「目黒銀座」。
その大奥に
prataの小さな看板が
出ています。



prata店内
(上)
なぜかお客さまどうし
仲良くなってしまうことが
多いというのは
こんなソファのせいでしょうか。



prataのグラス

prataのごはん
(上)
沖縄好きの人にはおなじみ
ソーミンチャンプルー。
素朴なおいしさに
かつおぶしも踊る!

旬の素材が食べられるよう
メニューは毎日替わります。



prata店内
(上)
赤と青の「Brillo」のボックスは
映画 『I SHOT ANDY WARHOL』で
使われたもの。


prataのライト
幻の名店instant cafe!
間に合った人は
映画「ブエノスアイレス」を
思わせる滝の絵の回転ランプ(上)と
王様椅子(下)に見覚えが
あるでしょう!


prataのソファ
この椅子がお気に入りだった人、
たくさんいましたね。



prataのコーヒー
(上)
おいしいコーヒーは
中川ワニさんの豆。







prata(プラッタ)

東京都目黒区
上目黒2-43-10

tel 03-3711-0051





▼prataのホームページ

Q. instant cafe!をクローズしたあと、prataをオープンすることにした経緯を教えてください。
instant cafe!の頃から料理を出してほしいという要望も、出したいという気持ちもあったんですが、ビルの5階で厨房を作るのが難しかったんです。

本業はもともとライターなのですが、カフェを離れてしまうと、一日中家の中で座りっぱなし。誰にも会っていないかったりして、ほとんど引きこもり状態。で、お腹すいたなーと気づくと夜遅い時間になってる。夕食はお米とお味噌汁を食べたいんですけど、夜そういうメニューを食べようと思うと、やたら高い和食屋さんか、居酒屋さんになるでしょう。
でも友達誘って居酒屋に行くほど時間ないし、女一人で居酒屋に行くほど男前じゃないし。それで結局、カフェのお世話になるんですが、カフェだと洋食が多かったり、一人だと品数が食べられないので、つい栄養が偏りがちになる。それに野菜も食べたいし。

それで、自分が食べたいご飯、まかない定食みたいなメニューのお店があったらいいなと思い続けて、だったら自分でやっちゃえ!と。同じような、年齢層もちょっと高めで、忙しくて料理する時間もないけど、健康もおいしい食事も両立させたい、という人はほかにもいるはず!と思って。

だから代表で「料理上手のお母さん」を雇っている感覚ですね。家庭料理なので、焼魚の日もあれば、煮物の日もあれば、ビーフストロガノフの日も、ロールキャベツの日もある。夜中に行けばお茶漬けもあったり…そこに行けば毎日でも飽きなくて、いまの気分にあったものが食べられる店を、作りたいと思って始めました。

Q. 店名の由来を教えてください
お店のある場所が、目黒銀座商店街という通りなので、そこから一文字いただいた「銀」のポルトガル語が「prata(=プラッタ)」です。

じつはヘアメイクの友人と一緒に1軒をシェアしてるんですが、2階の美容室の名前が「olho(=オーリョ)」で、ポルトガル語で「目」という意味なんです。
つまり1階と2階合わせて、通称の「目銀」。迷いに迷ったわりには、勢いだけでつけちゃいました。

Q. prataがめざしているものは何ですか?
茶の心」というと構えすぎかもしれませんが、カジュアルなお茶会と、ホームパーティの中間みたいなもの。季節や行事にあった料理やしつらえがあって、一期一会を楽しめる。なんとなーく習慣的に、特に用事がなくても足が向いて、そこに行けばほっとできるような場所になりたいと思います。

Q. あの物件を選んだポイントはどこですか? 決め手となったことは?
探しはじめてから1年以上経ったころ、ひょっこり出てきた物件だったので、不動産屋さんからの電話だけで、図面も場所も見ずに勢いで決めちゃいました。そのときすごい風邪ひいてて、熱もあってモーローとしてたんですけど、なんだか「縁」みたいな強力なものを感じてしまったのです。まあ、熱のせいかもしれませんね。

ガラス張りだとか、商店街に面しているとか、知らないで決めちゃったんですよ。instant cafe!はエレベーター無しの5階で、それこそ「隠れ家」っぽい場所だったのに、いきなりメジャーな雰囲気で、かなり照れました。

でも、後で気づいたんですけど、お店の中から外を見ると、いろんな人や犬が通って、なんだか映画を観ているみたいなんですよ。毎日通る人とか、同じ時間に通る人とか。なんだか、縁側にいるみたいな感じで、一日中外を見てても飽きないのは、魅力かもしれません。

