「闇からの光芒 マフマルバフ 半生を語る」
発行・作品社
著者・ハミッド・ダバシ
序文・モフセン・マフマルバフ
訳者・市山尚三
定価・1800円+税
松村清志
今やアッバス・キアロスタミをしのいで世界が最も注目するイランの映画作家であり、娘のサミラもハナも、妻のマルジエ・
メシキニも映画監督という映画一家の長であるモフセン・マフマルバフが、その半生と芸術家としての営為のすべて、そして
イスラムとアメリカの現在・未来を語り尽くしたインタビューと、本書の著者でありイラン映画を英語圏に紹介する仕事に積極的
に関わっている在米イラン人、ハミッド・ダバシによる論文「マフマルバフの全体像」を収録した、全訳は日本が世界で初刊行と
なるという、マフマルバフ研究の為の貴重な1冊である。
まず、僕が本書を読んで良かったと思ったのは、マフマルバフが「見る・撮る」人である以上に「読む」人であったという事を
知る事が出来た点だ。
映画を作ったり脚本を書き始めたりする前に、小説や戯曲を1年半の間、毎日読んでいたし、84年には1年間映画を作らず、映画に
ついての本を読むことにして、映画に関する四百余冊の本を手に入れ、六ヵ月間朝から晩まで、これらの本を読む事に費やしたし、
映画を見るより本を読んだ方が多くを学べるとまで断言してもいる。
僕は一応、映画ライターを名乗ってはいるものの、他の評論家の方々や熱烈な映画マニアと比すると、それほど多くを見ている
わけではない。特に、映画本コーナーを始めてからというもの観賞本数は減少しているし、ミステリ読書にはまったりして、最近、
映画と読書の比重が逆転したりする時もあり、自己批判気味になったりもしていたので、ここでのマフマルバフの発言には大いに
勇気づけられた。
あと、うらやましいと思ったのは彼が女性に恵まれている点だ。幼少年期は母と祖母と母方の叔母からいくつもの影響を受け、
長じては妻と2人の娘とに支えられ、彼の周りにはいつも3人の女性がいる。このフェミニストぶりに、あるいは彼の作品の人気の
秘密を解く鍵が秘んでいるのではないか。
女性的な感性やものの見方を仮に「女性力」と呼んでみよう。「女性力」はマフマルバフ一家のキー・ワードとなるのではないか。
「女性力」を身に付ける為に、試写を見のがしてしまった娘のサミラとハナの監督作を見に、劇場に出かけねばなるまい。