「サムライ ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生」
発行・晶文社
著者・ルイ・ノゲイラ
訳者・井上真希
定価・2800円+税
松村清志
ヌーヴェル・ヴァークの先駆者にしてフィルム・ノワールの名匠ジャン=ピエール・メルヴィルへの1970年に行なわれたインタビュー
を元に、まとめられた1冊である。「ヒッチコック=トリュフォー 映画術」のような本をという意図で製作され、「ヒッチコック=
トリュフォー」が受賞したのと同じ映画関係の著作に贈られる賞を、73年に受賞している。
良い本である。インタビューで語られているのは「仁義」(70)までなので、日本版の巻末には矢作俊彦と押井守によるメルヴィルの
遺作「リスボン特急」(72)をめぐる対談が付け加えられている。むろん詳細なフィルモグラフィーもそえられてあり、いたれりつくせり
の本である。
2003年はメルヴィルの没後30周年でグッド・タイミングの訳出である。70年代に青春を送った世代に取っては特に感涙ものであろう。
アラン・ドロンが大人気でカッコイイ大人の男の代名詞でもあった時代を体験している世代なら男女問わず必読ではあるのだが、あえて
本書は男の為の本だといってみたい誘惑にかられる。
映画は「自惚れ鏡」だといわれるが、メルヴィルの映画は究極の男の為の「自惚れ鏡」だという気がする。“男とは常に自分が20歳
だと思い込んでいるものだ。そして、ある日、鏡のなかの自分を見つめ、年月が過ぎ去ったことに気づくのさ…。老いを自覚することは
悲劇的だ。自分がたったひとりだと突然理解することなんだ。老いとは孤独の極みだよ。”そんな孤独な男たちに取って、メルヴィルの
映画はまさに究極の「自惚れ鏡」として機能するのではあるまいか。
孤独と沈黙が支配し、まなざしがものをいうメルヴィルの映画は大人の男の世界である。ストイックでニヒリスティックで
スタティックでダンディなメルヴィルの世界は、女子供にむやみに語って欲しくないとさえ思わせられる。リュック・ベッソンに代表
される昨今のガキっぽいフレンチ・エンターテインメントにはない渋味と深味があるのである。
本書は、そんなメルヴィル世界の魅惑を再確認、あるいは新発見させてくれる感動的な本である。メルヴィルの映画はキンタマがない
奴には判らん、といいかけてふと思い直した。あの男たちを包み込むやわらかな夜の闇は子宮のようなものなのではないか、あの男たち
に降りそそぐ雨は羊水のようなものなのではないかと。すまん、女性にもぜひ読んで欲しい本であった。