|
■「ぼくらはみんなハゲている」 藤田慎一著
太田出版
■amazon
副題の「マイ・ライフ・アズ・ア・ハゲ」も併せてタイトルが秀逸!どうして出会ったかは忘れてしまったが、知ったとたんにamazonに注文していた。タイトルの威力である。しかし、注文後の数日は、amazonからやたら育毛や増毛の本をススメられて思わず笑ってしまったものだった。
この本に引かれたのは、とはいえ、タイトルだけではなかった。アデランスやアートネーチャーのCMをいやというほど目にして育ちながら、マーケティングを生業とする人間として、これはすごい商売だと思ってかねがね感心していたからだ。それはもはやニーズに応えるビジネスではない、まさにニーズを創出する(しかもかなり強引に)模範例だと。
筆者の藤田さんの本業はTVディレクター。ハゲをテーマとした深夜のドキュメンタリー番組でディレクターに抜擢される。理由はただひとつ、「ハゲだから」。ちょっとは抵抗したものの結局は番組制作を任されて、5つの鉄則を設ける。
1-ハゲの治し方的ハウツーはやらない。
2-ハゲ関連の企業とは一切タイアップしない。
3-ハゲを笑う番組は作らない。
4-被害者面しない。暗くしない。
5-スタッフはハゲにしか頼まない。
で、放映された番組は好評だったらしいが、テレビでは描き切れなかった部分をさらにつっこんで出来上がったのが本書である。
この本を読むまで、この業界が「養毛・育毛」「カツラ」「増毛」「発毛」といったジャンルに分かれることも特に意識していなかったが、なるほど。「植毛」にも自毛の植毛の他に「人工毛植毛」というメソッドがあり(日本はこの分野の技術で世界をリードして来たそうだ)人工の毛を頭皮に埋め込むことが引き起こし得る悲惨な結果については想像に難くない。実際に悲惨な体験をした人もこの本に登場する。
女性はもちろんのことと思うが、男性の髪の悩みの歴史も古く、チョンマゲの時代からカツラは存在した、という史実にはちょっと笑える。しかし、男性の髪の悩みがケタ違いに膨張したのは、なんといっても1970年代以降、アデランス、アートネーチャー(そして後にはリーブ21)の成長に起因するに違いないのだ。ハゲの悩みは古今東西に共通のことには違いないが、現代の日本ほどそれが顕著な国はほかにないのではないか。
それにしてもハゲ(または自称ハゲ)の人々が抱き得る悩みの深さがココまで、とは想像していなかった。もちろん、一方ではそれを克服しているさわやかな男性も世の中にはたくさんいるけれど。男性のコンプレックスはひょっとしたら女のそれよりはるかに深いものかもしれない。女の人生においての方がクリアしていなければならない外見に関するバロメーターが多くてそれだけコンプレックスのネタは多いはずだけど、きっと女は心理的にも経済的にもここまで自分を追い詰めない。あくまで自分を基準に置いた一般的に、の話ですけど。
この本ではまず実際にカツラや植毛などなんらかの手段を講じているハゲ(自称含む)の人々をひとりひとり丁寧にインタビュー。ハゲたらスキンヘッドにすればいいじゃん、と気軽に考えていた私だが、そうも言っていられないいろんな考え方が環境を持った人々がいることを知る。アートネーチャーを相手にたったひとりで訴訟を起こしたあげくに敗訴して、それでもカツラをかぶり続ける人や、カツラのカミングアウトをした人やこれからする人で結成されたクラブも登場する。ハゲでももててナンパ塾を経営する人なんかも出てくるが、おしなべて悩みは悲痛なくらい深刻だ。
第2章では藤田さん自らが大手業者の無料ヘアチェックやコンサルティングを体験。最後にアデランス、アートネーチャーの2大大手をはじめ、その前身となったカツラメーカーや後発でありながら急成長を続けているリーブ21などの企業のルーツが語られる。(その成長は日本の高度成長やテレビの発展とともにあったんですね。)ゆえにこれらの企業とマスメディアがどんなに強い絆で結ばれているかということも。
わたしは男ではないのでことの深刻さがよく分かっていないのかもしれないけれど(とはいえ、最近とみに脱毛の悩みが加速中なので、決して対岸の火事ではない!女のハゲは男のそれよりよっぽど深刻です)、日本ほど「あるがまま」でいてはいけない国は少ないのでは、と思う。実際、わたしがよく知る国であるスペインを皮切りに、欧米のほかの国々ではハゲていることが時にはジョーダンのタネにこそなれ、そこまでマイナス要素になったりはしていない。日本は女性を見る目も断然厳しい。あるべき暗黙の理想像があって、皆がそれに近づこうとする。そして、その努力を怠る人には辛い仕打ちが待っている。そういう厳しい国なんです、日本って。(USもデブには厳しいらしいけど。)
それにしてもこの本は持ち歩いたり、地下鉄の中で読んだりすることがやっぱりちょっとはばかれるのであった。地下鉄の中で読むときは、そのスジの人が近くにいたりしないか、なぜかそっと周囲の人々のヘアチェックをしてから広げる始末。非常にいい本だけど、人に薦めるときは「なぜならば」をちゃんと説明しないと誤解されるかも、と思います。
Feb_2006
|