Q. prataのインテリアのテーマは何ですか?
自分のうちのホームパーティに友達を呼ぶような、くつろげる雰囲気にしたいと思っています。広さのわりには椅子もテーブルも大きいのをドカンと置いてるので、通路はギュウギュウなんですけど、座ればとろーんとのんびりできる。ゆったりとくつろぎつつ、そこにいるほかのお客さんとも時間を共有できるような、でもひとりになりたいときはそれもできるような、微妙な距離感を考えています。

でも寝ちゃう人も続出で、ちょっと困るような、うれしいような。いや、うれしいとか言っちゃいけないんですけど。そこまでくつろいでくれるとは!って。

Q. お店でいただいた「キャラメルティーのパフェ」がとても美味しかったのですが、あの味の秘訣は?
あれは、じつは紅茶を卸してもらっている神戸の「ムレスナティーハウス」の社長さんに教えていただいた食べ方を、prata流にアレンジしたものなんです。秘訣はおいしい茶葉を惜しげなく使うこと、くらいでしょうか。

それから器は、自分が子供のころ憧れだった、パフェが入っていたような器(昭和初期のガラス)を使っているので、もしかしたらサマンサさんもそれを懐かしく感じてくださったのかも? まあ、高学年部だけにウケる器かもしれませんが(笑)。

Q. prataをやっていて一番嬉しいこと、一番大変なことは何ですか?
一度来てくださったお客さまが、2度目に来てくださったとき、それも連続して、とか、仲のいい友達を連れてきてくれたりすると、気に入ってくれたんだなぁ〜とうれしくなります。
あと、うちで出会ったお客さん同士が、一緒に来てくれたとき。“出会い系”だあ!とか。人とのつながりが広がると、この場所があってよかったーと思います。

大変なのは、レギュラーメニューが決まっていないので、ほぼ毎日メニューを考えなきゃならないことでしょうか。まあ私ではなくて、キッチンスタッフが苦労しているんですけど(笑)。
しかもメニューが決まっていないと、仕入れ先も一定じゃないし、仕入れる量が多くないと業者さんも来てくれなかったりするので、買い物も大変といえば大変。
どうして和食や野菜の日替わりメニューのお店が少ないのか、身にしみてわかりました。おかげで用がなくても八百屋さんやスーパーで、野菜や魚のチェックを欠かさなくなりました。まあ、それは楽しみでもあるんですけど。

Q. お店で起きた珍事件のエピソードを教えてください。
(サマンサ註:女将さんは「いろいろありすぎて、とても語りきれないというか、たくさんあると慣れてしまって、珍事件でもなんでもなくなってしまうというか…あんまり言うとスタッフに怒られそうだし…」と躊躇していらしたのですが、面白いお話を私がひとりじめするのはもったいないので、ちょっと長いのですが載せてしまいます。お楽しみあれ!)

★「UFO紳士あらわる!?事件」

店に入るなり「君はUFOを見たことがあるかい?」と大真面目に話しかけてこられた紳士がいて、「いいえ、ありません」とキッパリ答えたのに、その後延々と、妖精とか宇宙人とかの不思議話をされて困りました。

しかも翌週から休暇を取って旅行に行くスタッフを呼び止めて「君は近々外国に行くだろう」とか、私のことを店主かと聞いた後なのに「君は本当は文章を書く人だろう」とか、いろいろ言い当てちゃうものだから、妙に怖くて・・・。

私が話につかまると、スタッフが携帯から電話を鳴らしてくれて「あ、鳴ってるので失礼…」なんて逃げたりしてたんですが、手が空くとまた呼ばれるので、そのうちほかのお客さまもあせってか、ドリンク頼まれたばかりなのに、不自然に次のを頼んでくださったり、「あ・あの・・この花梨酒というのは?」と質問して呼んでくださったり、その紳士から注意をそらすための連係プレーになってきて。

最後にそのかたが出て行かれたら、一同で“ふぅ〜”と大きなため息をつきました。なにか、店中でひとつのスポーツをした後のような、爽快感というか、連帯感が生まれましたね。…って、こんな話して、大丈夫なんでしょうか??

★「吉野葛頭から丸かぶり事件」

ジーマミ豆腐(ピーナツで作る沖縄風豆腐)を作るのに、吉野本葛を取り寄せたら、間違えて7キロも届いちゃったんです。

それで、葛を使った料理をいつも課題にしてたんですが、7キロもあるとなかなか減らない。そこで、夜中に仕込みに来た板さん(魚料理は、板さんが自分の仕事が終わった後で仕込みに来てくれるんです)が、かぶら蒸しにしようと葛の入った棚を開けようとしたら開かない。
えい!って開けたら、葛の袋が引っかかって、ドバーっと、天井から滝のように白い粉が降ってきて。例のドリフのギャグみたいな状態で、厨房から白い煙がモワーッと広がって。
あんまりショックだと、本当に5秒くらい、みんな止まっちゃうんですね。私の頭の中では「ホワホワホ〜」っていう例のお間抜けなラッパの音が鳴ってました。

その後動くと、葛が溶けて床がぬるぬるになっちゃうので、急いで掃除機で吸ったんですが(このときの頭に響いてる音楽は、例の「剣の舞」に似た、アレですよもちろん)、夜中なのになんだか大騒ぎで、お客さんからも「ダミだこりゃ〜」という声が自然にもれてましたね。もう泣き笑い。こんな減り方イヤ〜!

