「映画はやくざなり」

 発行・新潮社
著者・笠原和夫
 定価・1500円+税 

丸山哲也






 昨年の暮れに出版された「昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫」と内容のダブる部分が結構あるが、こちらはこちらでまた、面白い。
 特に、「仁義なき戦い」映画化に至るプロセス、完成した作品を試写で観た時の笠原の怒りなど「昭和の劇」よりも深くつっこまれて
いて、よりわかりやすく、しかもユーモラスである。
 最もおかしかったのは、「顔役」映画化の際、深作欣二がオリてしまい、ピンチヒッターとして現れた石井輝男のエピソード。
「えー、石井でございますけれども、よろしゅうございますでしょうか」という奇妙なセリフと共に登場する石井監督の人を喰った
ユニークさが至るところに滲み出ている。驚いたのは、この映画の中で、なぜか三田佳子(高倉健の恋人役として出演)が、あの
「網走番外地」を歌った、ということ。
それがきっかけで石井は「網走番外地」を作り、大ヒットシリーズにしてしまったというのだから、不思議なものである。

 さらに本書の中盤には、「シナリオ骨法十箇条」が収録されている。一読して「なるほど・・・」と唸ってしまった。ドラマという
ものを面白く語るには、まず周到な計算と技術が必要なのだということが、嫌というほどよくわかる。世にシナリオライター志望の人は
数多いると思うが、まずはこれを読んでからでないと「ライターになりたい!」などと口にすべきではあるまい。

 ・・・しかし、本書のウレシいところは、何と言っても「沖縄進撃作戦」のシナリオを収録してくれたことだ。あまりの生々しさ故に
映画化できなかったという幻のシナリオを読めるのだから、こんな有難いことはない。あの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・
アメリカ」が4時間近くかけてやっていたようなことを、本作は2時間に満たない尺の中でやっている。さすがである。
 あとは「昭和の天皇」さえ読むことができれば、もう死んでもいい(ウソです)。

 本書を読んでいると、今の日本映画って何なんだろう、と、思う。「自分達の映画は労働者に観てもらわなくていい。彼らに向けて
作っていない」と言い放つプロデューサー、ダイナミックなキャラクターを作り出せず、コセコセとしたママゴト映画しか撮れない
映画人たち、現実から遊離し、意味のないドンパチを繰り返すだけのやくざ映画。「骨」というものを日本映画はなくしてしまっている
のでは、という気がしてならない。
 ごく一部の例を除き、今は「アブナい企画」というのがない。ホントにこんなもん作るの、と言いたくなるような、危険な香りのする
映画が日本には、ない。「仁義なき戦い」を書いていた頃の笠原のようなシナリオライターの登場は、もう、この日本においてはない
のであろうか。望むべくもない、夢みたいなものなのだろうか。

                            


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