「夢の球場の巡礼者たち」
発行・草思社
著者・ブレッド・H・マンデル
訳者・小西敦子
定価・1700円+税
松村清志
「フィールド・オブ・ドリームス」(89)のロケ地のアイオワ州ダイヤーズヴィルののどかな田舎町にある撮影の為に作られた
球場は、撮影終了後も取り壊されることなく残され、今では年間数万人の人々が訪れる場所となっていた!!。
本書はその、映画の予言が現実となったかの現象とアメリカの新たな「聖地」となりつつある撮影地の魅力を探ったレポートで
ある。
そこを訪れるのは熱心な映画ファンばかりではない。ある中年男性は飛行機事故で失った息子と最後に観た「フィールド・オブ・
ドリームス」の記憶を抱えてその場所を訪れ、父であり息子である自分を認識する。あるいは、そこで「再婚」の結婚式を挙げた
カップルがいる。この場所は作品がそうであったように、セカンド・チャンスをもたらす「魔法」の場所として捉えられているかの
ようなのだ。
そして、本書は「野球」というアメリカの国技といってもいいスポーツの持つ聖性や宗教性について様々に考察させてくれる1冊
でもある。我が国の映画批評の分野でも、作品(=作者)と観客との関係を、ピッチャーとキャッチャー、もしくはピッチャーと
バッターに例えたりするぐらいなのだから、やはり野球は単なるスポーツを越えたものなのかも知れない。秀逸な文化論とも
いえようか。
そうして、映画マニアとして数多くの映画をいたずらに消費する者と、人生を変える1本の映画とシンクロニシティしてしまった
者と、どちらが充実した人生を持てるのかとも思わせられた。
「フィールド・オブ・ドリームス」は我が国でも大ヒットして、その地を訪れるだけではなく、わざわざそれを真似て日本でも
球場を作ってしまった人たちまでいたということを僕は本書で初めて知った。
たかが映画、されど映画である。本書は暗闇でヴァーチャルな夢ばかり見続けている映画マニアには、夢を現実に変えていく勇気
と力を持てという挑発の書とも読めるのだ。