「昭和戦時期の日本映画」

発行・鳥影社・ロゴス企画部
  著者・杉林隆
 定価・1800円+税
 
松村清志


  
 
 “表現の自由”は諸刃の剣であり、現在のアメリカ映画の大部分がダメになってしまったのは“表現の自由”を盲信してしまった
からではないかという自論を持つ僕としては、太平洋戦争下に作られた「国策映画・戦意高揚映画」とひとまとめにされた作品の中
にも、その制約を逆手にとった「反・国策映画」「反・時局映画」もあったのではないかという視座による本書の執筆動機には共感
できる。
 だが、僕がここで考察されている5本のうち見ているのはわずかに「人情紙風船」(昭和12年)のみで、「多甚古村」「大日向村」
(共に昭和15年)に関してはそんな作品があった事すら知らなかった。切り口はよいのにいささか読者を選ぶ書物となっているのが
惜しい。本書を読むとすぐさまここに取り上げられた未見の作品を見たくてたまらなくなるほどの挑発的な書物ではない。
 やはり学術書であり1部の熱心な研究者向きの本だといわざるを得ないだろう。むろん、戦中・戦後と形を変えても存在し続ける
“検閲制度”の桎梏や、表現の多重構造、映像の行間といった事を改めて認識させてくれるという点で、意欲作であり労作だと
いえる。


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