「大島渚 1968」
発行・青土社
著者・大島渚
定価・2400円+税
松村清志
68年をピークとする日本が世界が最も熱かった時代━━映画作家、大島渚も熱かった。松竹を出て独立プロ「創造社」を設立。
韓国、ベトナム戦争取材を経て、反体制運動が最高潮を迎えた1968年、「」を携えカンヌ映画祭に乗り込むまでを、大島渚自らが
作品のテーマや個々の技法を詳細に語り尽くした1冊である。
作品としては、序章で「飼育」(61)「天草四郎時貞」(62)が、終章で「愛のコリーダ」(76)以降が、わずかにふれられているのみで、
メインに語られているのは大島が本格的に韓国人問題を取り上げ始めたTVドキュメンタリー「忘れられた皇軍」(63)から公開は翌年
2月となったものの68年の熱い新宿をヴィヴィットに捉えた「新宿泥棒日記」(69)までの作品群である、と僕には感じられるので
ある。
同時代 (60年代)に注目された海外作家に例えるならば、大島渚がゴダール、篠田正浩がリチャード・レスターだとしたら、吉田喜重
はアントニオーニに近い、というのが僕の印象である。
そうした意味で、気鋭の論客によるいくつかの論文が収められた本書に、故・石原郁子が参加出来なかった事が僕には何とも悔やま
れるのだ。木下恵介の助監督としてキャリアをスタートし、小津安二郎に反発しつつも誘われアントニオーニに共感していたらしい
吉田は、おそらく木下恵介とアントニオーニについての長編論文を発表している石原のお気に入りの作家と成り得ていたのでは
ないか。(ついでに言えば小津とアントニオーニはその一貫したスタイルが類似していると思う。)
書かれなかった論評についてくやんでみても仕方がないので先に進むが、こんな事を述べてみたのは本書に収録されている斉藤綾子
を始め多くの組員が他界しており、本書刊行後、時を得ずして渡辺文雄も亡くなってしまった事を思えば、もう少し早めに大島周込の
証人の証言を数多く集めておいて欲しかったとも思った。
巻末の「主要作品スタッフ/キャスト/ストーリー」で、僕の好きな「忍者武芸帳」(67)が抜け落ちてしまっているのは納得し
がたい。以前、某所で上映時間2時間20分ほどの「忍者武芸帳」が1時間40分ほどのプリントで上映されてしまった事もあって、
正確なデーターを残しておかないと、この作品がいずれはキワモノとして忘れ去られるのではないかという危惧ををおぼえた。それは
大島はむろん、本作で緻密な編集技法を示した浦岡敬一に対して非礼なのではあるまいか。