「ジャック・タチ映画の研究ノート」
発行・愛育社
著者・ミッシェル・シオン
訳者・武者小路実昭、武者小路真理恵
定価・1238円+税
松村清志
ジャック・タチの本国フランスで1987年に執筆された研究ノートである。著者のミッシェル・シオンは47年生まれ、現代音楽
(ミュージック・コンクレート)の作曲家として出発し、その後、映画批評家として活躍。とくに音と映画に関する研究で、
この分野の第1人者。邦訳に「映画の音楽」(刊・みすず書房)などがある。
“音響”の作家でもあるジャック・タチを論じるのに最適の執筆者による本といえよう。具体的なシーンを引用しながらタチ
映画を“音響”に重きを置きながら語っている。第11章「AR」などはアルファベットの言葉あそびのようにも思われるが、
アルファベットは“視覚言語”であると同時に“聴覚言語”でもあるのだから、断じて単なる言葉あそびに終ってはいない。
チャップリンやキートンはそれぞれの国によって呼び名が違うが、ユロは世界中どこでもユロである。ユロはユーロに通じると
僕は思う。ジャック・タチの映画の魅力は、きわめて言葉にするのが難しい、具体的な映像と音響で成立したワールドだが、
それゆえにこそ、万国共通にユロと呼ぶしかない、ある普遍性を持ち得ているのではないか。
本書はそんなジャック・タチの“普遍性”を、具体的な映像と音響の“特殊性”から解き明かそうとした、研究ノートといって
いいであろう。タチ映画を、くり返し味わう為の参考書として活用したい1冊である。