「タルホ空中飛行器」

発行・白亜書房
著者・寺村摩耶子
定価・1800円+税
 
松村清志


 


 著者の寺村摩耶子(てらむら まやこ)は1965年生まれ、映画会社退社後ライターとして、絵本やアートの分野で執筆活動を始め、
2003年12月17日の「ライト兄弟による初飛行100年」を前に書き下ろしで本書を発行、というわけで著者がかって映画会社に勤務して
いたということ以外、さほど映画とは関係のない本なのだが、例えば、ケン・アナキン監督「素晴らしきヒコーキ野郎たち」(67)
とかジョージ・ロイ・ヒル監督「華麗なるヒコーキ野郎」(74)といった、創生期の飛行機のロマンを描いた映画を享楽出来る者
なら、1読に値する本である。
 稲垣足穂(いながき たるほ)は、その作家デビュー作「一千一秒物語」(23)が日本ショートショートSFの始祖というべき作品
で、僕も小学生時代に初読して大いに感嘆した記憶があるが、他の作品はいささか“難解”で投げ出してしまい、以降読んでいない
ので、本書の書評には僕はあまり適任ではない。
 だが、本書は“ヒコーキ”の発達史として興味深く読めたし、かって“難解”と投げ出した足穂作品を改めて読んでみたくも
なった。
 足穂の世界の中で“ヒコーキ”の存在する場所を、「大地」「空中」「大空」と区分し、足穂に取って理想的な“ヒコーキ”の
存在場所は「空中」であり、その場所こそ現実と非現実、日常と非日常の中間地点であり、そうして足穂の作品世界もまさにその
ようなものであったのだという視点で読み解いていく、作家論の秀作である。


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