「シー・ユー・ネクスト・サタディ」

 発行・ぴあ株式会社
 著者・柳下毅一郎
 定価・1600円+税
 
松村清志


  
 
 

 首都圏版カルチャー情報誌「Weekly ぴあ」誌上に、1998年4月から2003年8月まで丸5年5ヵ月にわたって連載された特殊翻訳家/映画
評論家の柳下毅一郎(やなしたきいちろう)の映画コラム「激殺!映画ザンマイ」を1冊にまとめた本である。
 「ぴあ」誌に上映情報が掲載されている「その週、映画館で見られる映画の中から意地でも選ぶ」をモットーに、大作ハリウッド映画
からヨーロッパ&アジアの知られざる名作までを、ユーモアとペーソスを醸し出す絶妙の文章スタイルで語っている。
 書名は「シー・ユー・ネクスト・ウェンズディ」という水曜日が封切り日となるアメリカ映画興業のキャッチ・フレーズからきている。
この言葉はジョン・ランディスが自作のどこかに必ずまぎれこませる言葉として有名になったものだが、「あとがき」によると、実は嘘
なのだそうだ。嘘だと判ってもどうにも捨てがたいものがあって土曜日封切りの日本に合わせてこの書名としたとの事だが、こうした
事実よりも嘘を取る、伝説を信じるといった態度が著者の基本姿勢となっている。
 ビデオやDVDで手軽に見られるようになるまで映画は映画館で見るものだった。ここでの文章はすべてそうして見た作品を記憶に
基づいて書いている。当然、記憶違い、まちがいもあるが、事実と記憶が異なっているなら、面白いものの方を取る。記憶の中で生きて
いる映画をより豊かなものとするために。こうした作者の基本姿勢にはかつて映画館に通いつめた経験のある者ならば誰でも共感出来る
はずだ。映画は記憶するものであり、ビデオやDVDは確認するものだ。ビデオでも映画を見る事は出来るが体験は映画館でしか出来ない。

 したがって、本書を読んだ者がまずすべき事は「映画館に行きたい!」という気持ちをかき立てる事だ。むろんDVD&ビデオ情報も
完全網羅されてはいるが、本書はそうしたDVD&ビデオのガイド・ブックとして活用すべきではない。1回限りの出来事としての「映画体験」
へのアジテーションの書物として受け止めるべきだ。
 シネフィルと映画研究者の時代となり、「映画体験」は前世紀の娯楽となりつつ今、それでも「映画体験」にこだわり続ける映画マニア、
柳下毅一郎による軟派めかしつつも実は硬派な本なのである。


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