「コーネル・ウールリッチ傑作短篇集5 耳飾り」

 発行・白亜書房
 著者・コーネル・ウールリッチ
 訳者・門野集(かどの・しゅう)
 定価・1800円+税

 松村清志



 
 

 ウールリッチ短篇集の5冊めは43〜65年までに発表された、本邦初訳2篇を含む8篇を収録。これで新訳による傑作選は無事完結で、
後はウールリッチ研究の第1人者、稲葉明雄の名訳を再録・再編集する別巻の配本を残すのみとなった。
 ウールリッチは40年代半ばから急速に筆力が衰え始めたといわれており、以降、ミステリとして破綻があるぶん彼の暗い情念がむき出しに
なった異様な迫力のある作品がいくつか書かれるようになる。本巻に収録された初訳の2篇、「選ばれた数字」「復讐者」もそうした作品と
いってよく、特に「選ばれた数字」はハワード・ホークスやゴダールの映画でも使用されたホテルのルーム・ナンバー間違いによって起こった
事件を描いているが、ホークスの映画のような喜劇とはならず全く救いのない暗い話となっているし、「復讐者」は法の手で捕える事の出来
ない相手を刑事が罠にはめる話だが、通常のその種の話がもたらすカタルシスよりも異様な執念の方が際立って感じられる作品で、ともに
精神的なバランスを崩していたウールリッチの情念が反映されているようだ。
 本巻では唯一、ハリウッドを舞台にした快作「射撃の名人」を除いて、どの作品も暗くいびつな物語のように感じられる。ジャン・ドラノワ
の映画の原作となった「妄執の影」は暗い魅力が最良の形で結晶した傑作といってよいが、表題作や「女優の夫」などの夫婦愛を描いて甘く
感傷的と評されもするであろう作品でさえ、不自然な暗さがあるし、ウールリッチの分身であるかの作家を主人公とした「パルプマガジン作家」
も、書きようによってはコメディにも仕上げられただろうに、意味深なやりきれなさが残る作品だ。
 そんなわけで本巻は、ストーリーテリングと甘さと感傷の的確な配分が魅力でもあるウールリッチとしては、やや異色の巻となっているので
万人向けとはいいがたいが彼の“核”ともいうべき暗い情念はたっぷりなので、彼の本質を熟知したディープなファンにはこたえられない、
通好みの巻だといえる。


                            


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