『「映画評論」の時代』

発行・カタログハウス
 編著者・佐藤忠男、岸川真
 定価・4500円+税 

松村清志

 
 
 かつて「映画評論」という雑誌が存在した。1926年から75年まで50年の歴史を持ち、本書の編著者でもあり現在も日本映画学校の校長を
兼任しつつ第1線の評論家として活躍する佐藤忠男を始め、森卓也、岡田英美子(現・おかだえみこ)、石上三登志、今野雄二、品田雄吉ら、
今なお現役で活躍する評論家たちは皆、その投稿家出身であった。
 本書はその「映画評論」の50〜75年までの傑作選である。ぶあつい本だ。本文だけで800ページ余り、資料篇も合わせると900ページ
余りもある。しかも評論、エッセイは2段組み、対談は3段組み活字で読みごたえはたっぷりだ。
 映画雑誌では今も続く「キネマ旬報」が最も古く権威もあるとされているが、「キネマ旬報」は図書館には必ず置かれてあり、
「フイルム・センター」の図書室などでバック・ナンバーを読む事も出来るのだが、「映画評論」は図書館には置かれていないし、
そのバック・ナンバーは神田あたりの映画古書店ではとても高値となっているので、こうした“傑作選”という形で、まとめて読める事は
何ともうれしくありがたい。企画者・編著者には心から感謝したい。4500円という定価もこの充実の内容では安すぎるほどだ。戦後映画史、
評論史、思想史の研究に取って欠かす事の出来ない貴重な1冊となっている。
 「映画評論」は前述した人達の他にも、あまりに早く他界してしまったが今も根強い人気を誇る佐藤重臣、田山力哉などもやはり
その投稿家出身であった事からも判る通り「読者論壇」がプロの批評と並んで大きな売り物となっていた雑誌であり、50〜60年代にかけて
新進気鋭の監督であった大島渚、増村保造、中平康らがいち早く発言している事からも判るような、若い力を結集した、まさに
ヌーヴェル・ヴァーグな映画雑誌であり、プロの評論家、作り手、そして読者が、それぞれの立場から発言出来る交流の場でもあった
ようだ。こんな雑誌が存在出来て、1万部の発行部数を保っていた時代があったという事が、何ともうらやましい。
 本書は佐藤忠男が「論壇」に登場して以降の、ヌーヴェル・ヴァーグな映画雑誌という性格に重点を置いて構成・編さんされている
ようだが、それでいて「映画評論」は決して若さの勢いだけが売りの青臭い同人誌のようなものとは1線を画した、戦前からの大御所的な
評論家も多数登場していたバランス感覚のある雑誌でもあったのであり、今回僕は意外にも(?!)、今ではほとんど読む機会のない、
南部圭之助、今村太平、津村秀夫といった戦前からの批評家の文章を最も興味深く読んだ。
 ともかく50年、戦後だけでも30年の歴史を作った雑誌である。この1冊だけでは、まだまだ読み足りない。編集長も佐藤忠男以降、
品田雄吉、虫明亜呂無(彼の名文ももっと読みたい)、佐藤重臣と引き継がれており、それぞれの編集長の個性を打ち出した“特集記事”
ももっと読んでみたい。
 そこでリクエスト。1945〜60年までと、61〜75年までとに分けて、パート3まで発行して欲しい。
 とまれ、かつて「映画評論」という雑誌が存在し、そして“映画評論”が存在し、力を持ち得た輝かしい時代があったのだ。再びそんな
時代は来るのだろうか。本書の共同編著者である岸川真(きしかわ・しん)は72年生まれ、まだまだ期待出来そうだ。

 P.S)
 資料篇にミスと思われる所があったので指摘しておきたい。

 〔「映画評論」×「キネマ旬報」ベストテン比較 1960年〜73年〕のうち「映画評論」72年度ベストテンの9位、
「クリシーの静かな日々」監督クロード・シャブロルとなっているが、シャブロル監督作の発表は80年代末のはずで、同じ原作による
別監督作ではないか?。
 同じく「映画評論」の73年度ベストテン6位の「マクベス」監督オーソン・ウェルズとなっているが、ウェルズ作品は戦後すぐに公開
されているはずで、「キネマ旬報」6位と同じく監督ロマン・ポランスキーの間違いではないか?。


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