「テオ・アンゲロプロス シナリオ全集」
発行・愛育社
字幕・池澤夏樹
企画・紫田駿、掛尾良夫
定価・2800円+税
松村清志
アテネ・オリンピックのおかげで(?!)開催が実現した「テオ・アンゲロプロス映画祭」は東京での上映を好評のうちに終了し現在
全国順次開催中のはずだが、本書はひのギリシヤの巨匠、テオ・アンゲロプロスの長編処女作「再現」(70)からカンヌ映画祭パルム・
ドール「永遠と一日」(98)までの監督作品11本の採録シナリオを世界ではじめて1冊に収めた、アンゲロプロス信者のバイブルと
なりそうな本である。
ワン・ショット=複数シークエンスの演出で知られるアンゲロプロスの映画は初期の2本をのぞいてどれも上映時間が2時間以上、
3時間近くの野物が2本、4時間近くのものが2本あって、鑑賞するにはそれなりに覚悟と体力が必要だが、こうしてシナリオに
接してみると、どれもすらすらと読み飛ばしてしまえるのに驚いた。4時間近い「旅芸人の記録」(75)も、わずか1時間半ほどで
読んでしまえるのである。
そんなわけでアンゲロプロス゛長い、重い、難解゛といった先入観をもたされているであろうアンゲロプロス未体験者は、まず
シナリオを先に読んでみる事もよいのかも知れない。
ひと通りアンゲロプロス作品を体験した者でも、改めてシナリオを読んでみると、強靭で執着力のある根回しによって、必要以上
に画面に゛意味゛を見出そうとと論理武装していた事を自覚させられる部分があって、スクリーンに虚心に向き合う事の大切さに
改めて気づかされるはずだ。
僕は映画祭では通常のカット割りによる映画技法で撮られた「再現」(70)とアンゲロプロスのスタイルが確立された実質的な処女作
といっていい「1936年の日々」(72)を見せていただいたのだが、シナリオ全集を通読したら、他の作品も再現したくなって
しまった。特に、スクリーンでは期待はずれに思えた作品の方がシナリオでは面白く感じてしまうのだから困ってしまうのだ。
ともあれ、実質的な処女作「1936年の日々」は夏の映画であり、「永遠と一日」(98)も夏の映画であった事からも判るように、
作家としてのアンゲロプロスはさながら360度パンのようにひとつのサークルを閉じたとも思われる。最新作「ウィーピング・
メドウ(仮題)」での新境地を期待したい所だ。
本書は、そんなアンゲロプロスを予習・復習する為の貴重なテクストとしてロングセラーとなるべき価値のある本である。