「らせん階段」
発行・早川書房
著者・エセル・リナ・ホワイト
訳者・山本俊子
定価・1200円+税
松村清志
≪ポケミス名画座≫第5弾は最初のラインナップには入っていなかったロバート・シオドマク監督、ドロシー・マクガイア主演の46年
製作アメリカ映画の原作の急遽発行である。作者は「バルカン超特急」の原作も先頃初訳されたばかりのエセル・リナ・ホワイト。
スリラー映画史に残る2本の傑作の原作を書いているとは大したオバさんである。
まっ、やはり「バルカン超特急」がそうであったように、本作も映画ほどの緻密な完成度はない。それでも、ほとんど原案程度と
いってもいいくらいであった「バルカン〜」と比べて、こちらは映画に多くをもたらしている。展開はのんびりとしているが、その分
人物たちのキャラクターや行状は詳細に書き込まれており、陰うつなムードの映画にはなかったユーモアすら漂っている。ゴシックな館
とかよわいヒロインというティピカルなゴシック・ロマンのシチュエーションや登場人物はほぼ同じだが、何とここでのヒロインは
しゃべれるのである!!。
口のきけないヒロインが障害のある女性ばかりを手にかける連続殺人鬼に狙われるという特異な設定は映画のオリジナルであったわけだ。
そんなわけでマクガイア版やジャクリーン・ビセット主演によるリメイク版(75年、ピーター・コリンソン監督)のような美人で無口な
ヒロインの魅力や、選民的な犯行動機といった点でははぐらかされるが、そのかわり19歳の少女とひと癖もふた癖もある館の猛女たち
との丁々発止の会話のやり取り、女同士の心理的駆け引きがかなり面白い。男にとって女性作家の小説を読む醍醐味はこうした女性なら
ではの心の動きが色々と学べる点にある。
ヒロインが小柄である事、“おちびさん”と呼ばれたり、「小さい女に魅力を感じるんでしょう」といわせたりしているあたりは、
作者のホワイト女史の願望が込められているのではないかと思える。おそらく本書執筆当時すでに50代後半であった女史自身は作中の
大柄で男と間違われたりもするバーカー看護婦のような、曲折した人生を歩んだ女性だったのではあるまいか。