「シネマの快楽に酔いしれて」
 

発行・清流出版
 著者・加納とも枝
 定価・1400円+税
 
松村清志




 
 90年代初頭には店名を「ジャン・ヴィゴ」としていた事もある、新宿の伝説のジャズ喫茶「スマイル」の名物ママ、加納とも枝さん
の遺稿集である。
 「ジャン・ヴィゴ」となっていた頃には、プロの映画人が数多く集まるお店として有名になっており、とも枝さんは「話の特集」
や「キネマ旬報」に映画エッセイの連載を初められていて、僕もその頃、ひそかに何度かお店を訪れてみた事もあった。
 本書は「話の特集」「キネマ旬報」のエッセイを中心に、その後もとも枝さんが書き続けてきた文章の中から、特にとも枝さんの
人柄が伝わってくるものが厳選して集められているといっていいだろう。
 1番好きなジャンルは「年上の女」もの、なるほど。少女時代から「年上の女」ものに出てくる大人の女性に憧れて、自身の年の
取り方の手本とし、長じて若者に対する大らかなキャパシティーを身に付ける。実にうまく年を重ねられた方であったのだ。
恐れ入りました。当時はため口きいてごめんなさい。
 そんなわけで、やはり「年上の女」ものについて書かれたエッセイが最も面白く、若者好きな方らしく、僕などそんな映画祭が
あった事すら知らなかった「国際学生映画祭」などに通って、こまめにコメントしているのには頭が下がった。あと、試写状を
もらってもやはり映画は映画館での主義の方だったらしく、映画館での人間スケッチや、全盛期の映画館描写などが面白い。
 もっともっと、「年上の女」ものの魅力や、映画館という“ハレ”の場の魅力や、あるいはPFFの新人監督作品の魅力など、色々と
語っていただきたかったと思った。あまりに早過ぎる逝去が惜しまれる。

 


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