でも、料理じゃなかなか減らないし〜、そうだ、葛湯が一番たくさん使うだろうって思いついて。贅沢なんですけど、黒糖とショウガで葛湯を作ってみたんです。葛湯って身体が温まるし、風邪に効くしで今や人気メニューなんですけど、じつはこういういきさつで始まったんですよ。(これも言うとスタッフに怒られそうだなあ)

Q. prataのBGMは? 登場回数の多いアーティストも教えてください。
ブラジルの音楽が比較的多いですが、基本的に、会話や食事の妨げにならない、気持ちよく漂っているような音なら、ジャンルに関わらずなんでもかけます。クラシックもジャズもフレンチも、映画音楽とかも。
あとは自分の青春時代で止まってるというか、80年代のニューウェーブとかもわりと多いです。とかいいつつ、ィ横山剣さんの登場回数が一番多かったりして。(ぜんぜん漂ってないですね)
(サマンサ註:私もィヨコハマにクレイジーケンバンドのライブを聞きに行きたいです〜)

Q. お好きな映画、アーティストを教えてください。
パトリス・ルコント「髪結いの亭主」、ジャック・タチの全部。
カレル・ゼマン「盗まれた飛行船」、アナ・トレント主演の「ミツバチのささやき」と「カラスの飼育」…うあああ、決められないです!

Q. 想い出のカフェや喫茶店があったら教えてください。
むかし、吉祥寺にあった「ペンギンカフェ」と、「マリーズチェア」。西荻窪にあった、名前も忘れてしまったけど、古い郵便局を改装してやってた喫茶店。

どれも学生の頃、「喫茶店って大人の空間だなあ」と思いながら、そこでくつろいでいる大人に憧れつつ、見学するような気持ちで、背伸びして通っていました。そこに行くときは、自分なりにちょっと奮発したりして。

誰も褒めてくれるわけじゃないんですけど、好きなカフェのメニューは全種類制覇するのが 「行」であるかのように。長時間いて、いっぱい頼むのが大人だとでも思ってたようなフシがありますね。今思えばお酒も飲まないし、間がもたないから、たくさん頼まざるをえなかっただけなんですけど。それで結果的に「奮発」になってたと。

Q. あなたはどんな子供でしたか? その頃の「将来の夢」は?
秘密基地を作って遊ぶのが好きでした。約束しなくても、そこに行けば仲のいい友達と会える場所。一人で行っても何か残してくるので、仲間の痕跡を感じたりして。台風の日なんかに基地で偶然落ち合った日は感動的なんですよ。

そこに自分の好きなものをいろいろ持ち込んで、穴を掘って埋めたり(宝物が台無し)。犬も猫も飼うのを許してもらえなかったので、そこでカエルやイモリを飼ったり。電灯とか手作りのラジオとか(この場合、自分で作ることが大事!もちろん途中で壊れますが)も持ち込んで、遭難したときを想定したり。家出しても立てこもれるくらい充実させてました。(実際はすぐ見つかっちゃうんですけど)

でもかっこいい基地ができると、上級生とか男子とかに占拠されちゃったりして、それで力じゃ勝てないので、近くに落とし穴掘って戦ったりして。なんか、穴もよく掘ってました。それで骨とか出てきたりすると、事件を感じちゃったりして!“マンモスの骨かもー!”とか(そんなわけないんですけど)どんどん妄想が膨らんじゃって。それで考古学者とかになりたかったです。あ、そういう話じゃないですか・・・。
でもお店と秘密基地作るのって、なんだか似てるんですよ。

Q. 東京カフェマニアの読者にメッセージをお願いします。
カフェの雰囲気は、作る側の趣旨もありますけど、最終的にはお客さまが作るものだと思っています。たくさんのお店をハシゴするのも楽しいけど、いいと思えるお店を見つけたら、そこに通い詰めると、だんだんと自分の好みに“育って”(または“なじんで”)くれるものですよ。

自分でお店をしなくても、そこで働かなくても、プチパトロンみたいな気持ちで、好きなお店に投資する(=たくさん通う)っていうのも楽しいのではないでしょうか。ご贔屓になれば、わがままも聞いてもらえるようになりますしね。


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