「孤独な場所で」

 発行・早川書房
 著者・ドロシー・B・ヒューズ
 訳・吉野美恵子
 定価・1100円+税 

松村清志  





 ≪ポケミス名画座≫第3弾は、ハンフリー・ボガート主演、グロリア・グレアム共演、ニコラス・レイ監督による50年製作アメリカ映画の
原作小説である。
 映画の方は長らく幻のボギー映画として語り継がれ製作後40余年をへた93年にようやく日本初公開された“知る人ぞ知る”傑作だが、
原作の方は映画とはまるっきりといっていいぐらい違っている。したがって「ハイ・シエラ」のような形では語れない。映画では主人公が
ハリウッドのシナリオ・ライターで、女優で当時ニコラス・レイの妻であったグロリア・グレアムとレイとの、離婚の危機、レイの孤独な
心情を反映した“私映画”というのが通説だが、小説の方は、ずばり“サイコ・サスペンス”である。
 以前ご紹介した「狩人の夜」が53年の小説だから、49年に発表された本作こそ真に先駆的という称号を得る資格があろう。自称小説家の
主人公は、サイコ・キラー、シリアル・キラーでありつつも、ただの狂人と思うにはあまりにも、その孤独な内面が描き込まれている。
3人称の作品なのに、しばし1人称と錯覚してしまうほどなのだ。彼にぴたりと寄りそうかのような繊細な筆致である。やわらかくなめらかで
女性らしい描写力だ。直接的な犯行の描写は一切ないので、時としてこの孤独なシリアル・キラーに共感と同情を抱いてしまうほどだ。
 映画版のようなインサイド・ハリウッドの面白さは味わえないが、やはり映画版のようなノワールな魅惑があり、そして戦勝国アメリカ
にも色濃く浸透していた“戦争後遺症”の物語でもある。映画とは別種の、しかし傑作といっていいであろう。



                            


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