「黒沢清の恐怖の映画史」
発行・青土社
著者・黒沢清+篠崎誠
定価・2400円+税
松村清志
最新作「ドッペルゲンガー」(03)がまもなく公開の黒沢清が語る恐怖の映画史である。語りおろしというより正確には篠崎誠との対談を採録
・編集したものだが、これがきわめて面白い。よく観ているしとてもくわしくマニアックな知識もかなりなものである。
「白い肌に狂う鞭」(63)のカメラマンが後に少女ヌードで有名になるデビット・ハミルトンだったなんて知らなかったし、「悪魔の赤ちゃん」
(73)の音楽がバーナード・ハーマンというのはらしいなとは思うものの、ハマーのテレンス・フィッシャー作品の音楽家の名前までは普通、
記憶してはいないし、その変さに気づくほど耳をすましたりはしないだろう。
マニアックな知識だけではなく、例えば「幻想」「恐怖」「怪奇」を分ける基準、根拠を判りやすく語ってみせるあたり(本文148〜149ページ)
は、なるほどとうならされて、いうまでもない事だが、観ている本数の多さや知識の量だけではなく、「観る力」においても、信じるに値すると
思える。大方には「悪魔のいけにえ」(74)1本で終ってしまったという程度の評価しかされていないトビー・フーパーを語った章など、凡百の
評論家をしのぐ見事な論となっているといえる。
そして、黒沢清といえばリチャード・フライシャーだが、黒沢清と対面したトビー・フーパーがやはりフライシャーを高評価していたとか、
カメラマンのリチャード・H・クラインつながりで「絞殺魔」(68)からブライアン・デ・パルマの「フューリー」(78)へと言及していくあたり
など、70年代にTV放映された数多くの映画と劇場公開の新作アメリカ映画で映画に目覚めた世代には、ゾクゾクする面白さだ。
三分割画面の先駆性などにおいてもリチャード・フライシャーはもっと認知されてしかるべきだろうし、ゴダールによる「フューリー」への
高評価や、蓮實重彦がデ・パルマを擁護したという意外な事実まで公表されて、70年代以降のアメリカ映画の「読み直し」本として、マニアック
に閉ざされない開かれた書物となっている。
ガイド・ブックとして再読・三読に値するばかりでなく、まもなく公開の三分割画面使用映画「ドッペルゲンガー」「ファム・ファタール」
(03)をより興味深く見る為の予習の本として、今すぐ買って読め、といいたい。