「ピアニストを撃て」
発行・早川書房
著者・ディヴィッド・グーディス
訳者・真崎義博
定価・1000円+税
松村清志
昨年の東京ファンタで1回だけ上映されたジョナサン・デミ監督によるリメイク版「シャレード」(03)でラストをしめくくって
いたのはシャルル・アズナブールであった。まっ、リメイク版「シャレード」はジョナサン・デミが観客をエンターテインメント
する以前に、自己満足的にヌーヴェルヴァーグへのオマージュではしゃいでしまった珍作ではあったが、その中で本業は歌手で映画
への出演も多くはないアズナブールが大トリを努めてしまうほど、彼をヌーヴェルヴァーグのイコンのひとりに押し上げてしまった
のが、フランソワ・トリュフォー監督による「ピアニストを撃て」(60)という作品の存在であったのは説明するまでもないだろう。
本書はその原作小説の本邦初訳である。≪ポケミス名画座≫の10冊めだ。作者は同シリーズで「狼は天使の匂い」がすでに刊行
されているディヴィッド・グーディス、「狼〜」はセバスチャン・ジャップリゾによるかなり自由なアダプテーションによって、
映画と原作がまるっきり別物といっていいくらい違っていたが、本作は基本的には映画化作品とは大きな違いはない。
とはいっても、まだ青年であったトリュフォーの若々しい感覚による即興演出やユーモアで彩られていた映画と比べて、こちらは
シリアスでぐっと虚無的である。雪におおわれた夜の街、その白と黒の世界は両者に共通だが、映画の方はその両者がほど良く融合
してファンタジーに昇華されていたといった印象が強かったのに対して、こちらは純白を暗黒が飲み込んでしまうといった
ペシミズムに支配されているように思える。
映画の方に思い入れが強すぎるとその原作を後に読んだ時に失望する事もあるが、本書はトリュフォーの映画よりも精神的にずっと
大人であり、少なくとも失望させられる事はない。グーディスのダイムストアの哲学者とでもいいたい作風はジム・トンプソンに
匹敵する。
映画化された作品の多いディヴィッド・グーディスの小説はもっともっと訳されるべきだし読まれるべきである。