「白い恐怖」

発行・早川書房
 著者・フランシス・ビーディング
 訳者・山本俊子
 定価・1200円+税
 
松村清志


 


 ≪ポケミス名画座≫の8冊めは、あのヒッチコック映画の原作である。映画とはかなり違う。度々述べているようにこの所、本格
ミステリのマエストロ、ジョン・ディクスン・カー(別名・カーター・ディクスン)にはまって読みふけっているので、本書は発売
後1ヵ月余り、つんどくして置いたわけだが、読んでみて本書がディクスン・カーのある種の作品にきわめて近い題材を扱っている
のに驚いた。
 傑作というより他ない「曲った蝶番」(38)と、やや弱いがやはり魅力的な「疑惑の影」(49)といえばカーのファンなら判って
しまうが、まっ、そうした題材を古城を転用した精神病院に舞台を限定して展開しているのが、この小説なのだ。
(ついでに「疑惑の影」というのはヒッチコックに同名映画がありちょっとまぎらわしいが、カーの小説の方の原題はビロー・
サスピションである)
 さて、「エドワード博士の家」という原題を持つこの小説の発表は1927年と古いが、内容や題材の強烈さは古びていないどころか、
今でこそかえってアクチュアリティを持って感じられる。ジョン・ディクスン・カーがそのオカルト趣味によって“非現実”と
いわれてしまったのはひどい誤解であったという新本格派の意見に僕も同感なのだが、例えば僕たちのまわりには超能力者や心霊術師
がTVタレントとなり、新興宗教による犯罪が起こるという“現実”がある。
 カーの小説のように、本書もそうした“現実”をこそ踏まえて読まれるべきであり、決してただの古風なゴシック・ロマンでは
ない。ヒッチコックは原作を大きく改変してしまったが、今ならほぼ忠実に映像化できるであろうし、それは強烈なインパクトと
メッセージを持つであろう。僕なら、ラース=フォン・トリアーか石井聰亙に監督させてみたい。


戻る