「セピア色の映画館」 

 集英社文庫  田辺聖子著 457円+税 
   

桑島まさき



 99年、文化出版局から刊行されたものの文庫化。1928年生まれの小説家・田辺聖子さんは現在、74歳。老齢を感じさせない旺盛な創作意欲で<流行作家>を続け、夥しい数の作品を世に送り出している。実は、ひねくれ者の私は<流行作家>の作品は読まない、と勝手な思い込みでここまで来たため、田辺さんの作品はエッセイを1本読んだのみである。
 そんな折、本書の書評を書く機会にめぐり合った訳だが、正直、大変反省している。驚いたのだ。

 美文家なのである。文章、ストーリー性、構成力を要する小説を書くという作業をず〜と続けてこられたのだから当然ではあるが、豊富な語彙力を駆使した見事な表現力でうならせてくれる。
 さて、そんな美文家によるシネマ・エッセイはどうか? 美文家だけでは巷に氾濫するシネマ・エッセイを凌ぐことは不可能だ。独特の視点、読者をウンウンと頷かせる<映画の見方>が必要なのは言うまでもない。
 <映画の見方>については、@スターで観るかAストーリーで観るかB方法論で観るか、の3通りがある。本書は、@のスターで観るシネマ・エッセイだ。

 今年も残り僅かとなった。今年一番の話題を挙げるとしたら、英国サッカー界のスター、デビット・ベッカム選手だろう。顔良し、体良し、プレー良し、の3拍子揃ったスター性のあるベッカム選手だから至極当然ではあるが、彼のおかげで日本のサッカー人口が増えた、といっても過言ではないだろう。
 私事だが、フランスワールド杯が開催された98年以来、アルゼンチン代表のガブリエル・バティストゥータ(通称:バティ)選手の虜となってしまった。それからというもの、彼のプレーするイタリアリーグを観戦するため、急遽WOWOWに加入し、挙句の果てはイタリアまで飛んでしまった。サッカーのルールも知らなかった一人の女が、俄かに一人のスター選手のためにサッカーを知り、サッカー関連の本を読み漁り、数々のサポートをしたのだから、「スター」の影響力はスゴイの一語に尽きる。(現在は落ち着いてますがね…)。

 そんな風に田辺さんは、これまで氏を魅了してきた映画と映画スターへの想いを語る。難解な理論もなければ、厳しい批評もない。美しい日本の言葉の多くを巧みに綴り、平易にして流麗な文章で読ませてくれる。そこから立ち上がってくるのは作家のみずみずしい感性であり、情感豊かな時代の匂いである。
 本当の映画ファンの王道をいく、シネマ・エッセイだ。




戻る