「わが映画批評の50年」

 発行・平凡社
 著者・佐藤忠男
  定価・3800円+税
 
松村清志

  
  
 
 
 佐藤忠男が1950年代から2000年代までのほぼ50年の批評家生活を振り返りつつ、各年代の代表的な評論を自選して収録した、“ベスト
・オブ・佐藤忠男”とでもいうべき1冊である。
 批評家デビューまでの青春時代は「映画館が学校だった」(日本経済新聞社、1980年)でくわしく述べられていたが、それ以降の佐藤
忠男が、それぞれの時代にどう向き合い映画に何を求めたかという事を、きわめて明確にたどる事が出来る。すでに100冊に余る著作を
持ち国際的にも日本の代表的な映画批評家として認知されている、労働者出身の独学の人である傑出した批評家の、映画や時代や世界に
対峙して世界を丸ごと愛そうとする、その肯定的な映画観や世界観とその成育の過程が、本書に凝縮されているといっていい。いわば
佐藤忠男の集大成でもあり入門書でもある、価値のある本である。
 「あとがき」で、どうしようもなく敗戦の子であったと述べているように、世界を知らない無知な少年が世界を知るためにむさぼる
ように外国映画を見て、祖国の再建を願いながら日本映画を見て、やがて尊敬されるに値する豊かな人間性を持った、人格者となって
いった過程からは、バブル崩壊後の長びく戦後、あるいはイラク派兵に表われているように再び戦前ともいえる時代である今、色々と
学ぶべき所が多い。
 やはり「映画館は学校」であり佐藤忠男は先生なのだ。そうした意味で同時代的に生きてきた年長者はもちろんだが、若き映画ファン
にこそ必読をオススメしたい「人生の書」ともなり得る1冊である。


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